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第三話 魔法基礎講座

 夜の森は、静寂に包まれていた。

 木々の間をすり抜ける月明かりは地面に薄く広がる影をゆらゆらと揺れさせ、夜風は鋭さを増し、木々のざわめきはまるで人の息遣いのように響いていた。


「もうすぐ、川につくの……!」

「そうね、ノエル……あと少しよ……!」

「2人とも、怖がりすぎですよ!別に遭難したわけじゃないんですから」


 極度の怖がりであるセレナとノエルは、二人で身を寄せ合いながら私の後を付いてくる。


 私たちは、夕食後に無くなった水の補給を先生に頼まれて、近くの川岸に向かっていた。


そうだ、いいこと思いついた……


「あっあれ、見てください!」

 そう言って私はさっき来た道を指差す。


 セレナとノエルが振り向くが、もちろんそこには何もない。


「ちょっとフィオナ?何変なこと言って……」

 セレナが不審そうに前を向くが、もちろん、そこに私の姿はない。


「フィオナ、どこいったの!?」

 頼みの綱であった私という名の武器を失った二人は、案の定恐怖でその場に膝から崩れ落ちた。

 見つかるとマズいので、私は草むらの陰に完全に姿を隠す。


 すると今度は、辺りから明らかに何かが動いている、ガサガサという草木の音が聞こえ始めた。


 二人がパニックで動き回ってるのだろうか。見失わないことを願いながら、私は脅かすタイミングを見計らう。


「フィオナあああ、どこいったのぉおおお!」

「ノエル!落ち着いて!ここは冷静に……」

 パニックに陥った2人は、半泣きで叫び散らしている。


……なんか申し訳なくなってきたな、ここまで怖がるとは。


 そろそろやめてあげるか——。そう思いながら私は、できる限りの怖い顔で、二人の目の前に現れた。


「ばぁ!どう?驚いた?」

 私の姿を見た途端、安堵と驚きで二人はさらに泣きそうになる。


「……フィオナのばかぁあああ!」

「こんな所で……怖いじゃない!」

「えへへ、ごめんね?怖がってる2人を見たら、無性に驚かしたくなっちゃって……」

 二人は目尻を赤くしながら、私のことをぽかぽか殴ってくる。かわいい。


……だんだん威力増して来てない?結構痛いんだけど。あ、そういえば……


 私は、滅茶苦茶にビビり散らかしていた二人をからかおうと思い、話し始める。


「そういえば、途中でガサガサって音がしたけど、どんだけパニックで動き回ってたの?どこにいるかわからなくなるんじゃないか——って、私も怖かったんだけど!」

「え?私たち、2人で抱き合ってずっと座り込んでいたけど……」

「えっ?じゃあ、さっきの音って……」


 その瞬間、再び「ガサガサッ」と、明らかに私たち以外が発した音が辺りに響いた。


 私でも、セレナでもノエルでもない音の主——


「グルルルルルル……」


 唸り声を上げながら彼女たちの前に現れたのは、猪型の魔物。


 剛毛に覆われた体、異常に発達した牙、そしてその眼光は血のように赤く、ギラリとこちらを睨み続けている。


 私はその視線を感じ、ぞくりと身が凍るような感覚が背筋を走った。


 魔物は依然こちらを睨んだまま動かない。とりあえず、二人を連れて逃げないと。


「しっ!こういう時は静かにしないとダメなんだよ!そうそう、目を合わせないで、そのまま後退りして……」


「きゃああああああ!」


 突然、セレナが耐えられずに叫んだ。そのまま、拠点方面に向かって泣きながら走り出す。


 動き出したセレナに反応した魔物は、私とノエルには目もくれず、一直線に彼女に向かって突進を始めた。


「助けて、先生……!」


 突然、空気が震えた。気づけば先生がそこに立ち、両手に魔法陣を展開していた。


「先生!魔物が……」

「分かっている、少し離れていろ」


 そう言うと彼女は冷静に周囲を一瞥し、魔法を唱える。


「フレイヤ!」

 その瞬間、彼女の両手から炎が発生する。その炎はまるで生き物のようにうねりながら、一直線に魔物へと迫る。


 魔物はその場で全身を焼かれ、やがて力尽きて倒れ込んだ。


「みんな、無事か!?」

 先生が私たちに声をかける。


 私たちは、少し離れた茂みの裏から手を振りながら笑顔を見せた。


「大丈夫ですよー!でも、ちょっとだけびっくりしましたー!」

「先生!ありがとうございます!なんとか無事です!」

「せんせい、わたしたちたすかったのー!」

 先生が私たちに近づいて言う。


「お前たちが無事で何よりだ。しかし、予想していたよりも魔物が多い……今夜は簡易結界を張って、明日の朝には出発することにしよう」


「魔物は聞いてないですよぉ、先生!」

「ほんとに、こわかったの!」

「ほんとに……疲れた……」


 私たちがそう言うと、先生は静かに微笑みながら答える。


「ハプニングはあったが、もう少しで川だ。ついでに……」


 先生は倒した魔物を魔法で浮遊させながら言う。

「せっかくだ、こいつは干して保存食にしよう。こいつは『グランボ』と言って、意外と旨いんだ」


 私たちは川で水を汲み、キャンプに戻って来て寝る支度を始める。


 皆がベッドに入った頃に、私は先生に向けて一つ質問をした。


「そういえば、さっきの先生の魔法、すごかったですね!どうやってやるんですか?」

「そういえば、お前たちに教えていなかったな、魔法の使い方を」


 この世界では、「魔法の使用」そのものが18歳の成人からのみしか許されていない。

 先生曰く、過去に子供の悪ふざけで大量の危険呪文が使用され、死傷者が多発したからだという。先生は続ける。


「では、明日は予定を変更して魔法の基礎練習でも行うか」

「はい!楽しみです!」


 先生の言葉に、私は興奮気味にそう言う。

 初めての魔法訓練。

 期待に胸を膨らませながら、私はゆっくりと眠りにつく。


——そして、夜が明けた。


「さて、行くぞ。」


 私たちは簡単な朝食を済ませ、荷物をまとめて出発した。

 目的地は、拠点から少し離れた所にある開けた草原。魔法の練習にうってつけの場所だ。


 朝の澄んだ空気を吸い込みながら、私たちは歩を進める。

 やがて視界が開け、見えてきた草原には心地の良い風が吹き、朝日が煌めいていた。


「ここなら、思いきりやれるな。」

先生が足を止め、私たちの方に振り返る。


「では、始めるぞ。」

 私たちは緊張と期待を込め、先生を見つめた。


 先生は深呼吸を一つしてから、ゆっくりと私たちに向き直った。


 真剣な表情を浮かべると、手を軽く振り上げながら話し始める。


「魔法を使う時の第一ステップは魔力を『集める』ことだ」


 そう言って先生が振り上げた腕を下げると、彼女の腕の周りに赤くキラキラした粒子状のものが発生する。


「大気中の『魔力』は、『火、水、草、風、土』の五大属性が混在した状態で存在している。私の場合、属性は『火』だから、この中から火属性の魔力を抽出した状態——火属性の魔粒子を司る色である『赤色』に辺りの魔粒子が発光する。」


 そう言うと先生は、その粒子を手で覆い始める。


「次に、この魔力を魔法に変えるために、手のひらを通してこの『魔粒子』を脳内器官の『魔核』に送り込んで魔粒エネルギーに変換する」


 先生が手で覆った魔粒子は皮膚の内側で発光し始め、彼女の腕、首を伝って頭の方に向かっていく。


「その後、変換したエネルギーを再び手に送り込んで……」


 脳に送り届けられた魔粒子は、頭の辺りで絶えず発光している。

 それは魔粒エネルギーへと姿を変えてさらに強く発光し、再び彼女の首、腕を伝って手の中で発光を続けた。


「この状態で前方に魔力を押し出すイメージで手を開くと、エネルギーを使って『魔法』が出る」


 彼女がぱっと手を開くと、そこから小さな火が発生した。


「このように、『魔力の抽出による魔粒子の精製』『魔粒子を魔粒エネルギーに変換』『魔粒エネルギーを魔法に変換』『魔法を行使する』と言う4工程で『魔法』は成り立っている。

また、この作業を簡略化する方法、それを「魔術式(マジックエンチャント)」と呼ぶ」


 そう言って彼女は、昨夜、魔物相手に使用した魔術式——フレイヤを唱える。

 唱えた直後、目の前に全てを焼き尽くすような大きな炎が出現した。


 エリィの説明が終わると、私たちはそれぞれ興奮しながら自分の手のひらを見つめた。


 初めての魔法行使に向け、私たちは胸の高鳴りを抑えきれそうになかった。


「じゃあ、実際にやってみろ。」

 先生が腕を組んで言う。私たち四人は、一人ずつ順番にやってみることになった。


〜ミラの挑戦〜


「最初はあたし!」

 ミラが意気揚々と一歩前に出る。


「魔力を集めるんだよな……」

 彼女は目を閉じ、深呼吸をした。


 大気中の魔力を感じ取ろうと意識を研ぎ澄ませる。 しかし、彼女の周りには何の変化もない。


「うーん、どうすれば……」

「焦るな。自分が成功した時をイメージしろ」


 先生の助言に頷いたミラは、再び集中する。

 すると、彼女の周囲に青い輝きがちらつき始めた。


「青……ってことは、水?」

「そうだな、お前には水属性の適性があるみたいだ」

  ミラが嬉しそうに頷くと、先生が続ける。


「じゃあ、その水属性の魔粒子を集めろ。周囲の魔力を自分の中に引き込むイメージだ」

「わかった!」


 ミラが手をかざすと、青い魔粒子がゆっくりと手のひらに集まり始めた。しかし、次の工程——魔粒子を魔核に送り込む段階で、彼女は苦戦する。


「んんっ、なかなか動かない……」

「無理に押し込もうとするな。落ち着いて、魔粒子の『流れ』を見るんだ」


 ミラは力を抜き、その流れを意識しながら目を瞑った。すると、魔粒子は彼女の腕、首を伝い、魔核へと送り込まれた。


「やった!」

 変換された魔粒エネルギーが彼女の手へと戻り、次の瞬間、ポンッと小さな水の球が生まれる。


「やったー!……あれ、小さい?」

「最初はそんなもんだ。慣れればもっと大きくできるさ」

 ミラは、先生のその言葉に満足げに頷き、次の挑戦者へとバトンタッチした。


〜セレナの挑戦〜


 次に前へ出たのはセレナ。


「ん……ミラのやり方を見てたから、大体は理解したつもりです」

 セレナが手をかざすと、彼女の周囲に淡い緑色の輝きが漂い始めた。


「草属性か」

「では、やってみます」


 彼女は迷いなく魔粒子を集め、魔核へと送り込んだ。ミラよりもスムーズに変換が進み、わずか数秒で魔粒エネルギーを手に戻すことに成功する。


「は、早っ!」

 ミラが驚く中、セレナの手のひらから、小さな芽がポンッと飛び出した。


「おおっ!」

「うん、悪くないな。次だ」

 その言葉にセレナは満足げにに頷き、静かに後ろへ下がった。


〜ノエルの挑戦〜


「つぎ、わたしがやるの」

 ノエルが緊張しながら前に出る。


「ふたりともできたんだし、わたしだって……!」

 彼女が胸に手を当てると、辺りの空気がざわめき始めた。そして、白色の魔粒子が彼女の周りを舞い始める。


「風属性……なるほどね」

 彼女はすぐに魔粒子を集め、魔核へと送り込む。しかし、変換の途中で急に魔粒エネルギーが暴走し始めた。


「え、なにこれ!?」

 突然、強風が巻き起こり、周囲の草木が激しく揺れる。


「落ち着け!」

 エリィが叫ぶが、ノエルはどうしていいかわからず、混乱する。


「とにかく手を閉じて、一度エネルギーを押さえ込め!」

 言われるがまま、ノエルは手を握りしめる。すると、暴走しかけていた風の力が次第に収まっていった。


「ふぅ……危なかった」

「勢いが強すぎたな。だが、適性は高そうだ」

 エリィは少し感心したように頷いた。

 ノエルは失敗に落ち込んでいた。

 しかし、次こそは成功させてみせるという闘志を、彼女はめらめらと燃やしていたらしい。


「つぎは、ぜったいせいこうさせるの!」

ノエルは元気よく、そう言った。


〜フィオナの異変〜


「じゃあ、最後はフィオナだな。」

 私は静かに前へ出る。


 私は、嫌な予感がしていた。——何かが起こる、そんな予感だ。


「……できるかな。」

 私が手をかざすと、それは的中した。


「え……?」


 私の周囲に、赤、青、緑、黄、白——五色の魔粒子が同時に発生したのだ。


「な、なんで!?」

 私が驚く横で、先生は大きく目を見開く。


「……まさか」


 私は無意識のうちに五属性の魔力を同時に引き寄せ、精製していた。

 しかも、自分でも驚くほど、異常に変換速度も速い。


「これは……?」

「フィオナ、お前……五属性を同時に使えるのか?」


 エリィの問いに、私は困惑しながらも小さく頷いた。


「わからない……でも、できるみたい」

「……すごいじゃん、フィオナ!」


 私は驚きつつも、その現象に喜んでいた。

 しかし、先生だけは複雑な表情を浮かべていた。

 しばらくして、喜ぶ私たちの会話を遮るように先生は言った。


「フィオナ」

「どうしたんですか?先生」


「……よく聞いてくれ、フィオナ。お前はしばらく魔法を使うな」


一話から少し更新の期間が空いてしまったので、2、3話同時更新になります!何故、フィオナはエリィから突然魔法禁止命令を出されたのか……!次話にご期待ください!

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