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未来の欠片  作者: なる
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未来の欠片

前書き


この物語は、未来を見通す力を手にした一人の少年が、自らの選択によって未来を変えようとする物語です。

技術が発展し、便利さを追求する一方で、私たちはその裏にある危険やリスクを見落としてしまうことがあります。本作では、そんな現代社会の課題と向き合いながら、若者たちが未来への責任と希望を見つけ出す過程を描きました。


主人公が目にする「未来の欠片」は、単なる予知ではありません。選択によって無数に分岐する未来の可能性を示しています。物語を通じて、人はどんな状況でも選び続けることができるというメッセージを伝えたいと思っています。


読者の皆さんにも、彼らと共に自分自身の選択について考えていただければ幸いです。未来は決して決まっていません。あなたの手で描く未来が、誰かの希望となることを信じて。


著作


タイトル:未来の欠片かけら


プロローグ


僕たちの街では、18歳になると「未来の欠片」が渡される。それは、未来の自分の人生から切り取られた、たった一日の記憶だ。誰もがそれを手にして、自分の人生の選択に向き合う。


ある人は華やかな成功の日々を目にし、希望に胸を躍らせる。別の人は静かな家庭の日常を見て、安らぎを選ぶ。だが、僕が見たのは違った。


「その日」僕は、一面の荒野に立ち尽くしていた。瓦礫の山と、灰色の空。そこには誰もいなかった。ただ、冷たい風が吹き抜けるだけだった。


この景色が意味するものは何なのか?僕が選んだ道が、すべてを破壊した結果なのか。それとも、この未来を変えるために行動するのが僕の使命なのか。


18歳になったその日、僕の心には一つの問いだけが残った。

「未来は変えられるのか?」

第1章:未来の欠片


僕が18歳になった日、特別な封筒が家に届けられた。白い厚紙に「未来庁」の印が押されている。それを見た瞬間、心臓がドクンと高鳴る。いよいよ、自分の「未来の欠片」と対面する時が来たのだ。


封筒を慎重に開けると、中には薄い透明なディスクが1枚だけ入っていた。僕はそれを手に取ると、深呼吸をして未来を見るためのデバイスにセットする。


「準備ができたら、再生ボタンを押してください」と、冷静なアナウンスが流れる。


心の中で何度も自問する。「本当にこれを見ていいのか?」

だが、躊躇する時間はない。僕は意を決してボタンを押した。


目の前のスクリーンに、未来の僕が映し出される。最初は静かな風景だった。曇った空、冷たい風が吹きすさぶ荒野。そして、僕はその場に一人立っていた。どこか遠くで瓦礫の崩れる音がする。


「なんだ、これ……」


未来の僕は疲れ切った顔をしていた。何かを失ったような、何もかも諦めたような表情だ。その場に膝をつき、頭を抱える。そして、画面は暗転した。


たったこれだけ。たった一日の記憶。それなのに、僕の胸には恐ろしい不安が渦巻いていた。この未来が何を意味しているのか、全く理解できない。


「俺の未来、こんなはずじゃない……!」


画面を睨みつける僕の背後で、母が静かに言った。


「ユウタ、未来は自分で変えられる。欠片はあくまで一つの可能性に過ぎないのよ」


その言葉は耳に入らなかった。僕はただ、自分の未来が崩壊に向かうその理由を知りたかった。そして、それを防ぐために何をすべきかを。


「絶対に、こんな未来にはさせない」


その日から、僕の新しい挑戦が始まった。

第2章:予兆との出会い


未来の欠片を見てから数日間、僕の頭の中はその光景でいっぱいだった。あの荒れ果てた世界、そして未来の僕の絶望的な姿。原因も分からないまま、ただ焦りと不安だけが募っていく。


そんなある日、学校の帰り道で、僕は奇妙な人物に出会った。夕暮れの街を歩いていると、商店街の端に古びた雑貨店が目に入った。その店は今まで気づかなかった場所にあり、窓越しに薄暗い店内が見える。


何かに引き寄せられるように、僕は店のドアを押し開けた。中は雑然としていて、古い時計や本、見たこともない道具が並んでいる。その中央に、年齢不詳の男が立っていた。銀髪で痩せた体つき、鋭い目がこちらを見つめている。


「おや、君も『欠片』を見たんだな」


その一言に、僕は息を呑んだ。


「どうしてそれを……?」


「この店に来る者はみなそうだ。未来に怯える者、未来を変えたいと願う者、そして――未来を選ぶ者だ」


彼の言葉に僕は困惑した。どうしてこの人が僕の状況を知っているのか。そして「未来を選ぶ」とはどういう意味なのか。


「君の欠片、どんな未来を見た?」と彼は静かに尋ねた。


僕はためらいながら、あの荒野の光景を話した。話し終えると、彼は頷き、棚の奥から一冊の古い本を取り出して僕に手渡した。


「この本を読め。そして、自分の未来がどうしてそうなったのかを見極めるんだ。この本には、未来を変えるための鍵があるかもしれない」


本の表紙には何も書かれていなかった。ただ、手に取ると薄いページが風に揺れるような感触があり、かすかに暖かかった。


「未来を変える…」


その言葉を胸に刻み、僕はその本を持ち帰ることにした。そして、この不思議な出会いが、僕の運命を大きく変えることになるとは、この時まだ気づいていなかった。

第3章:本の秘密


帰宅後、僕はその古びた本を机に置き、しばらくじっと見つめていた。表紙には何も書かれておらず、中身もただの白紙なのではないかと思えるほど無機質だった。しかし、あの店主の言葉が頭から離れない。


「この本には、未来を変えるための鍵があるかもしれない」


意を決して本を開く。最初の数ページはやはり白紙だった。しかし、数ページめくったところで、突然文字が浮かび上がった。それは、未来の出来事を記録したような不思議な文章だった。


「2054年5月15日。街の中心部でエネルギータンクが爆発。数百人が負傷、甚大な被害が発生。原因は新型エネルギーシステムの暴走とされる。」


僕は目を見開いた。それは僕が未来の欠片で見た光景そのものだった。あの荒野は、街が壊滅した後の姿だったのだ。


「やっぱり…俺が何か大きな間違いを犯すんだ」


ページをめくる手が止まらない。本には次々と出来事が記されていた。それは僕がこれから出会う人々や、選択する出来事の詳細だった。だが、途中のページに到達したとき、不意に文字が消えた。そこには短い一文だけが残っていた。


「選択次第で未来は変わる。お前次第だ。」


本は再び白紙に戻った。僕は手のひらに汗をかいていることに気づく。どうやらこの本は、僕が未来に影響を与えることを確信しているらしい。でも、それがどういう意味を持つのかはまだわからない。


その夜、僕は眠れなかった。エネルギータンクの暴走を防ぐにはどうすればいいのか。そして、その未来を避けるために、何を選択しなければならないのか。思考は堂々巡りを続けた。


翌朝、学校に着くと友人のアキラが駆け寄ってきた。


「ユウタ! 例の新エネルギーシステムの説明会が今日あるらしいぞ。行ってみないか?」


その言葉に、僕はハッとした。このシステムが、未来の欠片に映っていたものと関係があるのかもしれない。偶然ではない。すべてが、あの本の指し示す運命の一部なのだろう。


「行く。俺もそれに参加するよ」


僕はそう答えた。その瞬間、自分の中で何かが動き出すのを感じた。


「未来は変えられる。そのためには、今動き出さなければならない」

第4章:揺れる選択


エネルギーシステムの説明会は、街の中央ホールで行われた。会場に足を踏み入れると、そこにはすでに多くの人が集まっていた。科学者、エンジニア、市民代表――みんな新しい未来への期待を胸に集まっているようだった。


壇上に立つのは、このプロジェクトの中心人物である榊原教授。白髪混じりの髪をかき上げながら、彼は自信に満ちた声で語り始めた。


「この新型エネルギーシステムは、街の未来を劇的に変える可能性を秘めています。クリーンで効率的、そして持続可能なエネルギー源。これが稼働すれば、街は活気を取り戻し、次世代のモデル都市となるでしょう」


会場は拍手で包まれた。しかし僕の心は重かった。未来の欠片、本に書かれた爆発の記録、それらがこのシステムに繋がっているのは明らかだった。


説明会が終わり、参加者が次々に会場を後にする中、僕は壇上に向かって歩み寄った。榊原教授に話を聞かなければならないという強い衝動に駆られていた。


「教授、少しお時間をいただけますか?」


榊原は少し驚いた様子だったが、僕を脇に連れて行き、小声で言った。


「君はユウタ君だね。以前、エネルギー研究のリポートを提出していたね。未来庁の推薦で読ませてもらったよ。興味深い内容だった」


突然、自分の名前が出たことに驚く。


「え、僕のことを知ってるんですか?」


「もちろんだ。このプロジェクトに関心を持つ若者は少ないからね。だが、なぜそんなに不安そうな顔をしている?」


僕は一瞬ためらったが、意を決して未来の欠片で見た光景と本のことを話した。教授はじっと耳を傾け、やがて静かに頷いた。


「君が見た未来が本当だとすれば、このシステムには何か致命的な欠陥があるのかもしれない。しかし、もしそれを事前に見つけられるなら、君はこの街を救える存在だ」


「でも、どうやって?」


「プロジェクトに参加しなさい。システムの内部を知ることができる。そして、もし問題があれば、それを改善する道も開けるだろう」


その提案に僕は揺れた。未来の欠片に映った惨事を防ぐためにプロジェクトに関わるべきなのか。それとも、システム自体を止めるべきなのか。


その夜、僕は例の古びた本を再び開いた。しかし、新しい情報は現れない。白紙のままのページを見つめながら、僕は自問する。


「この選択が、未来を変えるための正しい一歩なのか?」


次の日、僕は教授に連絡を取り、プロジェクトへの参加を決意した。これが未来を変えるための第一歩だと信じて。

第6章:別れ


プロジェクトに参加してから数か月が経った。システムの開発は順調に進んでいるように見えたが、僕の胸には常に不安が渦巻いていた。未来の欠片に映ったあの爆発――それが頭から離れない。


そんなある日、プロジェクトのメンバーであり、親友のアキラが僕のもとに駆け込んできた。


「ユウタ、大変だ!システムのテスト結果に不安定なデータが出てる。暴走の危険性があるかもしれない」


やっぱりか、と思った。アキラは僕にとって信頼できる唯一の味方だった。このプロジェクトに参加するよう誘ってくれたのも彼だ。


「教授には報告したのか?」


アキラは困ったような表情で首を振る。


「いや…まだだ。だけど、これ以上テストを続ければ、未来庁から圧力がかかる。システムは完成間近だと発表されてるから、止めるのは難しい」


僕は深く息をつき、決断の時が来たことを悟った。


「アキラ、俺たちで何とかしよう。このままじゃ街が危ない」


その夜、僕たちはプロジェクトのデータを改めて精査し、致命的な欠陥を突き止めた。もしその部分を修正せずに稼働すれば、未来の欠片で見た爆発が現実のものになる。


翌日、僕は教授にデータを見せ、システムを停止すべきだと直訴した。しかし、教授の反応は予想以上に冷たかった。


「ユウタ、これ以上プロジェクトを遅らせるわけにはいかない。街の期待を背負っているんだ。このデータは誤差の範囲内だ」


その言葉に絶望しそうになる僕を、アキラが肩を叩いて支えてくれた。


「ユウタ、俺たちだけでこのシステムを止める方法を探そう。まだ間に合うはずだ」


そして、運命の日が訪れる。新型エネルギーシステムの稼働式が迫る中、僕たちは最後の手段としてシステムの強制停止を計画した。しかし、その直前、アキラは僕の前に立ちはだかった。


「ユウタ、俺はここで降りる」


「何言ってるんだよ!? お前がいないと無理だ!」


アキラは苦しそうに目を伏せた。


「俺は自分の未来の欠片を見てしまったんだ。それには、俺がプロジェクトを成功させる姿が映ってた。だから…俺は信じたい。このシステムが街を救う未来もあるって」


「アキラ……」


言葉が出ない。僕たちの目指す未来が、ここで分岐してしまう。アキラは僕に微笑みを向けると、静かに背を向けて歩き出した。


「ユウタ、どんな未来でも、お前が信じる道を選べ。俺も俺の道を進む」


その背中が遠ざかるのを、僕はただ見つめるしかなかった。


その夜、僕は一人でシステムの強制停止を実行する準備を進めた。アキラとの別れは痛かったが、僕にはもう迷いはなかった。たとえどんな未来が待っていようとも、僕は自分の選択を信じるしかない。


第7章:決断の果て


深夜の研究施設は静寂に包まれていた。僕はコンソールの前に座り、システムの強制停止プログラムを実行するための最終コードを入力していた。指先は震えていたが、迷いはなかった。


「この選択が未来を変える一歩になる……」


ふと、遠くの廊下から足音が聞こえてきた。振り向くとそこにいたのは榊原教授だった。険しい表情でこちらに向かって歩いてくる。


「ユウタ、何をしている?」


その声には怒りと失望が混じっていた。教授は僕の横に立ち、厳しい目で見下ろした。

「君の行動が何を意味するのか分かっているのか?このプロジェクトを止めれば、多くの人の期待を裏切ることになる」

僕は視線を外さずに答えた。

「分かっています。でも、それ以上に街を守る方が重要です。教授だって、本当は気づいてるはずです。このままではシステムが暴走する」

教授はため息をつき、しばらくの沈黙の後、口を開いた。

確かに君の言うことにも一理ある。しかし、私は信じたいんだ。この技術が人々を救う未来もあると」


「その未来を試すために、街全体を賭けるんですか?」


教授の目がわずかに揺らいだ。その瞬間、僕は彼もまた葛藤していることを悟った。彼もまた、未来を信じたいだけの一人の人間に過ぎないのだ。


「ユウタ……」


教授が口を開こうとしたその時、施設全体が微かに振動した。メインシステムが稼働を始めたのだ。画面に赤い警告が次々と表示される。


「システム過負荷。緊急停止を推奨。」


僕は最後のコードを打ち込んだ。教授はそれを止めようとする素振りを見せたが、結局何も言わなかった。ただ静かに目を閉じていた。

「これで……終わるんです」

僕がエンターキーを押した瞬間、全システムが停止し、施設内の警告音も静寂に包まれた。外はまだ暗いが、街の灯りが徐々に戻り始めている。

僕は施設の外に出ると、遠くにアキラの姿を見つけた。彼もまた、こちらを見ていた。お互いに何も言わず、ただ視線を交わす。僕たちの選択は違ったが、それぞれが自分の信じる道を進んだのだ。

アキラが静かに背を向けて去っていくのを見送り、僕は夜空を見上げた。未来はまだわからない。だが、この選択が新しい希望への一歩だと信じている。

第8章:新たな夜明け


翌朝、街は何事もなかったかのように静かだった。しかし、僕の中では何かが変わっていた。あの夜の選択が未来をどう変えたのか、それを知る術はまだない。だが、これまで見てきた未来の欠片に映る荒廃した世界は、もう頭に浮かばなかった。


数日後、プロジェクトは正式に中止となった。システムの不安定性が公にされ、榊原教授も記者会見でその責任を認めた。だが、彼の表情にはどこか安堵の色が見えた。


「今回の失敗は、未来への教訓となるだろう。我々は次の世代に、より安全で持続可能なエネルギーを託すつもりだ」


教授のその言葉に、僕は静かにうなずいた。未来を変えるための選択は、時に大きな痛みを伴う。それでも、選び続けることが重要なのだと改めて感じた。


ある日、僕はアキラと再び顔を合わせた。街の公園で偶然会ったのだ。彼は少し驚いたようだったが、すぐにいつものように笑った。


「ユウタ、元気そうだな」


「アキラもな」


僕たちはベンチに座り、しばらくの間何も言わずに過ごした。それぞれの選択を経て、今ここにいる。そのことに言葉以上の重みがあった。


やがて、アキラがポケットから何かを取り出した。それは、小さな機械の設計図だった。


「新しいプロジェクトを考えてるんだ。これなら安全で、街のエネルギー問題を解決できるかもしれない」


彼の目には、未来への希望が輝いていた。その姿を見て、僕は自然と微笑んだ。


「手伝うよ。二人ならきっと、もっといい未来を作れる」


僕たちは再び歩き出す。それぞれが選んだ道は違っても、共に未来を作るという思いは同じだ。過去の失敗や別れも、すべてが新たな一歩を支えてくれる。


そして、遠く東の空が明るくなり始める。新たな夜明けが、未来への希望を照らし出していた。



後書き


最後までこの物語を読んでいただき、ありがとうございました。


この物語を書こうと思ったきっかけは、「選択」というテーマを深く掘り下げたいと感じたからです。日々の小さな選択から、人生を大きく変える決断まで、私たちは無数の選択に囲まれて生きています。その選択一つひとつが未来を形作る――そんな当たり前のようでいて重たいテーマを、少しでも物語を通して伝えられたなら幸いです。


主人公のユウタやアキラが経験した葛藤や成長は、現代を生きる私たちにも通じるものがあると感じています。未来は確定されたものではなく、自分たちの手で作り上げていくものです。この物語を読んでくださった皆さんが、自分の選択に向き合い、前を向いて歩む力を感じ取っていただけたらと願っています。


これからの人生でも、迷いや困難は避けられないかもしれません。それでも、自分を信じ、一歩ずつ前に進んでいく。そんな小さな勇気を、この物語が与えられたなら、書き手としてこれ以上の喜びはありません。


再びページをめくっていただける日を心待ちにしています。


著者

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