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黒猫は語る


「このアズールの過去、未来、そして現在……すべて、ご主人様の思うままに書き換えることが可能です。しかし、ここは”執筆部屋”のスキルの影響下にある別次元の空間。物語の書き換えや加筆、削除を行うことができるのは、“執筆スキル”と”フォトン文字”の力によるものです」


「——ッッ!?」


思わず息をのむ。


(執筆スキル……フォトン文字……。そんなものを持っているなんて、まるで——いや、まるで神じゃないか?)


「嘘だろ……そんなスキル、神みたいなもんじゃないか。どうして俺なんかが、そんな力を持ってるんだよ……」


理解が追いつかない。俺はごくりと唾を飲み込み、額に手を当てた。こんな力があるなら、なんでもできるんじゃないのか? それこそ、世界を創り変えることすら——。


「それは、ご主人様だからじゃないですか?」


俺の混乱をよそに、シュレはまるで当然のことのように言い放つ。その小さな黒い耳がピクンと動き、金色の瞳がじっと俺を見つめる。


「……えっと、もうちょっと詳しく説明してくれないか?」


「にゃー、では、まずはアズールという国の歴史についてお話ししましょう」


俺は無言で頷く。ここで止まっている場合じゃない。まずは話を聞こう。


シュレは少し背筋を伸ばし、静かに語り始めた。


「かつてアズールには、“超巨大高度文明”として繁栄を極めた国家がありました。その文明はアズール全土を統治し、比類なき技術と知識を誇っていたのです。


——魔法を科学と融合させた技術、“魔導機関”。

——空を支配する巨大都市、“天空城塞”。

——生命を操る禁忌の研究、“転生計画”。


それらはすべて、今より遥かに進んだ技術によって支えられていました。


しかし——ある時代、突如として”ブラックアウト”が発生し、文明は滅びました。


都市は崩壊し、魔導機関は機能を停止し、転生計画もすべての記録が闇に葬られました。何が起こったのか、正確な記録はほとんど残されていません。ただ、確かなのは、その出来事を境に”世界が分裂した”ということです」


「……分裂?」


「はい。かつて統治されていた国家は消え、思想や価値観の異なる複数の国へと分かれました。


ある国は、魔法を信仰の一環とし”神の奇跡”と呼ぶようになりました。

ある国は、魔法を戦争の道具とし、“魔導兵器”を生み出しました。

ある国は、魔法を完全に禁じ、“古代の呪い”として封じ込めました。


こうして世界はバラバラになり、それぞれが独自の文化を育むことになったのです」


「……なんだ、それ。すげぇ深い話をしてるな……」


俺はシュレの話に圧倒されながらも、疑問を抱いた。


「でも、それって俺とは関係ないんじゃないか?」


「まだ続きがあります」


「そうか、悪いな。早とちりだった。話を続けてくれ」


俺は手を合わせて軽く謝る。シュレは小さく頷き、さらに言葉を紡ぐ。


「では、ご主人様に質問です。なぜ、文明が滅んだにも関わらず、今も魔法やスキルが使えるのでしょうか?」


「……確かに。滅んだ文明の技術なら、とっくに失われててもおかしくない」


「その理由は、このアズール全体に”高度な空間技術”が今なお残されているからです」


「……く、空間技術……?」


耳慣れない言葉に、俺は思わず眉をひそめる。


シュレは軽く尻尾を揺らしながら続けた。


「魔法やスキルは、かつての高度文明が生み出した”フォトン領域”の影響を受けて存在しています。フォトン領域とは、この世界を覆う”見えないエネルギーフィールド”のことです。これにより、魔法はあたかも自然現象のように作用し、スキルはあたかも個々の才能のように発現するのです」


「つまり、魔法やスキルは、昔の文明が作り出した技術の”副産物”みたいなものってことか……?」


「その通りです。そして、ご主人様が使える”執筆スキル”と”フォトン文字”もまた、このフォトン領域に干渉する力を持っています。だからこそ、ご主人様は物語を書き換えることができるのです」


「……なるほど、そういう理屈か……」


少しだけ理解が追いついてきた。しかし、それでもまだ納得しきれない。俺は腕を組み、シュレをじっと見た。


「でも、それなら余計におかしいだろ? 俺がこんな力を持ってるのは、どう考えても不自然じゃないか?」


「はい。その答えは——“まだ明かされていません”」


「……え?」


シュレは静かに俺を見つめる。その瞳の奥に、何かを秘めたような光が宿っているように感じた。


(“まだ明かされていない”……? それは、俺がこの先知るべきことがあるってことか?)


思わず拳を握る。


「ご主人様。この世界は、まだほんの一部しか見えていません。これから、もっと多くの”真実”を知ることになるでしょう」


俺はゆっくりと息を吐き、シュレの言葉を噛みしめる。


——俺がこの力を持つ理由。

——この世界に隠された”真実”。


まだ何も分かっていない。だが、進まなければならない。


「……分かった。俺は、この力の意味を知るために動く」


「にゃー、それでこそご主人様です」


シュレは満足げに笑い、尻尾をふりふりした。

いつもお読みいただきありがとうございます。皆さまからのブックマークや高評価が、執筆の大きな励みになっています。これからも楽しんでいただけるよう精一杯書いていきますので、引き続き応援よろしくお願いします!

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