ステータス閲覧
——静かな風が吹いていた。
目を覚ますと、そこには深い森が広がっていた。
透き通った空気、木漏れ日が作るまだらな光、遠くで響く川のせせらぎ。
さっきまでの荒廃した世界とはまるで別物だ。
「……ここは……?」
ゆっくりと身体を起こし、周囲を見渡す。
どこまでも続く木々、そして小鳥のさえずりが耳に心地よい。
(あのローブの男が言っていた“安全な場所”ってのは、ここか?)
疑念を抱きつつも、とりあえず状況を整理する。
まず、俺は“アズール”と呼ばれる世界に飛ばされ、異形の化け物と対峙し、琴葉と再会し、謎の双子——アストレリカとその兄と出会った。
彼らは“修復者”と名乗り、“アレ”を探しているらしい。
(……情報が多すぎて、整理が追いつかねえ……)
だが、確実にわかることが一つある。
俺はまだ、何もわかっちゃいないってことだ。
「さて……どうするか。」
まずはこの森を抜けるか、それとももう少し情報を集めるべきか。
無闇に動いて危険な目に遭うのも避けたいが、じっとしていても状況は変わらない。
「よし、一旦この辺を散策してみるか。」
安らげるような場所を探しつつ、周囲の情報収集をすることにした。
しかし、どこまで飛ばされたのやら。
失われた王国から、ここまでどれくらいの距離があるのかも見当がつかない。
(異世界といえば、ステータスみたいなものは見れないのか? そういうのがつきものだと思うが……)
半ば冗談半分で、試しに口に出してみる。
「ステータスオープン。」
——ブォン。
突如、目の前にホログラムのような光のパネルが浮かび上がった。
「……マジか。」
驚きつつも、俺は慎重に目を通していく。
【ステータスウィンドウ】
**【記述の権能】**
『条件をクリア後再書換え可』
名前: 上浦 仁
レベル: 1
体力: 30
魔力: 5
筋力: 5
敏捷: 10
耐性: 30
特性スキル
《執筆》
《執筆部屋》
《記号》
《フォトン文字》
称号
《終末者》
《万華鏡》
「へぇ……なかなか面白いな。」
ステータス画面をじっくりと眺める。
スキル名や称号の意味はまだ分からないが、明らかに普通のRPGとは違う要素が多い。
(特に……これだな。)
**【記述の権能】**の説明文に目が留まる。
『条件をクリア後再書換え可』
「……どういうことだ?」
まるで、何かの条件を満たせば能力を書き換えられるような表記だ。
普通、ステータスって固定じゃないのか?
まるで俺自身が“書き換えられる”ような……。
「まあ、考えても仕方ないか。」
それにしても、体力と耐性だけ異様に高い。
ブラック企業での激務が反映されているのかもしれない。
思わず自嘲気味に笑ってしまう。
「まあ、最初にしては……悪くないか。」
そう呟くと、俺は再びホログラムを閉じた。
「……さて、試しに執筆部屋でも使ってみるか。」