歯車は回り始める
「修復者って何だ?」
改めて問う。
「それは、あなたが”記述の権能”を行使できるようになってから教えるわ……♡」
——その身体に実った豊満なものが、ぶるんと揺れる。
「ここまで連れてきておいて、それはないだろ」
ローブの男は静かに答えた。
「そうだな……強いて言うなら、“在るべきものを在るべきところに戻す”……そんなところだ。」
「抽象的すぎてわからん……」
俺は思考を巡らせる。
(異世界に来て、銀髪赤眼のおっさんと化け物と対峙して、そんでまた気絶して、やっと会えた琴葉は黒装束で………こいつらは……)
俺は、あらゆる角度でシナリオを組み立てた。
そんなことはない……と思いつつも。
「あなたが思ってることで正解よ♡」
そう、見透かすように言われる。
心の内を読まれているようで、思わず身が引き締まる。
——だが。
「じゃあ、お前らは神だってことだな?」
(目の前の二人は、人間のようでいて、決して人間ではない何か……それは、出会った瞬間から感じていたことだ。)
「……そうだな。」
ローブの男は言葉を選ぶように答える。
「正確に言うと、“神”と人間が呼んでいるだけだ。そんなものは、存在しない。」
「……“神”が存在しない?」
つまり、この世界を作ったのは神ではないということか。
確か琴葉が言っていた——“アズール”という言葉。それが、この世界を指すのか?
「アズールには、神が存在しないということだな?」
「……ほう」
ローブの男が微かに笑みを浮かべる。
「少ない情報でよくそこまで言い切れるものだな。」
すると、痺れを切らした金髪の女——アストレリカが、口を尖らせる。
「ずるい、私も混ぜてよー♡ 私も楽しい話したい〜♡」
ローブの男は溜め息をついた。
「今、大事なところなんだ、待ってくれ、アストレリカ。」
アストレリカは不満げに腕を組む。
すると、そのたわわな胸がぐっと強調される。
「お兄ちゃんは、いっつもそう!」
……お兄ちゃん?
「じゃあねー♡」
アストレリカは俺にウィンクをして、光の粒子となり、消え去った。
(いかん……妻がいるのに、俺のナニが暴走しそうだ。)
ローブの男はハァとため息をつく。
「アストレリカは、双子の妹であんなんだが……あいつは、凄いんだ。あと、あまり興奮するなよ。」
(……目を付けられたみたいで、なんかすごい居づらい。)
「冗談はさておき、続きといこうか。そう、さっきまでお前がいた荒廃した世界——あそこがアズールだ。そして、その後に現れた”アレ”は……俺たちが探しているものだ。」
(“アレ”……琴葉のことか?それとも、あの禍々しい黒い淀んだ塊のことか?)
「お前が思っているもので間違いはない。」
ローブの男は眉を潜める。
「だが、“アレ”がどういう姿をしているのか……それは我ら”修復者”にも分からんのだ。」
「……というと?」
「住んでいる次元が違う。」
(……は?)
「お前は視認できる。だが、俺たちはできない。だから、お前を助けに行けた。」
「……なら、“アレ”が現れる条件って何なんだ?」
ローブの男は静かに答えた。
「必ず、“重力の波”が起きる。特異点。即ちブラックホールだ。」
(…………は????)
俺は困惑した。
ブラックホール?そんな所で、俺は琴葉に出会い、そして——
ガガガッ!
突如、ローブの男が膝をつく。
「クソ……話したいことは山ほどあるが、俺の力がもたん……しばらく会えないかもな。」
「……お前、まさか——」
「“ヤツ”には注意しろ。次に目覚めたら、アズールの同じ場所にはいない。なるべく安全な場所に転移させておく……」
——光が弾けた。
そして——
俺は、目を覚ました。
(……ここは?)
見渡せば、青々とした森。
小鳥の声、川のせせらぎが聞こえる。
(どうやら……今度は一人みたいだな。)
「今まではチュートリアルってことか……」
俺はつぶやき、ゆっくりと歩き出した。
ここからが、本当の始まりだ。




