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世界の発端に触れる

——瞬間、空間が歪んだ。


影喰らいたちが一斉に警戒し、身をよじる。だが、もう遅い。


「増殖しろ」


俺の言葉とともに、目の前に現れたのは——もう一人の俺。


否、俺のコピー。


「なるほどな……『掛け算』ってわけか」


俺と、もう一人の俺が同時に不敵な笑みを浮かべる。影喰らいたちの動きが明らかに鈍った。


「さあ、狩りの時間だ」


もう一人の俺が低く囁き、即座に跳躍する。


「÷−」


俺が空間に記すと、空間が歪み、影喰らいの一体がそのまま飲み込まれ、消失した。


——なるほど、組み合わせ方によって異なる効果が出るのか。


(この世界には「フォトン」という概念が存在し、そこに俺が知る算数の記号が関与している。これは偶然なのか、それとも……?)


そんな考えが頭をよぎる中——


ズバァッ!


斬撃音と共に、向こうで影喰らいの群れを片付けたヴァルゼオンが歩み寄ってきた。


「なんだ、急に同じ顔の者が出てきたと思うたら……お前は相変わらんな」


ヴァルゼオンは肩に大剣を担ぎ、当然のように「どうせお前が本体だろ」と言いたげに俺を見下ろしてくる。


「うるさいな、考えるのが癖なんだよ」


「おぉ、威勢がいいな。じゃあ残りは頼んだぞ……」


——そう言い放ち、瞬時にヴァルゼオンは姿を消した。


「は?……まぁ、残りもそんなにいないし、やるか」


振り返ると——


「終わったぞ!もう一人の俺!」


どうやら俺のコピーがすべて片付けたらしい。


(……お前、強ぇな。)


——シュン。


「なんだ、早いじゃないか」


ヴァルゼオンがどこからともなく現れ、何故か焼き鳥の串を手にしながら言う。


「そうだろ?おっさん、なんか俺超強えわ!」


ウヒョーと叫びながら、俺のコピーは空間に「+++」の記号を描き、筋肉を誇示している。


(やめてくれ、俺はそんなんじゃない……)


「おぉ、お前は確かに強い。だが、ワシのほうが数億倍強いな!」


(……何を張り合ってるんだよ、このおっさんは)


急に、どっと疲れが押し寄せる。


「しんどそうだな、俺は消えるぞ!」


そう言うと、俺のコピーは光の粒子となり、静かに消えていった。


——バタッ。


俺の身体から力が抜け、その場に倒れ込んだ。


(……くそ、また急に……意識が……)


「おい、大丈夫か? おい?」


遠くでヴァルゼオンの声がする。


「おまえが次元の空間から来たと知り、少し安心したんだ……」


「この失われた王国(ストーンランド)で、少しの希望が見えたというのに……」


(……失われた?)


その言葉が胸に引っかかった瞬間——


黒い淀が、俺を飲み込んだ。


暗黒の淀に浸かった。


どれほどの時間が経ったのか。


沈む意識の中で、ドス黒い液面が揺らぎ、そこから漆黒の多角形の物質が浮かび上がる。


ノイズが走り、それは形を変えた。


現れたのは、黒い装束を纏い、顔をベールで覆った女——


琴葉だった。


——だが、温もりがない。


ベールを外した彼女の瞳は、無機質で冷たい。


「私はこのアズールを破壊します。」


それだけを言い残し、彼女は暗闇の中へと消えていった。


「待ってくれ!琴葉!」


(アズール? なんだ、それは……?)


これは夢だ。夢なら覚めれば、電車で帰り、家に帰り——琴葉の作ったカレーを食べる。


そのはずなんだ。


「なあ、待ってくれ……!」


——虚無の空間に、悲痛な叫びが響き渡る。


黒い淀が俺を飲み込もうとする。


その時——


パリ……パキパキ……


——パリイィィーーン!!


黒い空間が砕けた。


「お前を待っていた」


光の中で、誰かが語りかけてきた。


柔らかい光に包まれた瞬間、俺は別次元の空間へと飛ばされる。


「記述の権能は、まだ使いこなせていないようだな」


ローブを纏った男が、静かに告げる。


そして——


眩い光が舞い降りた。


「やっと会えたわ……♡」


現れたのは、白く煌びやかな衣装を纏い、女神と見紛うほどに美しい女。


その衣装は、純白のドレス……だが、過激すぎる。


胸元が大きく開き、豊満な谷間が惜しげもなく露わになっている。


引き締まった腰、しなやかな曲線、絶対領域を強調するスリット……。


そして、艶やかな金髪が揺れ、甘い香りが俺の鼻をくすぐる。


「あなたを待っていたの……この世界は」


彼女は微笑み、何の前触れもなく——


ぎゅっ……♡


勢いよく俺を抱きしめた。


(……ッ!)


柔らかい。


デカい。


しかも、いい匂いがする。


むにゅ、と押し付けられる感触は言葉にならない。


琴葉にはない感覚だった。


「な、何なんだ、お前は……?」


彼女は俺の耳元で囁くように言う。


「あなたの”運命”よ……♡」


背筋がゾクリとするような甘い声音。


そして、ローブの男と煌びやかな女は声を揃えた。


「俺たち——私たちは”修復者”です。」


——もう、どうにでもなれよ。


(俺ってこんな巻き込まれ体質だったか?)



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