朝霧桜編(5)
放課後、桜と会う日になった。
桜は相変わらず悪霊をつけていたが、見た目には変わった様子はなく、陽キャ達と連んでいた。
掃除が終わると桜から呼び出されて、一緒に校門を出た。
陽キャ達は、直恵と桜が一緒にいるのが信じらてないらしくヒソヒソと噂話をしていた。直恵は居心地が悪かったが、桜は平然とした顔だった。
「直恵は、好きな食べ物なんかある?」
桜はいつの間にか直恵と呼び捨てで呼んでいた。ナチュラルに呼ぶものだから、直恵は陽キャのコミュ力の高さに驚く他ない。
それに隣を歩く桜は、どの角度から見てみて「可愛い」「美人」という雰囲気だ。直恵にはない要素なので、勝手に尻込みしてしまう。
神様は人間を完璧につくったので、直恵は自分の容姿は嫌いではなかったが、桜の一般的に好かれやすそうな容姿は単純に羨ましい。紺色のワンピース状の制服もよく似合っていてtheお嬢様という雰囲気だ。なんとなく大人になったら女子アナになるんじゃないかと予想する。
「私は別に食べ物にはこだわりが無いのよね。っていうか断食時々してるから、食べ物に欲求は断つようにしている」
「うそぉ。直恵って断食してるの? うちの教会でも時々断食祈祷会やってるけど、私は無理だわ」
なぜか桜は悔しそうに下唇をかんでいた。
「その断食にコツみたいなの教えてくれる?」
「別にいいけど、朝霧さんってそんな興味あったの?」
直恵は首をかしげつつ、桜のおススメのカフェに向かった。
聖ヒソプ学園から徒歩15分ほどでついた。直恵の自宅にも近いカフェだが、興味がないので一度も行ったことはない。白い壁が綺麗な可愛らしいカフェだった。庭には、季節の草花植えられていて眺めもよく、女性客で賑わっていた。
カフェはバイキング形式だった。 1時間食べ放題で1200円。コスパを考えると高いのか低いのかわからないが、店内は女性客で騒がしい。
ちょうど眺めの良い庭の近くの席を確保し、桜と向かいあって座った。
「とりあえず好きなもん食べようよ」
「そうね」
桜に誘われれて、食べ放題形式のテーブルに置かれていた色とりどりのケーキを眺める。ショートケーキ、モンブラン、タルト、チョコケーキ、プリンはもちろん、アイスまであった。クッキーやマフィンなどの焼き菓子もある。ハロウィンを意識してかぼちゃのカップケーキやタルトも季節限定であった。
飲み物も飲み放題で、とりあえず直恵はコーヒーだカップに入れて席についた。
ハロウィン限定の菓子コーナーにカボチャとゾンビのポスターが飾ってあったのだが、悪霊がたかっていて食欲が失せる。ハロウィンはもともとドルイド教という悪魔系宗教と関連が深く、悪霊が大喜びしている祭りだ。特に10月31日は悪霊の数も増え、その日だけは直恵もさすがに外出できないほど、気分が悪くなる。
先に席についてコーヒーをちびちび啜っていると、桜が皿にケーキを山盛りにして戻ってきた。
「えー? 直恵はコーヒーだけ?」
「うん。ちょっと気分悪くなってね」
「え? どうしたの?」
桜は心底心配そうだった。目に涙までうっすらうかべている。
「誘ったらまずかった? バイキング形式のカフェダメだった?」
「や、別にそんなこと無いんだけどね」
直恵は隣のテーブルの女子大生ぽっい集団を見る。どうやたらこの集団が、パパ活にハマっているようで、売春の悪霊がハエのようにたかっていた。悪霊独特の変な匂いもして、さらに気分が悪い。
ペーパーナフキンで口元を押さえて、軽く汗を拭う。それに目の前にいる桜の正体不明の悪霊も不気味すぎる。
「なんか直恵って変わってるよね」
「一匹狼ですから」
「でもいいなー。私は集団じゃないと生きられないチキンよ」
あれ?
直恵は桜に纏わりついている悪霊を凝視する。さっきの言葉は明らかに悪霊が言わせていた。悪霊は思考をのっとるので、本人が言いたくない言葉を言わせる事ができる。
直恵も悪口を言われる事が多いが、悪霊がそに人に言わせている事が多いのでスルーしていた。もっとも本人が心から悪意を持って悪口を言っている時もあり、なんでも悪霊のせいにはできない事もあるのだが。
「なんか直恵って困ってる事ない?」
「は?」
「実は担任に直恵の事気にかけてって言われてるんだけど」
「あー、なるほど。そういう事ね」
道理で桜のような陽キャが自分を誘ったと思った。理由がわかって少し落ち着いてきた。
桜は意外とガツがツとケーキを食べていた。特に美味しそうに食べてはいなかったが、フォークが止まらないようだ。これも悪霊が悪さしている。しきりに桜に「食べちゃえよ」と囁いていた。まあ、この悪霊は低級のショボい悪霊だったが。
「うっさい暴食の悪霊ね。イエスの御名で命令する。今すぐ朝霧さんから出て行きなさい!」
思わず悪霊祓いをしてしまった。暴食の悪霊は、神様の御名前に怖がって尻尾を巻いて逃げていった。
桜は目を丸くしていた。
「は? 直恵ってエクソシストみたいな事できるの?」
しまった!
うっかりやってしまたが、気づいた時にはもう遅い。
直恵の秘密が桜にバレてしまった。