幻想物語編(2)
その日、直恵と桜は二人で一緒に悠一の教会へ向かっていた。
祈祷会参加の為だったが、物置の整理がまだまだ終わらず、桜も手伝ってくれる事になった。
ちなみに今日は直恵のバイトも休みだった。一時期は忙しかったが、幸田が元気いっぱいに回復したため、自然と直恵の仕事も減ってしまったのである。
「幸田さんは元気?」
「ええ。もうすっごい元気よ。道でナンパされるようになって、モテモテみたい」
「幸田さんは美人だもの」
「本当に何で幸田ちゃんが今までモテなかったのか疑問ね」
幸田はパニック障害のような症状もすっかりなくなり、もう通院もしていないという。やっぱり悪霊の影響から脱する事ができて、直恵も本当によかったと感じる。
「それにしてもお腹減ったー」
「桜、食べすぎよ。そろそろ断食祈祷会やろうと思っているけど、参加しない?」
「きゃー、断食なんて恐ろしすぎる!」
そんな下らない話をした時、悠一の教会の前でキョロキョロと周りを伺っている女性がいる事に気づいた。
赤いメガネをかけ、髪の色も明るい茶色だった。服装もちょっとロックな感じでサブカル女子っぽい。ただ年齢はあまり若くは無さそうで、アラフォー手前といったところだろうか。
「すみません。この辺りに神谷教会ってご存知ですか?」
サブカル女性に声をかけられた。どうやら教会に興味がある求道者のようだ。
すぐ案内しようかと思ったが、サブカル女性は桜と直恵を見てキャッキャと騒ぎ始めた。
「本当に女子高生! しかも制服!!」
少々変態的な事も言われ、直恵も桜もドン引きしながら、サブカル女性を京礼拝堂の隣にある部屋に連れていった。とりあえず客はこの部屋に通すように悠一に言われていた。
桜は変態風な発言をされてもあまり気にせず、客用のティーカップにお茶を注いでいた。
どうやら女子高生ブランドに変態的な事を言われるのは慣れているらしい。セクハラ行為がないだけマシとばっさり言い張った。
「ま、悪い人じゃないかも。なんとなく」
「そうかな……」
直恵は同意できない。アイドルの悪霊をどっさりとつけている。サブカル女性というのは本当だろう。
とはいっても性的不品行の悪霊をつけておらず、見かけと違って真面目そうでもあった。
紅茶をサブカル女性のところに持っていき、三人で悠一が帰ってくるのをまった。悠一は、地域の悪霊が悪さをしているらしく、急遽一人で悪霊はらいに行っているらしい。ハロウィンが終わっても油断は出来ない状況だった。
「お名前はなんとおっしゃるんですか?」
直恵は、自己紹介し、サブカル女性の名前を訪ねてみた。
「花畑令美っていうの。よろしく」
カバンから名刺を取り出して見せた。少女漫画風のイラストがついた名刺で、桜もびっくりしていた。
「なんですか、この名刺。とっても可愛い」
「ええ。桜ちゃんは知ってる? 漫画家の栗田クリス先生に描いてもらったの」
「え!? クリス先生に!」
桜は興奮しているが、直恵は全く知らない名前だった。聞くと有名少女漫画家らしいが、直恵はさっぱりわからない。
「実は私、少女小説家なんです」
「少女小説家?」
令美は、少し胸を張って自分の職業を説明した。主に高校生向けの少女小説を描いているらしい。少女漫画のノベライズも手がけ、その界隈ではなかなか有名だという。
「すごーい。少女小説家だなんて憧れちゃう」
桜は目をハートにしてうっとりとした表情を見せる。その表情は全く純粋なもので、嫌味には見えない。そもそも桜は嫌味など言えるタイプではないのだが、令美はちょっとムッとしていた。
「少女小説家だなんて、業の深い職業よ」
背後にあるアイドルの悪霊が言わせている雰囲気もなく、どうやら本心のようだ。直恵は悪霊は見えるが、心の状態はわからない。ただ、心が傷ついた人はマイナスな言葉も言いやすいし、悪霊も呼ぶ罪も犯しやすい。桜がロックバンドにハマったのも、いじめを受けた心の傷が原因だった。
令美も何か心の傷をもっているかもしれない。少し注意深く見ていても良いだろうと直恵は考えた。
「ところで、今日は何で教会に来たの?」
桜はそんな令美の事は全く気づかず、再び無邪気に質問した。やっぱり生粋のお嬢様というだけあり、桜の心は人より捻くれてなく、無邪気だった。
「ええ。実はこの教会のSNSを見たんです」
「ああ、あのご先祖様の日記ね。私も感動したわぁ」
桜は再び目を細めて笑う。
「ええ。あんな少女小説風な事がリアルであったなんて。是非、取材をさせてほしいの」
「取材?」
今度は直恵が目を大きくする番だった。
「最近、作品作りに詰まっていてね。是非、リアルを参考にして作品作りをしたいの」
令美はそう言って分厚いノートを取り出す。ノートの表紙には「取材・アイディアノート」と書いてあった。
「女子高生の生態も知りたい! 是非協力してくれると嬉しいです!」
なんと令美は、床に座って土下座まではじめてしなった。本気度が伝わってくる。
「おーい、誰か客か?」
そこへ悠一が帰ってきて、土下座をしている令美を見てギョッとしていた。
「牧師さん! お願いです! SNSに載せたあの日記を令美さんにあげてください!」
令美の熱意に打たれた桜は、顔を真っ赤にしながら悠一のそばに駆け寄った。
「は? どういう事よ……」
悠一の戸惑った声が響いた。




