母親の毒林檎編(9)完
日曜日、悠一の教会で礼拝が始まった。
美しい讃美歌が響いてた。
もちろん、礼拝室の窓は修理済みだった。あれから直恵はバイトを頑張り、窓を修理する事ができた。
本当はバイトを辞めるはずだったが、色々と人手が必要という事で、まだまだ桜の屋敷でバイトをしていた。
あれ以来幸田も教会に興味を持ち、この教会に通い始めた。今は求道者という立場だったが、牧師の悠一から聖書について色々教えてもらっている。今日の礼拝にも参加していた。
この調子だったら幸田に悪霊が戻ってくる可能性は低いだろう。
礼拝が終わると、直恵と幸田はしばらく話した。
「もう母とはしばらく会わない方が良いのかもしれない」
人がまばらになった礼拝室の信徒席で、幸田はポツポツと心境を語る。
「そうね。なるべくお母様の事も許した方がいいけど、今は距離をとって生活するのが良いと思う」
「うん。それにしても権威のある人の言葉が呪いになるなんて知らなかった」
直恵は幸田に悪霊の事は全部説明して置いた。初めはびっくりしていた幸田だったが、心当たりが多かったようだ。
「母はよく姉と私を比べていてね。そういえばよく私はブスって言われてたわ」
「そんな、そんな言葉は嘘だよ」
「ええ。わかってる。でも子供の世界だと、それが全てって思うちゃうのよ」
すっきりとした笑顔を浮かべた幸田が、自宅から持ってきたと思われる紙袋を持ってきた。中には桜の親の会社で売っている高級アップルパイが入っていた。
「これは、一応御礼」
「いいんですか? こんな美味しそうなアップルパイ」
「ええ。大丈夫。白雪姫みたいに毒林檎じゃないから」
その冗談は笑って良いのか直恵にはわからない。ただ、あの時突然やってきた碧子は白雪姫の意地悪な母親役にみ見えた。
「その後、桜ちゃんのお父さんや羊野さんから『幸田さんはいつも仕事が丁寧で感謝してる』って言われたの。桜ちゃんからも『大好き』とかよく言われるし、最近は町でイケメンに『美人だね』ってナンパされたのよ」
「よかったです。現実的にもこんな変化があるんだったら、もう悪霊の影響は無いでしょう」
幸田はその名前にふさわしい、穏やかで素敵な笑顔を見せた。
桜は「お嬢様はエクソシスト」の初仕事は大成功だと言っていたが、そうかもしれない。
呪いの言葉が祝福に変わった。こんな事が出来るのは神様だけだ。
直恵は再び、感謝の祈りを捧げた。
幸田から貰ったアップルパイは明日学校に持っていこう。部室で桜や真澄と一緒に食べよう。きっと一人で食べるよりは、みんなで食べた方が美味しいはずだから。




