朝霧桜編(10)
こんな事はストーキングみたいで本当はしたくなかった。
ただ、桜に憑いている悪霊が気になるし、このまま放っておけない。
聖書研究会の部活は、有耶無耶のまな中途半端に終わってしまったが、桜の体調は真澄とわかれるとすぐ良くなっていた。
「朝霧さん、放課後はどこかいくの?」
「うーん。今日はちょっと用事があるんだ」
そう言う桜は目が泳いでいた。桜に憑いている翔太不明の悪霊もざわざわと落ち着かない。何か隠していそうだ。
こんな事はするべきではないと思ったが、学校を後にした桜の跡をつける事にした。
ストーキングみたいだと自問自答しながらも、やっぱり悪霊が何か悪さをしないか気になった。
学校を出ると、桜は自宅の方にはいかなかった。
確か桜は聖ヒソプ学園のある町の隣町に住んでいたはずだが、駅につくと隣町とは反対方面の電車に乗り込んだ。
桜はイヤホンをし、何か聞いていた。うわの空で、直恵に気づく様子はない。電車の中は自殺や鬱の悪霊がウヨウヨしているので、頭の中で聖書の言葉を唱えながら避ける。
確かにこんな電車の中でうわの空になるのはわかる気がした。桜に憑いている悪霊は電車の中にいる自殺の霊と連絡をとってニヤニヤしていた。これは早急に手を打たないと危険だ。自殺の霊が取り憑きくと、自殺の衝動が強まる。本当に実行してしまうケースも多々あり、電車のホームは自殺者が多いのだ。
桜はある繁華街のある町の駅で列車を降りた。
あまり治安が良い場所ではなく、校内では近寄らないようアナウンスも出ていた。
てっきり改札口から出ると思ったが、駅のトイレにこもっていた。
しかも30分以上こもっていて、直恵も不安になってきた。
『ひひ、エクソシストちゃん。不安だね。友達が自殺でもしてたら困るね』
不死になっていたら、駅に棲みついている悪霊が寄ってきた。
「うっさい!イエス様の御名で追い出すぞ!」
そう言うと、悪霊はスッと消えていった。周辺にいた人達は不思議な顔をしていたが、ウザい悪霊が近づいてきたので緊急に追い払っておいた。
「は?」
ウザい悪霊を追い払った後、桜が駅のトイレから出てくるのが見えた。
普段の桜とは全く違った。別人だった。
黒っぽいワンピースにゴツいブーツ。手首には髑髏のブレスレットをしている。首からが十字架のネックレスをぶら下げていたが、カトリック信者が使うようなロザリオには全く見えない。
メイクもおかしい。
瞼が真っ黒で、肌の色もわざと青白いファンデーションを塗っているように見えた。口紅は真っ赤で、実際の唇より大きく描いているようだ。口裂け女という言葉が頭の中に浮かぶ。
髪の毛もスプレーで逆立てて、ちょっと派手な鳥のような雰囲気だった。
何よりこの桜の様子に悪霊は大喜びしていた。手をたたいて歌っているではないか。しかもデスメタルみたいな詩を歌っていた。
「悪霊の正体わかった……。初めて見たわ。ロックの悪霊じゃない。盲点だったわ」
直恵は下唇を噛む。まさか桜がロックバンド好きなバンギャだったとは。
悪霊の正体がわかってずっとホッとしている訳にはいかない。
引き続き桜の後を追った。