プロローグ
淡雲直恵には、大きな秘密があった。
「おじさん、あなた何か罪を犯した心あたりない?」
直恵は、通学路にいるホームレスの男性思わず声をかけた。ホームレスは何かに取り憑かれたように、妄言を吐いて、ヘッドバンキングしていた。
明らかに狂人で、道ゆく人は誰も声をかけなかった。とても避けられていたが、直恵だけが彼の前にすすみ、声をかけた。
「貧困と性的不品行の悪霊が周りにウヨウヨいるわぁー。おじさん、過去にギャンブルやホストみたいな事やってなかった?」
直恵は、悪霊を見る事ができた。はっきり視えるというよりは、音や匂い、感触などの五感で「感じる」という方が正しいが。悪霊にもそれぞれ得意分野があり、貧困や自殺を引き起こすものなど色々ある。
クリスチャンの直恵は悪霊を感じる事ができた。多くは聖書で書かれる罪を犯すと悪霊が入る扉が開き、その人の肉体や精神が取り憑き、人生がボロボロになる。
最終的には死後、神様の裁きを受け火の池にぶち込まれるわけだが、たとえ悪霊まみれでも「イエス様が救い主」と信じれば天国に行ける。結局、悪霊憑きの善悪は神様にしか判断できない事だったが。
「おまえ、よく俺の過去がわかったな」
「うん。適当に言っただけだけど、合ってたのねぇ。ねえ、この悪霊を祓ってもいい? 一応祈ったら神様からは祓ってOKという指示が出てるんだけど」
「は? なんだよ、悪霊って」
「詳しい事は省くけれど、あなたの人生に悪さしている霊よ」
直恵はそう言って、神様の御名といくつかの祈りの言葉を発する。すると、ホームレスの周りにいるウヨウヨとした悪霊達は、さーっと綺麗に消えていった。
ホームレスの男は本当に憑き物が落ちたすっきりとした顔を見せた。目に光が宿り、正気に戻っている。
「なんだ? これは。身体がスッキリしたんだが」
「うん。ちょっと悪霊祓いをやってみたの。でも、すぐ戻ってくるから、ここの教会で支援受けてね」
学生カバンから、直恵は通ってる教会のチラシを見せた。そこにはホームレスの支援情報も載せられていた。諸事情があり、直恵は家のカトリック教会ではなく、別のプロテスタント教会に通っていた。
「ここの教会の牧師に霊の事とかよく聞いてみて。表立ってはやってないけど、悪霊追い出しのプロの牧師だから」
「おいおい、そんな事もできるのか」
「うん、あと当面の食糧とかも支援できると思う。とりあえず行って相談してみて」
「あ、ああ……」
ホームレスの男は、半信半疑だったがチラシを受け取り頷いた。
淡雲直恵。17歳の女子高生。クリスチャンでもあり、ミッションスクールに通っている。表向きだけは、お嬢様。
ただ一つ秘密があった。悪霊を感じる事ができて、時々ホームレスに憑いている悪霊を祓っている。いわゆるエクソシストが出来た。
「あぁ、今日もいい天気。瞼眩しいわぁー」
直恵は目を細めて、綺麗に晴れた空を見上げた。