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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

人生期限切れの人を生きたい気持ちにさせる、消費期限切れの安売りセールの刺身

作者: 孤独

「明日、横浜で通り魔をしてやる」


この人生は35歳で期限切れだ。

払えない家賃。数千万の借金を背負った。両親からは勘当された。

もう、誰も自分を止めるものはいない。

来週には、この賃貸アパートから追い出されるだろう。それは自分をクビした会社に言ってくれと言い続けた。10年くらいの年月が経過しているような気がするけれど。



パクッ


「ふふふ、最後の晩餐。刺身は旨い」


旨いと言いながら汚い丸テーブルに並べたのは、自分と似たような人生みたいな売れ残りのおかず達だ。本来、自分が買わなかったら何もなく処分されただろう。

まったく、何もない人生だ。

その言葉の通り、何もない人生だ。

両目瞑った暗い中で人間達を想像してみろ。どーして顔や体に変化がなく、若々しくみんなは映っているのだ?自分は髭を生やしていたり、手汗もベタベタなのに。とっても綺麗に、そして、少ない容量をCDメディアを使っているからと虚勢にする自分がいる。

自分の記憶・人生なんて、1GBにも届きやしない。


そんな人生に大量の情報を、血に濡れた情報で頭と人生に保存しようぞ。



「包丁、準備良し。SUICAのチャージ良し」



楽しみだ。

3週間ほど前に横浜いったけど、人は頻繁に出歩いているのだな。血に染まる街に、自分の名前が刻まれるのか。

布団に入って妄想する。


「ふふっ、ふふふ」


なんだろう。なんなんだ。

とても悪い事をする。憎しみを世界に訴えるとはなんて興奮してくるんだ。

こんな気持ちは人生を振り返ってもあっただろうか?自分にも、こんな気持ちを作れるのか。こんな形で寝付けないなんて、10数年なかったようなこと。

明日。俺は世界に殺人で訴えてやる。


「ふふふふふ」


包丁はどの辺で握ろうかな。どんな人を殺してやろうかな。やっぱり、子供だよな。こんな絶望した未来でキラキラした瞳をする奴なんか、死ねばいい。


「ふふふ」


どんな悲鳴を上げるだろうか。楽しみだなぁ。妄想がこんなに楽しいなんて。俺の親や親戚はどう思うだろうか、どんな酷い目に遭うだろうか。憤怒して発狂するだろうか。

なんて凄い復讐なんだ。第三者を殺すとは、とてもいい生き地獄を味わせる。やってやる。成してやる。その勢いで俺が自殺するなら、誰にも俺を復讐するなんてできず、悶えるんだろう。


◇        ◇


朝9時半。ラッシュ時刻が終わった在来線を経由して、横浜に向かう。

実際の予定では、7時に出発したかったが……


「ね、眠い……」


全然、寝付けなかった。これから自分の人生を血で洗おうという一大イベントだというのに、眠れなかった。布団に入るのは、いつもより2時間早かったのに、……眠れた時間は1時間ぐらい。

興奮もどこか、緊張に変わって、不安に変わっていく。

朝日を浴びた直後のダメージはいつもの倍以上。暗いところへ逃げたいという気持ちになった。だが、そんな逃げなど。もうムダなのだ。捕まろうとするのなら、多くの無関係な人間を地獄に連れてって


『次は横浜ー。横浜ー』


アナウンスが鳴って、体と心の不安が消えかけた。

どうして、自分がここに向かったのかを思い出させる。リュックにはもう包丁を入れているのだ。

駅構内を歩いて、自分が以前に視察したところへ、真っ直ぐに向かう。しかし、実行は夕方になりそうだ。


「子供が歩いていないな」


平日の通勤時間帯でやろうと思っていたのに、10時を過ぎたら子供連れなんてまったくいねぇ。仕方なくブラつくしかない。



ギュルルルルル



それにしてもお腹が鳴る。出発が遅れたのも、トイレが長かったのもある。昨日から緊張し過ぎだろう。なんでこんなに緊張するんだ?緊張に慣れてないってどんな人生だよ、まったく。



ギュルルルルル



「うぅっ」


いや、これ緊張か?なんか熱っぽいし、下痢がまた……。昨日、最後だと思って食べた、スーパーの安売りされていたマグロの刺身が……。



バタッ



あまりの腹の痛さにその場で崩れる自分。なんなんだ、カッコ悪いじゃないか。


「助けてぇっ……死んじゃう……」


◇        ◇



「単なる腹痛・下痢ですね。賞味期限が切れたモノとか食べました?危ないですよ、ホント。若くない事を自覚してください」


それが真の貧乏生活というものだ。

道端で崩れるもんだから、俺が殺そうとするべき人達は心配して近寄って、救急車まで呼んでくれた始末。そんな自分もだが、あまりの痛さと気持ち悪さに助けを急がせていた。情けないんだが、死ぬ。死んじゃうって、言っていたな……。


「今日はここで入院してください。薬も出しておくんで」

「は、はぁ……」


金がないんですが。

助けてもらっても、自分には何もできない。

ほとんどを1人で過ごしていたから、こんな経験にどうしたらいいのか分からない。



ガチャッ



「すみませーん、ウチの息子が……」


息子が倒れたという事で、両親の方にも連絡が入った。勘当されて一文無しだろうが、金を払わなきゃ病院側は困るもんだ。それを申し訳ないと言って、母親は病院側に言ってお金を出してくれた。

もう腹痛が終わって暴れる元気が出てきたのが、シャクなんだが。


「言う事があるでしょ!!」

「あ、ありがとう……母さん」


母親に感謝するなんて。ガキの頃まで遡ってないと、あり得なかったな。


「とっとと働けーーー!!感謝じゃねぇんだよ!!借金返してから死ね!!」

「…………は、はい。すんません……」


やっぱ、母親に感謝したくねぇ。

でも、少しは助けてくれたんだな……。まだ、生きるか。

健康でないと、自殺する気もおきません。

毎日3食食べて、精一杯仕事をして、楽しく遊んで、笑って自殺しましょう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 体調が悪いと何もできなくなってしまいますよね。消費期限切れのお刺身が猟奇事件を抑止したというのがなんともはや。くすりとしてしまいました。 主人公がここから立ち直ってお天道様の下を歩めるような…
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