五章 救世の騎士王 其の壱
蒼き髪の少女は語る。
己の胸の内を。
*1*
「あ、本当に鏡に手を置いたら戻って来れた」
舎人子はいつも通りの風景に安堵するとボソリと呟いた。
舎人子と有紗は獣が消えた後、元いた場所に戻ろうと大鏡に手を置き現実世界に戻ってきた直後であった。
「うん、よかったよかった。リコもお疲れ様」
目の前には先ほどまで長い髪を括り、男の姿をした有紗がいつもの格好で立っており、彼女に向かって舎人子は急に抱きついた。
「ちょ、ちょっとリコ!? どうしたの? いきなり抱きつくなんてらしく無いよ!? 」
有紗は思わず声を上げるも舎人子は更に力を入れて抱き締める。
「何で、何であんな危険な事したの。いや、してたの? 」
「うう、それはその。うーん、とりあえずここじゃなくて他の場所で話そ。全部話すからさ」
有紗は抱きつく舎人子を落ち着けようとするも彼女の力が予想外に強く、その力強さが自分を心配するものと理解し、自分の胸の近くにある頭を撫でながら宥めるように囁いた。
「ごめん、リコ、心配かけたね。大丈夫だからとりあえず行こう。先生に見つかったら面倒だし」
***
舎人子は一人暮らしをしている。
しかし、一人で暮らすには大きすぎる、持て余す程の屋敷に一人寂しく住んでいた。
「それにしてもリコの家って何度来ても慣れない大きさ」
「昔はお婆ちゃんと住んでたんだけどね。今はもう一人だから余計大きく感じちゃう」
和の趣がある屋敷の一室に有紗と舎人子は座っており、そこでお茶を飲みながら話していた。
「それじゃあ、落ち着いたとこだし何から話そうか。リコは聞きたいことある? 」
「そうだなー、うーん」
舎人子は目を瞑り、両腕を組みながら考えると思い浮かんだ問いを口にした。
「いつから有紗はあの場所を知ってたの? 」
「一ヶ月前かな。たまたま聞こえた噂が気になって鏡に手を置いたらって感じ」
「私と同じだ。やっぱり、普通の女子高生なら気になるよね。じゃあ、いつからその幻想武装ってヤツを使える様になったの? 」
「うーん、入った瞬間に使える様になってた。管理人ユグドラが急に狭間だっけな、そんな所に呼び出されてね。そしたら、ディヴィジョンの説明をしてくれて、ゲームに参加するかを聞かれた。まぁ、私は自分の目的の為に参加しちゃった。今まで会ったのは六人くらいと戦ったかな。でもね! そこで三人くらいも助けたの。その人達とは仲良くなったから今度紹介するね」
そうして有紗はあった事を全て話と淹れられていたお茶を飲み、一息ついた。すると舎人子は彼女が負っていた傷が治っている事に気づくとそれについて問いかける。
「有紗、さっき手を槍に貫かれたり、体に槍を突き刺されたりしてたけどその傷は大丈夫なの? 」
「ああ、その説明もしてなかったね。これは幻想武装のお陰で、そうそう幻想武装についても話さないとね。てか! リコ、ユグドラに何にも説明されて無いね。なんかした? 」
「してないし、初めて会った。でも、なんだろう、悪いヤツじゃないってのかなって思った」
「ふふ、だね、私も同じ事思った。まぁ、じゃあ幻想武装について説明するね。私達の体には因果律って言うものがあって、それは人それぞれ変わってるの。それを並行世界の特異点であるミラーワールドだけで纏うことが出来る武装の事を幻想武装って呼ぶんだ。これは並行世界で束ねた因果で決まるらしいんだけどユグドラが説明してくれたのを覚えてるだけで私はよく理解してない。それとミラーワールドに入ったら性別が変わるのを写鏡って言うの。これのおかげで死ぬ以外はこっちに戻れば体は元通り」
有紗はドヤ顔で自分の無知を自慢するも舎人子も理解しておらず、頭の上から煙が立っていた。それを見た有紗は笑いながら再び言葉を紡ぎ始める。
「まぁ、そうなるよねー。じゃあ、幻想武装について深掘りしようか。幻想武装には種類があってね。今日あった乾宗弥。彼の幻想武装は本能のまま武器を振るう闘争型。他には守りに特化して守護型、特殊技能に優れた工作型、射撃を得意とする狙撃型、呪いに通ずる魔術型。そして、何でも器用貧乏になる英雄型」
「有紗は英雄型って言われてたね」
「そう、私は英雄型の幻想武装なの。でも、これあんまり良くなくてね。使えるものが全て中途半端になっちゃうの。守護型なら自己防衛能力が高かったり、闘争型なら凄いスピードと筋力だったり。色々あるんだけと英雄型は能力のパラメーターが一定且つばらつきが無い。言い方的には強そうだけど一個に特化した人との戦いでは色々足りなくなる。闘争型とやるならその攻撃を防ぎ切る防御力。守護型とやるならその防御を貫ける攻撃力。他のやつも上げたいけど割愛。だから、今まで結構ギリギリの所でやってたの」
有紗は座りっぱなしで体が硬くなったと感じ、腕を上に伸ばしながら話していると舎人子は彼女の伸ばした腕を掴み引っ張り、彼女の体を伸ばすのを手伝った。
「うう、効くー。座ってると体が固まっちゃうからね。はぁ、気持ちいいー」
「なら、私のは何型かな。何か大きな剣振ってたけど」
舎人子は有紗の腕をぐいっと伸ばし続け、自らの幻想武装について問うと彼女は伸ばされながらゆっくりとそれに答える。
「うーん、見た感じは闘争型かな。あんな大きな武器振るうってのはそれだけの筋力があるんだし。あ、そうだ。ディヴィジョンにはね原則があるんだった」
有紗は自分の近くに置いていた携帯端末を取り出し、その中にあるアプリに示して舎人子に見せながら再び口を開く。
「このアプリがリコの携帯にも勝手に入ってるんだけど」
「え、嘘」
舎人子はすぐに携帯の電源をつけるとそこに見た事もないアプリがあった。
「本当だ、これ何? 」
「これはゲームプレイヤー全員に入れられてるアプリの分岐門。これがあれば一々学校の大鏡まで行かなくて済むんだ。押せばすぐミラーワールドに飛べるんだけど一日一回、必ずそっちに強制的に転移させられる時間がある。それは夜の八時。そしたら、プレイヤーは何処にいようと逃げる事がなく転移させられてゲームが開始しちゃうんだ。帰るには学校の鏡まで行かないとダメ。ゲームはミラーワールドに居ればいつでもやってる。でも、日中とかはあんましいないかな。皆色々忙しいんだろうし」
全ての説明を終え、有紗はお茶を飲むと舎人子が急に立ち上がり、彼女に対して大きな声で宣言する。
「大体わかった。じゃあ、私達の目的は全員倒して降伏を宣言させる事でいいよね? 」
「うん、ありがとうリコ。リコのお陰で頑張れそうだよ」
有紗そう言言いながら立ち上がると時計を確認する。既に時刻は十一時を回っており、すっかり夜が更けてしまっていた。
「あちゃ〜、もうこんな時間か。はぁ、母さんに怒られちゃうな」
自分の鞄を持ち上げ、帰る準備をすると舎人子がキョトンとした顔をして有紗の顔を見つめる。
「え、リコ?どうしたの? 」
「今日泊まらないの? 」
感想、レビューいつもありがとうございます!
嬉しくて狂喜乱舞です!
続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひお願いします!
評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます!