三章 普通を装う女子高生 其の参
騎士王と獣。
戦いのボルテージは跳ね上がり、少女は戦いに身を投じる。
長い青髪のポニーテールを靡かせながら男がへたりと座り込んだ舎人子を守る様に目の前に立っている。
緊張しながらも舎人子はすぐにそれに答えた。
「いや、私は呼んでない」
「つれない事言うなよ。君、今死にかけてたんだからさ。命の恩人に花を持たせてくれないかい? 」
すると、にこりと笑いながら男は舎人子を背後に隠し、持っていた剣を強く握り締めると槍を持った少女が再び距離を詰め、得物と得物を打つけた。
彼らの剣と槍がぶつかった衝撃で風が起き、教室のガラスが割れるもお構い無しにと攻撃を続ける。
男は剣を無闇に振り回さず、少女が放つ槍の軌道を完璧に読み取りながら一切の無駄なく動く。彼女は逆に彼に対して手数で勝負を仕掛け、槍を一瞬の隙もなく突きを放った。
両者一歩も譲る事なく、戦いのボルテージを一気に高め合っていく。
彼らが鋼の塊を簡単に振り回す姿をまじまじと近くで眺める舎人子は身の危険を感じながらもその戦いと言う光景に取り憑かれていた。
そんな中、急に少女が攻撃を中断すると一旦彼らから距離を取り、槍を構えて騎士王に対して口を開いた。
「なあ、騎士王さんよ。なんでそんなイレギュラーを助けるんだ? あんたもプレイヤーだから分かるだろ? 戦う敵が増えるってのはそれだけでデメリットの筈だ。加えて、もうミラーワールドにはプレイヤーは増えない。そう教会のクソ天使共も言ってたろ。それなのにこいつは鏡の前に現れた。あの噂はプレイヤーにしか聞こえないはずなのに。言ってる意味分かるだろ、新卓有紗」
有紗の名前が出た瞬間、舎人子は先程まで戦いの光景に見惚れていたが直ぐに現実に引き戻され格好、性別が変わった親友の姿に思わず声が出てしまう。
「新、卓、有紗? 」
その一言を聞き、有紗は自分を知っているクラスメイトと気付くも舎人子とは気づいておらず、彼に話しかけた。
「あ、もしかして知り合い? クラスメイトかな? うん、ごめんね。騙しちゃって。僕は新卓有紗。友達を巻き込んじゃうなんて………」
「有紗、違うの! 違うよ! 私、私だよ! 鏑木舎人子だよ! 」
舎人子が有紗の言葉を遮るとそれを聞いた途端、彼は驚きのあまり目を丸くしていた。
「うそ。リコなの? いや、でも」
狼狽えた有紗に出来た隙を突き、少女は急に槍の先端を自分の体に突き刺すと口から血を噴き出しながら武器本来の力を引き出す為にとある魔術言語を口にする。
「接続、命追い穿つ棘乃槍」
少女の小さな体に黒い槍が混じり合い、一つとなる。
武器と一つになった少女は兜を被った獣になると雄叫びを上げ、腕と一体化した槍を携えながら有紗に襲いかかった。
それに気づいた有紗は舎人子を跳ね除けると襲い掛かる黒い獣に向けて剣を振るう。
しかし、それを獣は簡単に弾き、有紗の体に槍を突き刺した。
「有紗! 」
舎人子の言葉が廊下に響き有紗の耳に届くも声を上げる暇もなく獣は彼の体に突き刺している槍を運動場側の壁に叩きつけ、それを破壊しながら外に出て行った。
雄叫びを上げながら獣は腕に突き刺した有紗の体を地面に叩きつける。しかし、有紗は血を吐き出しながらもなんとか槍を体から抜き取り、剣を構えた。
「まだあ、やるのか? そのからだで」
兜の先が少し空くとボソボソとした口ぶりで獣は喋り、先程までの少女とは打って変わって野生的であったがそれに戸惑う事なくボロボロにの体に鞭を打ちながら有紗はそれに応える。
「当たり前だろ。友達が、私の友達が迷い込んでるんだ。それなら私は命を貼ってでも守り切るだけさ。あんたが魔術言語を知ってるとは思っていなかったから油断しちゃっていたよ。ここからは本気だ。私はあんたが本気を出すのに相応しいプレイヤーである事は理解できた。もう、容赦しない」
舎人子は急いで階段を降りて行くと有紗が剣を両腕で持ちながら獣と対峙する姿を目撃する。
そして、彼は剣を自分の方へと向け自らの体に突き刺すと口から血を垂らし口を開く。
「接続、十三円卓領域」
有紗の体に突き刺さった剣が溶け込むと彼の手に新たな金色の剣が顕れた。
それを握りしめ、騎士王は再び黒い獣と対峙する。
最初に動き出したのは有紗の方であった。
金色の剣から溢れるばかりの力を自らの体に流し込み、一瞬にして姿を消す。
「Ⅱ円卓騎士! 」
消えたと思いきや声がすると巨大な槍を持った上半身のみが現れている騎士が獣に向かい襲いかかった。唐突に現れた騎士に驚くも獣はそれと打ち合い始める。
目の前に現れた槍使いに本能の赴くまま打ち合うと消えたと思っていた有紗が急に現れ、獣の右腕をすぱりと切り落とした。
「あぁ? 」
獣がそれに気付いた時には有紗の剣は既に彼女のもう片方の腕に狙いを定めており、何とか直撃を免れようとまだ繋がっている腕を動かす。
しかし、その動きをまるで読んでいたかの様に彼はその場から再び姿を消すと彼女から距離を取っており、剣を後ろにし、抜刀の構えを取った。
「Ⅴ円卓騎士! 」
彼の言葉に呼応して先程とは違う剣を持った騎士が彼の背後に顕現し、二人の動きが合わさる様に剣を抜く。二人の斬撃が交わりながら巨大な熱を帯び、獣の体を焼き尽くそうと彼女に目掛けて放たれた。
獣はそれを見ながら不敵に微笑むと片方しかない腕を構えて、一体化した槍の先端を向ける。そして、彼女はそこに先程受けた傷の痛みを注ぎ込み、その一撃を真っ向から受けて立とうと口を開いた。
「凶穿つ侵蝕乃槍」
二つ刃がぶつかり巨大な音を立てながら辺りの建物にひびが入る。太陽の熱と痛みの呪いは互いに相殺し合いながらも獣が一歩先に進んでいた。
斬撃を食い破りながら煙を裂き彼女は現れるとエネルギーを吸い巨大に膨れ上がった槍を有紗に目掛けて襲いかかる。
有紗はその一撃を防ぐ事が出来ず、直撃すると彼らの学び宿でもある校舎の壁を再び壊しながら今度は教室の中に転がり込んだ。
壁は先程の爆発によりヒビが入っていた所に凄まじい速度で吹き飛ばされた有紗の体によって壁は破壊され、校舎には二つの穴が出来ている。
そんな中、舎人子は彼らの戦いに目を輝かせていた。一瞬一瞬が命の駆け引きになるその動きを見ながら彼は集中してそれを学ぶ。そこにある動きの全てを彼は一度見ただけで理解していた。
だが、有紗が吹き飛ばされた事により、その集中力は途切れると彼の下に向かおうとするも獣の目線は舎人子に定められていた。
「舎人子、おまえはあ、イレギュラーだあ。おまえはあこのゲームにさんかするしかくはあない。だから、ここで死ね」
狂気を交えた獣の表情に舎人子は後退りもせず、何かを決めると彼女に対して啖呵を切った。
「訳わかんない。何で私がプレイヤーじゃないと思うの?そんなの殺される理由にならないし、殺されてやるもんですか。だったら、今から私はこのゲームに参加する。あなたみたく力を使わずにやってやる。私は普通の女子高生だから。友達が危険な目にあってるのに逃げるなんてそんな事出来ない! 」
*2*
その一言で世界は廻だし、歯車は動き出す。
ガチリと言う音と共に突然に視界に色が消え、世界が凍った様に止まると舎人子は戸惑った。
そこに二人の幼い少女が踊りながらコソコソと話しており、その真ん中に黒髪の男が座っている。
万華鏡の中で見た男に似ている様に感じるも記憶にノイズがかかるとその境目がよく分からなくなり、その彼が舎人子に喋りかけた。
「おまえ、ゲームに参加するんだな? 」
「えーと、ここは何処? 」
自分の質問がよりによって質問で返ってくると彼は少し不機嫌そうになるも、悲しそうな表情をして溜息を吐きながらそれに応える。
「質問を質問で返すとはな。ふん、誰かさんにそっくりだ。いい、教えてやろう。ここは狭間。現実世界とミラーワールドを繋げる時間軸に無い場所。説明は終わりだ。参加するのか? しないのか? 」
「え、それだけ? 待って待って分かんない。ミラーワールドが何なのか分からないし、ゲームがなんだか分からない。あいつがプレイヤーやら、なんなら言うからゲームって言っちゃったけど合ってたの? 概要は? ルールは? 」
一答えたら百質問が返って来た。
それに男は更に溜息を吐くも怒りを向ける事も、面倒臭がる事もなく、ただ、淡々と感情が死んだ様にそれを説明する。
「ミラーワールドは幾星霜とある並行世界の特異点だ。それ故に、ここでは全ての並行世界に於ける様々な事象を決める事が出来る。今行われているゲームはその事象を自由自在に操る権利を、決定権を得る為の物。名をディヴィジョン。プレイヤー12人による殺し合いだ」
「報酬は置いといてとりあえず殺し合いをしてるんだね。了解、なら早く始めよう。有紗が心配だし」
「そんな、軽い気持ちで始めるのか? お前が有紗を助けてたと言って敵にならない訳じゃ無いんだぞ」
ソワソワしながら舎人子は参加を承認するもそれに黒髪の男は少し戸惑いながら警告する。それに対して舎人子は即答した。
「友達を助ける為に損得勘定で動くなんて女子高生らしく無いもん」
その事を聞き、男は何故か悲しそうに微笑むと舎人子の目の前に宙を浮く契約書の様な物が現れた。
「俺は現管理者であり、前回のゲームの勝者であるユグドラ。お前は本来ならイレギュラーであり、あり得てはいけない13人目。乾がお前を殺そうとしたのもよく分かる。だが、俺はお前があいつに啖呵を切るところを見て少しだけお前の戦いを見たくなった。その契約書に手を置け。契約しろ。そうしたらお前の戦いは始まる」
舎人子は迷う事なく手を契約書に置くとそれは燃え上がり消えてしまう。
「戦え、舎人子。この戦いでお前は、お前の答えを導き出せ」
その一言を聞くと共に視界は再び色づき始め、世界は動き出す。
*3*
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