三十三章 トネリコ・イン・ミラーワールド 其の伍
ゲームの終わり。
舎人子の区切り。
物語は終着点へ。
「リコ! 」
ナイフが貫いた箇所からダクダクと血が流れ、白い髪が赤く染まって行く舎人子に有紗は駆け寄った。
「有紗〜、最後に会えて嬉しかったよ」
視界がボヤけながらも自分を心配して近づく有紗に対して、舎人子は彼が心配しない様に目一杯背伸びをして答えた。
有紗は舎人子に手が届いた瞬間、彼女の体を抱き抱え、走り出そうとする。自らを何度も救ってくれた親友をなんとしても救うために駆け様とするものの舎人子はそれを止めた。
「リコ?!どうして?!どうして止めるの!このままだとあなたが、あなたが死んじゃう! 」
「あはは、いいのいいの、それでいいんだ。ようやく、有紗の役に立てたから」
「役になんて!違う!私は、あなたをそんな風に思ったことなんて一度もない!だから、早く、早く行こうよ。鏡を越えれれば現実に戻るから、だから、ね? 」
頬から涙が垂れると抱き抱えていた舎人子の傷口に落ちるもそれはすぐに血と混ざってしまう。それでも、無意味であっても有紗は泣いていた。
いや、泣かずにはいられなかった。
「なんで、なんで私なんかを庇ったの。私はリコに、生きててもらいたいのに。なんで、自分のことを顧みず戦ったの!」
「ええ〜、そんなに怒ることかな、そこ。私は、有紗が笑ってくらせるならよかったんだ。そこに私がいなくてもいい、そう思えた。一佐がね、一昨日言ってたんだよね、私には主体性がない。その優柔不断さはチームの輪を乱すって、あいつのがチームの輪を見出してるだろ!って思ったけど、私にはたしかに、主体性が、目的がなかった。だから、初めて今、私は、私になれたと思ってる。普通の女子高校生になるのは無理だったけど、有紗の、親友にはなれた気がするから、さ」
舎人子は言葉が思いつかず、思考も纏まらない自分の頭に嫌気がさすも、それでも有紗と話せることが嬉しかった。
それが、最後になると悟るともっともっと様々な事を話したいと思い、口を動かそうとするものの血を流しすぎた彼女の体は自分の意思では動かせなくなっていた。
(泣かないで、有紗、私は、私が、これで、いいって思ってるから、だから、ね?これから、有、紗が笑ってすごせ、れば)
停止した。
最後の言葉をかけれず、かける暇なく。
鏑木舎人子の体は生物的な死を迎え、魂のない抜け殻となった。
ぐったりとした肉塊を抱える一人の王。
辺には、血の海により出来た赤く染まった地面に一人、たった一人残された新卓有紗が因果を司るゲームの勝者となる。
安らかな表情を浮かべる舎人子を抱き抱えながら、有紗は大声で泣いた。勝者である者に捧げられた栄光はあらず、そこにあるのは血であった。
そして、その場に観測者は現れた。
背後にはメイド姿をした二人の天使がクルクルと踊りながら声を上げる。
「ふふふ!彼が今回の勝者だね!」
「そうだね!そうだね!そうかもね!」
「ならば始めよう!解放の儀を!」
「ならば始めよう!終末の儀を!」
「「始めよう!数多の世界の創生を!」」
二人の天使は回り回転する。
そんな彼女達に無視して、観測者はゆっくりとローブを取り、有紗の目の前にその素顔を現した。
目の前に現れた舎人子の写身と同じ姿の男に、有紗は驚くもすぐにその事を問いただした。
「その、顔、なんで、リコと同じ顔を? 」
観測者は驚くこともなく、むしろ、嬉しそうに答える。
「俺も舎人子だから。正確に言えば、3000回程前のディビジョンの勝者の舎人子と言ったところかな」
「どういうこと?」
「俺はね、有紗、君を救うために、このゲームを、この17年を何度も何度も繰り返した。そして、ようやく、君を、救えたんだ。ディビジョンとは並行世界の観測者を決める戦い。それに間違いはない。かつて、いや、51000年前かな。そこで、俺は勝者となった。いや、本来の勝者は君であったにも関わらず、俺を庇って君は死んだ。イグザとの決戦で君は致命傷を負い、死に至った。俺はね、その結果が許せなかったんだよ、俺の愛した親友が俺のために死んでしまったことがね。それで、過去を変えようと自分が生まれてくる17年前、そこを起点に君を救おうと何度もゲームを繰り返した、いわば、ループしたって事だ。幾度も、幾度も、幾度も、幾度も、君が死ぬ姿を見た。ゲームに参加しなければ君を救えると思ったけど、そうすると君は事件に巻き込まれて死んだ。俺が知らない所で死んでしまう。運命という言葉があるのならそれは君の生存を絶対に許さなかった。途方にくれる様な数の、君の、有紗の死体を見た。心はとうの昔に擦り切れ、俺という存在は、有紗を救うということでしか保てなくなっていた。だけど、その願いがようやく、ようやく成就する。横縞王子と言うイレギュラーが俺の意志を叛く舎人子を産んだ結果、死という運命から、有紗を救い出せた」
その言葉を聞いた途端、有紗は舎人子であったものを優しく地面に置き、観測者の顔にビンタした。
パチリと鳴り響いたそれに対して、なんの感情を向けることなく観測者は再び口を開く。
「どうして怒る? 」
「怒らない理由がわからないの!?リコは、リコはあんたのせいで死んだ!私の、大好きな親友は今、私の目の前であんたのせいで死んだんだ!それを、それを許せると思う!?」
「許されなくていい。それが俺の答えで、俺と、このループでの舎人子の答えだ」
「嘘だ!リコが、普通を求めたあの子がそんな事を、思うわけ、ない」
ボロボロと泣き出す有紗に観測者は悲しそうに微笑みながら答えた。
「ねえ、有紗。俺はね、有紗に救われたんだ。それはこのループの、いや、全てのループの舎人子が同じ。君という存在が、舎人子と言う不安定な俺達に生きる意味を教えてくれた。だからさ、そんなに泣かないでくれよ。ん?ああ、もうこんな時間か、有紗、君がゲームの勝者になったから俺の力が無くなってそろそろ君に移る。もう時間も無いからね、このループの舎人子が最後に言おうとしていた事を伝えておくよ。有紗、笑って生きて!あなたが笑って生きれる未来はきっと楽しいものだから」
そう言うと観測者は一瞬にして姿を消し、その場には二人の天使と有紗だけが残っていた。
「「さぁ!新しい観測者!君は何を望む?何を壊す?何を繰り返す?並行世界は君のモノだ!何をしても、君の自由!言ってごらん?君のしたい事! 」」
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