三十一章 トネリコ・イン・ミラーワールド 其の参
縦の糸はあなた。
横の糸はわたし。
それをイジるのは正しく私。
消えゆく命の燈に、早乙女イグザの視界は赫く染まった。怒りに満ちた、感情の爆発、元より才能のあった彼女による、感情を凝固。燃え上がる様な殺意を硬め、自らの赴くままに叫ぶ。
正しく、黒化。
邪悪な狂気を纏いし存在に、イグザは駆けた。
およそ、距離が互いの間合いに入った途端、王子の体に斧が突き刺さった。
「肉」
間合いに入る直前に、その呟きに呼応して斧は一瞬にして、巨大化するとそれを王子に目掛けて振るっていた。気づいたら、それは行われており、自分の体が、自分ではない様に、それは化身勝手に動いていた。
体が斧の刃により、肉が抉られ、骨が断たれる。
王子の体は再び巨大な斧により、傷つけられ、死に至る。
しかし、それは常識の中にある存在であればの話であり、その中から外れた彼女、横縞王子には死などと言う常識は、既に無かった。
「あゝ、痛い!痛い!痛い!痛い!痛みとはどんな存在にもある!私と言う存在であっても、痛みはあるんだぞ! 」
「黙れヨォ! 」
怒り、殺意、それらは真っ赤に染まった赫色であり、王子にはそれが見えていた。見えているからこそ、ため息を吐く。
自分に怒りを向け、殺意を向けるその存在に、つまんないと感じるとため息を吐かずにはいられなかった。
常に、常に殺意を持たれ、怒りをもたれ、自らが恨まれる存在である王子に取って、その感情は凡夫が持つ、何ともない何処でも見れるつまらない、とてもつまらないものであった。
死に行く体を因果の中で触って混ぜる。
因果に干渉する能力。
縦にあるのは他人の因果、横にあるのは自らの因果。
二つの因果の中に、彼女、彼らは存在する。
両面宿儺と言う、二つの面を持つ鬼神。
縦に、横に、干渉する、故に、両面。
二つの因果を同時に、他人が見えない領域で断ち切った。
自分の横の死の因果を断ち切れば、あら不思議。
自らの体が死なずに動き、勝手に動く。
自分の縦の因果を断ち切れば、あら不思議。
他人の体に傷がつく。
もう飽きた。
王子はそう思い、その場にいた人間全ての因果を断ち切った。
何度も、何度も、切り裂きにかかる少女の因果をこれまで以上に、ズタズタと。
ナイフを突き立て、千切る。
斧を振るう少女の腕が宙を舞った。
しかし、イグザは止まらず、宙に浮く手を蹴り飛ばすと再び地に落ちた斧をもう片方の手で握り、振るった。
痛みを捨て、血を捨て、知を捨てる。
その獣に、王子は興味を示すことなく、パチリと指を鳴らした。
もう片方も宙に浮く。
斧の柄を口で噛み、襲いかかる。
死が幾ら自分に降り掛かろうとも、イグザは止まらなかった。
結論だけを述べると、その行動に意味はなく、ただ、闇雲に走り、そして、死に行くだけ。しかし、それでも、早乙女イグザと言う完全を目指す人間に取って、唄種雪音と言う存在が、大きかった。
合理的な判断を捨て、自分の夢を捨ててでも、その一撃を、その一矢を、報いるために。
体と、首が、切り離され、早乙女イグザは、生物学上、死に至った。
死が迎えに来る直前、斧が投げられる。
その斧が王子の顔に切り傷を生むとイグザは笑っていた。
満足気ではないもののその一矢を報いたと言う、非合理的な欲求を満たしたその笑みに王子は少し苛つきを覚えるものの無視をして、もう一人のプレイヤーである新卓有紗に視線を向けた。
しかし、向けた視線の先には、それはおらず、辺りを見回すものの、完全に気配が無くなっていた。
「どこ行ったのかな!王様! 」
その一言から、王子の首が切り裂かれる。
一瞬の出来事で、何が起きたか理解が出来なかったが再び自分が、死んだことだけは確かであり、その事実に彼女は笑みを溢す。
「花乃魔術師」
静かに呟きながら現れた有紗は再び口を開く。
「Ⅷ円卓騎士、Ⅸ円卓騎士、Ⅹ円卓騎士、XI円卓騎士、XII円卓騎士、XIII円卓騎士」
六機の騎士の連続召喚。
有紗の脳内には大きな負荷が掛かり、鼻から血が垂れるも、そんなことお構いなしにと首だけになった王子に刃を突き立てた。
全ての騎士は一人に対して、一撃一撃を振るい立たそうとすることなく、完膚なきまでに叩き潰そうと動く。
生物として、横縞王子は幾度となく死んでいた。
しかし、潔く死ぬのは彼女に取っては不名誉であり、生にしがみつこうとする目の前の彼に、非現実である死を叩きつけることこそ己の存在意味と捉えてすらいた。
(ミンチになるまで叩くなんて酷いな〜、まぁ、初めてだしいっか!そんじゃ、ここいらで線に触れよう)
脳が無いとしても、その別の領域に存在するもう一人の王子はそれに触れることが出来る。
何度も潰し、潰し尽くしても尚、王子は死なず、立ち上がる。
有紗は六機をいっぺんに動かしたことにより、脳内は処理しきれない程の負荷がかかると鼻から血が先ほどよりも溢れ出た。
そして、騎士たちもまた、王の限界により、消えるとその場には二人だけが立っていた。
「限界かい? 」
王子は笑うことなく問いかける。
それは何の意図かは分からない。
いや、意図など無いのかもしれない。
ただ、彼女も少し疲れたのか、初めて自らが一日に何度も殺されることを否定したからか、普段であれば死に行く存在に対して、問いかけることなどしないはずなのに、今宵だけは問いた。
「限界」
有紗は既に、武器を握れず、冷静な判断も、行動も出来ぬほどに、熱が彼の思考の邪魔をした。
「ごめん、リコ、私、今日死んじゃう」
そう一言残し、彼の首に、ナイフが突き刺さる。
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