二十九章 トネリコ・イン・ミラーワールド 其の壱
最終章、開幕。
三つ巴の戦いの勝者は誰に?
生徒会室に二人の生徒が紅茶を飲んでいた。
もう一人いたはずの存在はおらず、そこには物悲しげな雰囲気がありながらも、残された二人は誰かの到着を待っている。
すると、勢いよくドアが開き、一人の生徒がその空間に姿を現した。
「リコは?リコはどこにいるの? 」
新卓有紗は興奮気味にそういうと早乙女イグザは冷静に答える。
「知らない、知る由もない。そいつは俺の臣下を喰らった人間だ。生きて会えば殺してる」
「じゃあ、リコは、死んだって言うの?そんなのありえない!私を助けてくれたのはリコなの。私、瑠夏に殺されそうになって、首を絞められて意識が遠ざかってく最中に、あの子の姿を見たの。だから、私を助けてくれたのはあの子なの!それなのにどこに行っちゃったの。お礼も、何も出来てないのに」
涙が溢れ、溢れて行く。
それを見てもイグザは動じず、淡々と宣言した。
「知らないものは知らない。お前の仲間の内で何があったのかも、どうなろうと知ったことではない。そして、俺は今日で本当にこのゲームを終わらせる。強制転移と同時に今夜、お前の命を持ってこのゲームの勝者は俺になる。それが嫌であれば一人でも足掻いてみせろ。俺は容赦しない。お前がたとえ一人であろうと俺と雪音で命を狩る。そして、もう一人のプレイヤーも殺す。それまで、せいぜい己の力を、正義を研いでおくんだな」
イグザは立ち上がり、生徒会室から出て行った。
雪音はそれに付き添う様に出て行くとその場には一人、ただ、一人だけが残ってしまう。
*2*
目を覚ますと自分の体が鎖に繋がれ、拘束されていることに気づく。
視界には漆黒はなく、ただ、目の前には自分の写身に瓜二つの男が座っていた。
「あなたは? 」
その問いに自分が答える。
「観測者ユグドラ」
「そう、そっか、私たち、そっくりじゃん」
どこかで気づいていた。
自分と彼が似ていることに。
しかし、それは認めたくなかった。自分が自分自身であることを証明出来なくなると知っていたから。
少しして自分の髪の毛が白くなっており、写身の自分でない事を確認すると声を上げた。
「ねえ、ユグドラ、あなたは私の何? 」
本質的且つ的を得た問い。
それの答えによっては舎人子自身が崩壊してしまう危うさすらあるにも関わらず、彼女は問いた。いや、問わずにはいられなかった。
ユグドラはその問いを聞き入れたのか、少し間を置くと舎人子の拘束を解き、自分の手前にある椅子へと招き入れた。
舎人子は椅子に座り、そのことを確認するとユグドラはゆっくりと口を開く。
「俺はお前だよ、舎人子。いや、3000回目の俺の分身。俺は、このディヴィジョンを3000回繰り返している。3000回、お前が生まれてからこのゲームに参加するまでを周期にして、51000年。俺は、ずっと、このゲームを繰り返してるんだよ。設定を変え、性別を変え、性格を変え、何度もゲームに参加し、挑み、自分が優勝し、繰り返す」
悲しそうに微笑むユグドラを見て、その本質のどこかが壊れている部分が自分と重なり、彼が本当に自分であることを確認した。そして、再びユグドラは口を開く。
「俺がお前ってのは分かった感じだな。それならこっからは早い。お前を狂気に飲まれる前の精神に戻しておいた。気を失う時よりも冷静に判断できる様になっているだろう?感謝しろ。それと、ここからはお前へがゲームに再び参加するための条件だ。どんなに辛い未来が待とうともお前はそれを呑めるか? 」
ユグドラは舎人子へ覚悟を問いた。彼女がユグドラの分身と言う運命の輪から脱している一人の人間としての覚悟を。舎人子はその問いに穏やかに応える。自らの運命を決定つけられていたことに対しての憎しみや、恨み、今の自分という存在の半分が狂気によって生まれたという事実に、多少怒りはせど、自らを一人の人間として、人格として認めてくれた自分自身に対して敬意を払うために。
「普通の女子高生なら自分に起きる辛い未来への条件なんて呑める筈ないんだけどさ。私、普通じゃないみたいだし。それと、あなたが私であれば、有紗には危害を加えないと思うから。だから、呑むよ。どんなに辛くて、過酷な未来が待ち受けようとも、有紗が笑って過ごせるなら、あなたが出す条件を」
舎人子とユグドラ。
かつて自分であった者同士。
そして、ユグドラは舎人子に向けてその条件を述べた。
*3*
午後七時。
夜には満月が見えていた。
その美しくも、妖艶な輝きは最後に残った参加者達を歓迎するかの様に彼らを照らす。
三人の演者は互いに見合い得物を握る。
「それは正しく、最終決戦。そう感じるほどの緊張感が漂っていた。小説ならこう書かれてるだろうね。あはは!さて、僕も始めようか!彼らを殺して、舎人子を見つける!いや、見つけ出して、自分色に染め上げる!さぁ、さぁ、今から掻き乱すは殺人鬼、横縞王子!いざ、行かん!王様退治」
殺人鬼は一人でに呟くと三人の見合う間に降りた。
唐突に現れた乱入者に驚くもイグザ、雪音は握っている武器の柄を強く握りしめるとそれに声をかけた。
「テメェが最後の参加者の一人か」
イグザは直感でその存在の異常性を理解すると緊張感をより一層強め、一挙一動全てに目を向ける。そんな視線を、自らに向けるイグザに対して、王子は喜びの笑みを浮かべ、応えた。
「そうさ!初めましての人は初めまして!初めてじゃない人はお久しぶり!夜桜町に住まう快楽殺人鬼こと、横縞王子だよ! 」
その自己紹介が済んだと同時に、互いの動きを見合うのかと思った瞬間、有紗が動いた。
「接続、十三円卓領域」
一気に、因果を繋げると自らの臣下を召喚する。
「II円卓騎士、III円卓騎士、IV円卓騎士」
一気に三体の騎士が現れ、三人に襲いかかった。
王子はその臣下の一人を簡単にいなすと有紗に近づき、幾つもの命を奪ってきたナイフを彼の体に突きつけようとする。
しかし、その背後から騎士の一体の槍が王子の右肩を貫いた。
三人に、平等に襲いかかっていた騎士が自分に二人も割かれている事実に、王子は違和感を覚えるもすぐにその正体を理解した。
イグザと雪音に向かっていた騎士は既に自分に向かっており、加えて、二人の戦士が強襲する。
「接続!戦士乃食卓!前菜!」
「接続、狂戦士」
斧はイグザの手から放たれるとみるみる大きくなり、それを一人の男が握りしめた。
圧倒的な質量の斧を最も簡単に持ち上げ、振るう。
あらゆるものを食らう姿は、正しく狂戦士そのものであり、その一撃は有紗も巻き込み放たれた。
王子の左腕が宙を舞い、有紗はその一撃を三体の騎士達を使い防ぎ切る。
「ちょっと!話と違う!」
有紗の怒りの矛先を、イグザは無視をして、片腕の横縞王子へ向かい走り出した。
両手に握る斧を回しながら、王子の間合いに入るや否や、自らの武器を投げつける。
「口直し」
投げられた二つの武器は姿を消した。
片腕の王子はそんなことを気にする余裕はなく、無防備であるイグザに目掛けて攻撃を放つ。
「肉」
瞬間、王子の体は吹き飛んだ。
真っ二つとなったそれは腸を撒き散らかしながら宙を舞う。
早乙女イグザは本気であった。
たとえ、何を犠牲にしても、そのゲームの勝者になるためであれば、どんな方法で勝とうとも躊躇わない覚悟が出来ていた。
そして、それは行動にも現れており、容赦なく、横縞王子というプレイヤーの命を奪う。
はずだった。
感想、レビューいつもありがとうございます!
嬉しくて狂喜乱舞です!
続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひお願いします!
評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます!




