二十七章 Foreword Break Sudden 其の捌
黒化。
それは感情を結晶化し、昂らせる特異なるモノ。
黒い感情に支配され、舎人子は笑った。
それまでの怒りに満ちた赤い感情の混じった黒ではなく、完全に漆黒と成り果てた全く別の色の感情を剥き出しにすると瑠夏は初めてこの場でその深淵たる黒を見て、体に悪寒が走った。
初めて感じた感覚に少しばかり戸惑うも、自らもその黒に飲まれまいと自分の持つ感情を爆発させ、その怪物に挑もうと動く。
動いた途端、瑠夏は転んだ。
躓いたのではなく、意図的に、何かに引っ掛けられた。
転んだ途端、足に目を向けるとそこには影があった。
先程までの舎人子が見せた技術の全ては自らの影を動かすのみであり、他人の影を動かす事は出来ないと考えていた。しかし、それは先程までの舎人子であり、今、狂気に飲まれ、漆黒を結晶化させた彼ではない。
影は自らの足を掴むと瑠夏の体を地面から離し、宙に投げた。投げられた無防備な体に舎人子が握っていた大剣が一人でに襲いかかる。
両手の小太刀で防ぐもそれは真っ直ぐに自分を貫こうとしており、なんとか宙返りをしてそれをいなした。なんとか地面につくや否や、舎人子は瑠夏の目の前に立っていた。
大剣を失っているにも関わらず、舎人子は止まる事なく瑠夏を追撃する。小太刀で対応しようとすると自らの影が手を止め、曝け出された体に目掛けて舎人子は拳を放つ。
重い音が響き渡るも瑠夏は自らの痛みを死体に変換させ、痛みをなくすと影の束縛を解き、舎人子へと襲いかかった。武器の無い舎人子を切り裂き、自らが自分の信じる救世主の一番になるために両手に握った二つの小太刀を彼の首目掛けて振るう。
舎人子は目の前に振るわれる凶刃に己の命が危ぶまれていることを知っていた。知っているが彼はその死が自らを襲う感覚が感情を昂らせ、美を、自らが追い求める血に濡れた鮮明たる光を魅せてくれることを。
彼は自ずと理解しており、手に柄を握り、それを振るった。
「え? 」
瑠夏は自らの腕が宙に舞い、舎人子の首に小太刀の刃が当たる直前に動きを止めた。
彼の腕には先程投げた大剣が握られており、瑠夏は自分の身に起きた出来事を処理しようと頭をフル回転させるもののもう一度、大剣が彼のもう片方の腕を切り裂いた。
両腕がついていた箇所から、血が溢れる。
溢れる血を止めようにも止められない。
何故なら、両手が切られたから。
溢れる鮮血に、瑠夏はまだ諦めていなかった。
***
「僕は、あなたの何番目ですか? 」
瑠夏は一つの死体を使い、一生懸命、オブジェを組み立てている王子に聞いた。
「二番目かな〜」
そう言うと王子は興味なさげに作業に勤しむ。
そんな彼に対して、瑠夏は再び問いかける。
「なら、一番誰なんですか? 」
「うーんとねー、僕とおんなじ漆黒の感情を持った女の子。名前はたしか、舎人子だっけな。一家惨殺事件で有名になってその後の詳細がわからないんだけどね。あの時の彼女は僕とおんなじ色をしていた。唯一の漆黒、僕にしか許されていなかった無二の漆黒。幼いからこそ純粋無垢なる狂気。僕はね、再び彼女に会って、彼女を僕にしたいんだ。もちろん、瑠夏は大切な友達さ!でもね、彼女は特別。僕はね、感情の色が見える。瑠夏も僕のことを理解したからか、出会った時よりも暗い紫みたいな色をしているよ。それと、僕の見る感情はね、結晶化できるんだ。結晶化した感情は人を強くする。感情の爆発ってヤツかな?それを僕は黒化って名をつけてる。どう?カッコいいだろ? 」
話しながらも手を止めない彼を見て、瑠夏は自らが一番になれないことにもどかしさを覚えた。
(舎人子、鏑木舎人子。君を殺せれば僕はこの人の、王子さんの一番になれるんだ。なら、殺したい。彼が魅入った色を見て、自分が学んでその色を持って、彼の一番になりたい)
***
(血が止まらない、なら、やるのは一つだ)
足はまだ動く。
まだ、彼を、舎人子を殺せる。
「変換!」
小声で呟き、血と小太刀を入れ替える。
口でなんとか武器を拾い、目の前に立つ恋敵を仕留めようと走った。
燃える様な赤と紫が合わさり混ざり、硬化する。
瑠夏は初めて理解した。
感情が王子が言った通り、結晶化し、輝きを見せることを。
(これが、黒化!王子さんが言っていた事は本当なんだ! )
溢れんばかりの力に瞳に光が宿る。
それは自らの体に回る力に対しての喜びと希望。
そして、それは死に行く体から、あり得ざる脚力を見せた。
音共に再び、舎人子の首元には小太刀の刃が現れる。
その一撃を舎人子は嘲笑った。
黒く染まった世界に唯一光る輝きである血を追い求め、自らの影に手を置くと口を開く。
「万華鏡幻影鎌」
影は主人の言葉に沿い、姿を変える。
変幻自在の影は巨大な鎌となると大剣を捨て、それを握った。
そして、瑠夏の首を切り落とす。
首元に迫る刃など自分の敵では無いかの様に無情に振るうその姿は正しく死神そのものであった。
首が体から転がると三つの箇所から血が溢れる。
その血を見て、舎人子は嬉しそうに笑った。ケタケタと楽しそうに笑いながら真っ黒な視界に赤い光が灯されるとその美しさに酔いしれる。
自らの世界がこんなにも綺麗であるのかと思うと笑わずにはいられない。
しかし、その赤はすぐに光が薄れて行き、再び視界が真っ黒に染まってしまう。
(もう、見れないの?もっと、もっと、もっと見たい!黒く染まった世界なんて美しくともなんともない!綺麗なもの、綺麗な赤を!欲しい、欲しい!あれ?まだ、見れる?友達、有紗、有紗は、ダメ、ダメ、ダメ、ダメ、ダメ、ダメ、ダメ、ダメ、ダメ、駄目、駄目、駄目、駄目、駄目、駄目、駄目、駄目、駄目、駄目、駄目、駄目、駄目、駄目、駄目、駄目、駄目、駄目、駄目、ダメダメ、だめ、だめ、だめ、だめ、だめ、だめ、だめ、だめ、だめ、だめ、だめ、だめ、だめ、だめ、だめ、だめだけど、だめなんだけど、あはは、あははは、壊したい、赤く、紅く、染め上げたい!有紗、有紗!死んで!死んで!私の、ワタシの、世界の一部になって! )
舎人子は頭を抱えながら、徐々に有紗に近づいていく。一歩、二歩、歩くたびに、有紗の顔がクッキリと見えるたびに、抑えられない衝動が頭を支配し、おかしくなる。
思考と視界は既に舎人子の人としてのブレーキを壊しており、有紗の目の前に立ち尽くし、その無防備な体目掛けて大剣を振おうとした。
しかし、その大剣は背筋をなぞる様な冷気を感じ、振り回そうとする手の動きが止まった。背後に立つそれに目を向けるとフードを被った魔術師の様な風貌の男が立っていた。
舎人子が気付くと同時に、何故か、自分が有紗から遠ざかっており、魔術師が彼の前に、立ち塞がっている。
「舎人子、残念だ。お前に少しでも期待した俺がバカだったよ。これより管理者の権限を使い、この場で鏑木舎人子に調整を課す。管理者の名はユグドラ、ゲームを観測し、終わりを見届ける者だ」
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