二十六章 Foreword Break Sudden 其の漆
狂ってしまった二つの歯車。
互いに惹かれ合うことはなく、殺し合う。
視界をぐちゃぐちゃになりがらも有紗に会えれば何か得れるののではないのか、何か自分が求めているモノをくれるのでは無いかと彼は皆が揃っていたであろう場所に戻ってきた。
しかし、その場の生者は二人のみ。
横たわり、動かぬ肉塊が一つが転がり落ちてい近くで、瑠夏が有紗の首に手をかけている。
その光景を見た瞬間、舎人子はギリギリ保たれていた理性の糸がプツリと切れた。
「おまえ!何やってんだ! 」
舎人子の慟哭が響き渡る。
それに気押されることなく瑠夏は有紗の首を更に強く締め付けた。
「接続!!!万華鏡幻影行進曲!!!!! 」
影が舎人子の地面から伸びる。
それはかつて無い程に速く、そして、鋭利に伸びた。
瞬時に瑠夏の腕を切り裂こうとするもののそれが手に当たる直前に、彼女は有紗から距離を取った。
影は空を切るも有紗を主人の近くに持って来るとその生死を確認する。脈はあり、息もあった。ただ、意識のみが遠ざかっており、それを知れた舎人子は瑠夏の元へと駆けた。
(あれはもう成ってるね。なら、有紗は殺さなくていいや。その前に僕が殺されちゃう)
そう思い、手に小太刀を握り、近づくと黒い龍へと変化の兆しを見せる舎人子に嬉々として対峙する。
舎人子の黒い大剣が振り下ろされ、瑠夏はそれを両手に握る小太刀で防ぐ。そと同時に、地面を這う影が襲いかかった。
無数の影の刃が地面から放たれると大剣をいなし、それらを弾く。影の刃は変幻自在に瑠夏へと襲いかかるも彼女は全てそれが見えていた。見えているにも関わらず、影の斬撃は一瞬にして体に切り傷を生んでいく。
その圧倒的までに黒く染まり、漆黒と化した舎人子を見て確信する。
(これはあの人が魅せてくれたドス黒いほどの漆黒!ああ、あなたが言った通り、とても、とても、美しい! )
***
少年は幼い頃から少女の様な容姿であった。
故に、彼は同性から距離を取られた。異性からは嫌厭された。
常に、苦しみ、女に生まれればこんなことにならなかったのかたすら考えた。
加えて、彼は孤独であった。
自らを産んだ親が自分を嫌った事で、何処にも居場所がなかった。
父を傲る男は少女の様な見た目の自分を腹が立つと、男らしく無いと言う理由で殴りつけた。母を騙った女は男の行動を無視し、自らを前に産まなきゃよかったとすら言い放った。
誰にも、何も注がれない彼の心は何も無い空そのものであった。
中学生になり、彼はより女性の様な見た目に拍車がかかると父を傲る男に襲われた。
満月が夜空に映る日に、それは行われた。
顔を殴りつけられ、無理矢理体に手をつけられる。
男の手が体を触り、吐き気すら通り越すほどの気味の悪さが襲いかかった。肉親であるそれに恐怖し、逃げようとしても、母を語る女は自分に矛先が当たらない様にと自分を捧げた。
道徳に反する行動に男は性的興奮を覚えたのか徐々にエスカレートして、彼は人としての権利を踏み躙られ、穢され、汚される。
死にたいと思うもそんな覚悟も、度胸も併せ持っておらず、彼は自分が一生虐げられ、搾取される側である事を理解し、確信した。
その時、彼は救世主と出会う。
暗闇の中で、行われていた男の手つきが急に止まり、自分の体にそれがのしかかって来た。音もなく、声すら出す隙も無く。
男の頭が自分の体に当たっており、その首元から生温かい汁の様なモノが流れている。
手にべっとりとついたそれが何であるか彼は理解するも自分の身に起きたことが何であるのかがわからない。
「血、だ」
彼はボソリと呟いた。
暗闇の中にいたそれが月の光に照らされ、その場にいた存在の輪郭が浮かび上がる。
「あ、ごめんごめん。僕、お隣に住んでる者なんだけど、部屋からすごい声が聞こえて来てねぇー。こっそり入ってみたら案の定。いやー、最高だ!性行為中の男を殺すのは初めてだからね!でも、奥さんは部屋の外で待ってたから他の女連れ込んでやってたのかい?不倫相手?いや、君よく見たら子供だね。あはは!もしかして、売春?なら、もっと貴重な殺人体験だ!売春した男を性行為中に殺す!たはー!いいね!いいね!気分がいいね!うーん、でも、君だけ生かすのは悪いから申し訳ないけど死んでもらっていい? 」
その青年の手にはナイフが握られており、そこから血が滴り落ちていた。
ポタリ、ポタリと流れ落ちるそれを見て、彼は初めて自分の感情に色がつく。
「綺麗」
不意に出て来た一言に、青年は少しばかり肩を震わせ、ナイフをしまうと彼に喋りかけた。
「綺麗か、あははは!君もしかして僕と同じ側?ん?待って待って、君もしかして男? 」
青年の問いに彼はこくりと首を縦に振り答える。
「マジか、じゃあ、こいつ男の子を襲ってたの?!あははははは!こりゃ、傑作だ!女の子の様な男を性欲の捌け口にしてたヤツを殺せたのか!最高の体験だな! 」
青年が大笑いする様子を見て、何故か、彼は安心していた。彼は青年の一挙一動に魅入られており、血染めに染まったその手が愛おしいと感じ、更に楽しめようと口を開く。
「そこに横たわってるそれは僕の父です」
「マジか?!とんでも無いな。君、よく生きてるね?死にたくならなかったのかい? 」
「死にたいです。だから、殺してほしいです。あなたに、僕の救世主に殺されるなら本望です」
彼は羨望の眼差しを青年に向ける。その初めて向けられた感情に青年は少し恥ずかしそうにするもすぐに彼の願いの応えを出した。
「その願いに対しての答えはノーだ。僕は君を殺さない。その代わり、僕と友達になろうよ!僕の名前は横縞王子!君の名前は?」
王子はそう言うと血に濡れた手を前に出す。
それを手に取るか取らないか、これは王子なりの見極めであり、彼がどうするかの試練でもあった。しかし、彼は躊躇うことなく王子の手を握り締め、声を上げる。
「漆原瑠夏、よろしくお願いします。僕の救世主」
***
舎人子の大剣が瑠夏の首を取ろうと振り回される。轟音と共に、無数の影が放たれ、それら全てを捌くことは不可能と感じるほどであった。しかし、瑠夏はそれらを全て捌き切った。
無数に放たれる影の刃からの攻撃を把握し、それらがわざとぶつかる角度へと体を避ける。影達はぶつかると刃の形が消え、一気に舎人子の間合いに入り込んだ。
目の前に現れた獲物に対して舎人子は容赦なく手に持つ得物を振り回す。大雑把であるものの目で追える速度をはるかに超越し、当たれば必殺の一撃であった。
瑠夏はそれすらも分析し切り、理解ていた。
有紗との戦闘は、瑠夏を大きく成長させ、今、この場にいる誰よりも彼女は強者の領域へと足を踏み入れていた。
大剣の当たる寸前、瑠夏は自らの因果を引き出すために声を吐き捨てる。
「接続、転生者・変換」
自らのモノと定義した物体を変換する。
右手に握られた小太刀を、その場に横たわる死体と入れ替えた。
死体の上半身と下半身は切り離され、赤い血が華を咲かす。
死体により、舎人子の一撃は軌道を外されると一瞬の隙を突き、小太刀が舎人子の体を切り裂いた。
半分にした死体の下半身と自らにつけられた傷から血が流れ、舎人子の身体中に飛び散ると脳裏にあった狂気が再び頭に這い寄る。
既に、舎人子の精神と体はボロボロで、立っていることすら限界であった。そして、それにとどめを指す様に切り裂いた死体の上半身についていた目が彼の顔を覗き込んだ。
宇佐見ウイの死たる表情。
苦悶とも捉えれるその表情に彼は視線を奪われた。命のやり取りをしている瞬間にも関わらず、その表情に、美を感じた。
壊れた感性とグチャグチャになっていた感情が爆発し、その瞬間、彼は再び狂気に飲まれる。
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