二十五章 Foreword Break Sudden 其の陸
仲間であった者の死体を跨ぎ、彼は、彼女は進んで歩む。
理解の出来ない戯言と、妄言。
吐き捨てながら刃を交じる。
「瑠夏、なんでこんな事を? 」
一人の生者が向ける怒りと殺意に感じたことがない興奮を覚えるもその問いはあまりにもつまらないものであり、二つの心を抑えようと瑠夏はなるべく丁寧に答えた。
「そうだね〜、僕は君たちのことが好きで好きでたまらないからかな。あの人があの夜、教えてくれた感情、愛しいものを壊して、汚す、美しさ。僕はね、とっくの昔に壊れてて、とっくの昔に終わってるんだ。それとあの人が再び会いたいと言っていた子が目の前に立ってくれた。ならば、彼を完璧な状態で仕上げて合わせてあげるのが一番じゃないかって」
「彼って、もしかして、リコのこと? 」
「有紗は勘がいいね。そうだよ、僕が探してた人は彼さ。僕と同じく壊れた器。僕とは違う形で壊された器。あの人は彼に会いたがっていた、自分の最高傑作だと豪語するほどに。でも、会ってみたら全然違う。普通を求める女子高生?あはは!そんなの無理に決まってるじゃん。どんなに取り繕っても消えない根底があるんだから。だけど、今の彼をあの人に合わせても意味がない。なら、どうするか。簡単な話でしょ?君たちをダシにして彼の根源に眠るモノを引き出そうとしてる。ねえ、有紗、君と彼はどれくらいの付き合いなの? 僕の質問にも答えてね」
有紗は友であった何かに臆することなく、声を上げた。
「あなたに答えることなんてない、リコが目的と知れたならもういい、お前は私が殺す」
圧倒的なまでの殺意。
それを感じ取ると瑠夏は嬉々として喋り出す。
それは彼に怒りをぶつける様に、自分を縛り付けていた者に対しての不満をぶつける様に大きな声で。
「救世の騎士王様が殺すと来たか!いいね!いいね!君が不殺を信条に戦った結果、このゲームで血が流れることが少なかった!殺し合いのゲームであるのに殺さないだって!ふざけるのも大概にしろよ! 」
その一言を後に、二人の姿が消える。
瞬間、再び現れ、小太刀と剣の互いの刃が打つかりあった。
火花が散り、暗闇が照らされると二人の攻防が一瞬だけ写り再び姿を消す。火花と共に現れる攻防は、一切引く事をしないという覚悟を感じるほどのものであった。
四度、五度、繰返すと一歩も引かない二人に辺りの血を舞い起こし、互いに他人の血で染まっていく。
互いの実力を見極めつつ、最初に仕掛けたのは有紗であった。剣がぶつかった瞬間、有紗は瑠夏の体を蹴り上げると自ら作り上げる臣下を召喚する。
「XII円卓騎士」
蹴りを防いでいた瑠夏の腕を有紗の呼び声に呼応して現れた騎士が剣を振るい防御ごと吹き飛ばす。
勢いよく、吹き飛んだ瑠夏はすぐに立ち上がるも有紗はそんな彼女を許さなかった。
「X円卓騎士」
弓を持った騎士が一矢を放つ。高速で放たれる矢をなんとか避けるも既に目の前に先ほど召喚されていた騎士が剣を振るった。
瑠夏は再び吹き飛ばされると目の前に立つ新卓有紗という存在が何故、この世界で不殺を誓いながらも相手を無力化してきたのかを再確認した。
すると、間髪入れずに矢が再び放たれ、左肩が再び抉られる。血が溢れ、滴るもそれを気にする事なく瑠夏は疾走した。
放たれる矢を避ける。
もう軌道は覚えていると確信し、有紗のいる下に速く、早く駆け抜ける。
彼の姿が見えるとその背後にいた騎士が剣を振るった。しかし、それすらももう彼女には通じない。
戦いの中、分析し、成長する。
至って普通のことであるが、彼女はその成長する速度が他人と違い恐ろしく速い。
それが漆原瑠夏と言う存在であり、彼女が隠し、持ち歩いていた才能。
騎士の剣撃を避けきり、間合いに入った。
騎士王の間合いであると同時に瑠夏の間合いでもある。
動揺のせいか有紗が動かないと知ると同時に自らの小太刀を彼の首に突きつけた。
しかし、小太刀が首へ突きつけた感覚には違和感しかなく、彼女の小太刀には血が一滴も付いておらず、自分がその場に誘い込まれたことに気づく。
「花乃魔術師」
瑠夏の背後から声がした。その声の主は正しく有紗であり、姿を現した彼はかつてない程に淡々とその力を振るう。
「XI円卓騎士」
「XIII円卓騎士」
二人の騎士が再び召喚され、瑠夏を容赦なく攻撃した。すぐに、背後の敵に対して反応し、その剣撃を防ぐも幾つかは受けてしまう。
しかし、それでも瑠夏は止まらなかった。
二人の騎士の攻撃を避け切り、本物の騎士王の前に立った。
既に、体は傷だらけ。
そんな中でも、彼女は嬉々として有紗の首を取ろうとする。
瑠夏は分析していた。
新卓有紗の魔術言語について。幾つもの戦いと自らが行った戦い。二つのデータを用いて至った結論。それは彼が同時に召喚可能な騎士は三体である事。騎士達は十三体である事。そして、一日に同じ騎士は召喚出来ないと言う事。
今日、イグザとの戦いの中、有紗が使っていた騎士達の数は八体。加えて今、この戦いで召喚した数は五体。
彼の強さとされていた騎士達は居らず、誰も騎士王を守ることが出来ない、無防備な状態。
「チェックメイトだよ、有紗」
小太刀の刃を有紗に向けると瑠夏は勝利を確信した。そんな彼女を有紗は気にすることなく闘争の意志を示す。
そんな彼に瑠夏は少し飽き飽きしており、嫌味を言おうと再び口を開こうとした。
瞬間、有紗の握る剣が光り始める。
既に、攻撃の手段が無いと確信していた瑠夏は刀身が光り始めた事に驚くもすぐに彼と決着をつけようと小太刀を振るった。
「これは全ての騎士の上に立つ、王たる所以の必殺。許したまえ、赦したまえ、個にこの力を振るうことを」
有紗の懺悔を聞き入れ、その輝きは一層濃く、鮮やかに光った。
黄金に輝く刀身を有紗は迫り来る瑠夏に向けて振り下ろすと同時に呟く。
「栄光齎勝利乃聖剣」
それは光であった。
凡ゆるものを飲み込み、浄化する究極の光。
その光が放たれた方向は全てを穿ち、巻き込み、破壊する。
新卓有紗が持つ究極の一。
全ての騎士達を召喚した後にのみ許され、騎士王の聖剣から放つ砲撃。
正しく、無慈悲の一撃。
チリすら残さないその一撃に瑠夏は焼かれた。
そして、光は収束すると近くには二つの横たわる屍のみが残った。
有紗は瑠夏を焼き殺してしまった事の後悔に襲われるもかつて仲間だった二人の亡骸へと近づき、何処かに埋めようと抱き抱えた。
しかし、屍は急に有紗の首目掛けて手を出した。唐突な出来事に有紗は反応が遅れ、屍に首を絞め付けられる。
両手が首を覆い、より強く絞めつけると有紗の頭に酸素が足りなくなり、抵抗する力が弱まっていく。
「転生者・変換」
首を絞める屍はそう言うと月明かりに照らされ、その正体が顕になる。それは先ほど焼かれたはずの瑠夏であった。
「ど、う、し、て?」
擦り切れるような声で有紗が問うと瑠夏は死者へ向ける餞だと優しく答えた。
「僕が自分のとするモノと自分をどんな部位でも好き勝手に入れ替える。それが僕の固有能力。君たちに隠すのは当然だろ?知られていた困ったけど気づかれてなくてよかったよ。有紗もあんな技隠してたんだし、お互い様。いいバトルだったよ。これで、ようやく、僕の会いたい人に会えるんじゃ無いかな」
軽い口調でありながら狂気に飲まれた表情で有紗の首をより強く、逃げられない様に絞め付ける。生気の無くなる有紗の顔に興奮しながら、瑠夏は自らが生きていると実感した。
「お前、何やってるんだ」
その声が聞こえるまでは。
感想、レビューいつもありがとうございます!
嬉しくて狂喜乱舞です!
続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひお願いします!
評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます!