二十四章 Foreword Break Sudden 其の伍
終わりは等しく不平等に。
生殺与奪の権は誰の手に?
「ウイ!瑠夏!俺に合わせろ!ぶち抜く! 」
一佐の呼び声に二人は呼応すると自らが持つ、根源の力を使い彼女を全力で援護する様に動き始めた。
一佐はウイの加護により、恐れることなく自らの体に回る力の全てを持って駆ける。
銃剣と刀を持って巨大な敵を、腹違いの姉を狩るためにその間合いに入った。
「あ、え、?ど、うし、て? 」
間合いに入った瞬間の出来事である。
その一言を残し、ウイの加護が消えた。
そして、間合いに入っていたのにも関わらず、雪音の動きが止まったことに一佐は瞬時に違和感を覚え、何があったのか確認するために背後へと視線を送る。
そこには瑠夏だけが立っていた。
彼女が持つ小太刀には血がベットリと付いており、それがウイのモノであると一佐は確信すると怒りを露わにした。
「何やってんだ、瑠夏ァ!!! 」
怒号が響き渡ると有紗は初めてその光景を目にすると何が起きたか理解が出来ず、手の動きを止めて、それを眺めてしまう。
そんな彼をイグザは攻撃しなかった。
いや、出来なかった。
有紗の視線が向こうに囚われ、そんな彼に向けて斧を突き立てるという事をイグザは出来ず、ただ、彼女もまたその光景を眺めてしまう。
全ての視線が自分に注がれ、今この場の主役が己である事を漆原瑠夏は歓喜する。
「あはは、どうしたんだい?みんな、腕を止めてしまって。真剣な殺し合いの最中に一人が死んだただ、それだけじゃないか? 」
神経を逆撫でする様なその一言に一佐はその場で唯一、瑠夏に向かって刃を突き立てようと動き出していた。
怒りが視界を曇らせ、赤く染まる。
真っ赤に染まった感情を爆発させ、それを瑠夏にぶつけた。
銃剣と刀を同時に振り下ろすもそれは二つの小太刀で簡単に防がれてしまい、その力強さに一佐はほんの一瞬、背筋をなぞられる様な感覚を味わった。
「あー、一佐もこっち側に立てる才能があったんだね。でも、残念。君には興味ないんだ」
ケタケタ嬉しそうに笑う邪悪が自分の知っている瑠夏と目の前に立っている瑠夏が同一人物なのか分からないほどに彼女の力量が違い、その認識の擦り合わせをしようと一佐は自らの思考を早める。
しかし、その速めようとする思考は瑠夏に取っての大きな隙であった。
考えながら銃剣と刀を振るう一佐の攻撃よりも瑠夏の小回りの効く小太刀はそれよりも速く、一瞬にして体に切り傷を生んだ。
血が溢れるも一佐は止まる事なく彼女へと武器を振るい、ようやくその刀の刃が左肩に振り下ろされる。
左肩の肉を抉るも骨がそれを受け止め、血が溢れた。互いの赤が地面に滴り、ぐちゃりぐちゃりと足音を立てながら瑠夏と一佐は睨み合う。
「このまま振り下ろしてチェックメイトだ」
「そうだね、このままじゃ、僕は死んでしまうな」
自分の死ですら彼女にとってはただの日常であると嬉しそうに笑いながら一佐を嘲笑うかの様に再び口を開いた。
「ねえ?一佐、君は強いよ」
「当たり前だ、それを証明するためにこのゲームに参加してる」
「でもね、一佐。君が思ってるより、君は弱いよ」
「承知の上だ。俺は俺が思っている以上に弱い。自分の弱さを認めて、俺は俺の強さを手に入れる」
「そっか、残念だね、一佐。君の強くなった姿が見れないなんて」
その一言を最後に一佐は彼女の左肩の骨を砕き、心臓を斬り下ろそうと力を込める。
その瞬間、一佐の体が動かなくなった。
悪寒という、それは彼女の体を恐怖という名の形で走り抜ける。
(なんでだ?!動かない、この刀を振り下ろせば殺せるはずなのになんで?!どうして?! )
一佐の視界は徐々に明確になっており、赤く染まった靄が消えてしまった。
「どうしたんだい?一佐?感情が薄れたかい?それとも、僕に恐怖したのかい? 」
言語化されたことにより、一佐の体は動かなくなる。その体の動かない感覚はかつて一度、味わったことがあった。
舎人子。
彼を目の前にした時、同様の感覚。
震える腕をなんとか動かそうと精一杯力を入れ、なんとしてもその目の前に立つ、邪悪なるものを、戦友を殺したものをものを切り裂こうとする。
しかし、それ以上動かなかった。
動かない一佐を見て、瑠夏は優しく口を開く。
それは優しくも残酷な口調で。
「一佐達との生活は楽しかったよ、じゃあね」
切り裂いていた左肩はいつのまにか治っており、瑠夏は最も自然に一佐の首を切り裂いた。
血を止めることなく、首から常に溢れ続ける。
三人分の血が粘着性の池を生み、グチャリと言う音を立てながら呆然としている有紗の方へと歩き出した。
「あー、君が強くなる姿を自分自身が見えなくなったね、残念。だけど、もうそろそろ終わり。さぁ、最後は君だけだ、有紗」
そういうと有紗の方に進むも、彼はそんな彼女を無視して、横たわる一佐の下へ移動していた。
「一佐!ねぇ!一佐!起きて、起きてよ!自分の能力使えばなおるはずだよ!だから、起きて! 」
有紗は横たわる体を起こし、一生懸命揺らすも一佐の目には既に生気がなく、動かぬ骸になっていた。それでも、有紗は諦めず、何度も、何度も、揺らす。
そんな彼らを瑠夏はつまらなそうに眺めていると彼女に対して、イグザが問いた。
「お前、あいつらの仲間じゃねえのか? 」
瑠夏はそれを聞き、つまらなそうな質問だなと思いながら至極丁寧に答える。
「うーん、仲間といえば仲間だし、仲間じゃないと言えば仲間じゃないよ」
「なんだ、それ? 」
「あはは!分からない、僕にも分からないよ。でもね、あの日、僕を救ってくれた救世主がこのゲームに参加してる。それならば、その人のために力を使うのは当たり前じゃないか? 」
イグザはその言葉を聞き、彼女に背を向けると自分の弟が亡くなった事実により、ぼんやりとこの光景を眺めていた雪音に声をかける。
「雪音、帰るぞ。興が削がれた」
その一言で雪音はハッとなると彼女を止めようと口を開いた。
「でも、乾くんのこと、待たないと」
「あいつの気を感じなくなった。あいつの弔いは今度にする。今は想定外だ。だがら、帰るぞ」
その一言を聞くと雪音は反論せず、二人はその場を後にした。そして、二人の死体と二人の生者だけが残り、生者の一人である有紗がもう一人の生者である瑠夏が睨み合う。
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