二十三章 Foreword Break Sudden 其の肆
影。
それは常に共にあり、横にあるもの。
狂ってしまった心のネジを埋めてくれるのは他人か?己か?
向けられた槍に舎人子は気づかない。
いや、気づくことなど出来ない程にそのオブジェクトに目が惹かれていた。
槍が舎人子の体に触れる直前ですら、彼の意識はそこに無く、頭の中には黒く、暗く、漆黒の意志に塗りつぶされている。
(血、内臓、臓物、黒い、グロい、赤い、綺麗)
グチャグチャゴチャゴチャ、頭に入って行った。
狂いそうで、狂いそうな、狂ってしまう様な。
乾の槍の先が肉にゆっくりと突き刺さる。
その瞬間、舎人子は狂気に飲まれた。
己の身を蝕む黒い意志が、彼の体を乗っ取り喰らう。
槍が突き刺さっていたにも関わらず、舎人子は気にすることなく最短距離で乾の頭を掴み掛かった。
槍が突き刺さり、穴を開けられた横腹から血と痛みが溢れるもそれはさっきまでの舎人子であれば気にしていた物であるが黒い意志が支配した彼には関係のない、むしろ、その痛みこそが好物であるかのように嬉々とした表情で乾の頭を地面に叩きつける。
槍で刺したのにそれを無視して攻撃してきた舎人子に乾は驚愕と共に底知れぬ恐ろしさを感じるもすぐに彼から距離を取ろうと地面に叩きつけられた体に思いっきり力を入れて立て直し、蹴りを入れてた。
舎人子の体にはかつてない程のアドレナリンが駆け巡る。自分の意識とは裏腹に動き出しており、蹴りがゆっくりと自分の方へと向かって来るを理解し、避ける選択肢が生まれるはずだった。
しかし、今の彼には避けるという選択肢は無い。
放たれた蹴りを手で受け止めると足を持ち上げ再び吹き飛ばす。
乾は商業施設のガラスが破り、服屋の棚に叩きつけられ、グラつく視界をなんとか保とうと頭を揺らした。
「ん、だよ。さっきよりも動きが気持ち悪い。痛みがないのか?オブジェを見てからの舎人子。あいつはやっぱり危険だ。殺す、必ず殺す、俺の命に代えてもあの人達に近づけさせない」
そう独り言を残し、彼がいた場所に戻っていくと槍の先端に向け、体に眠る因果を繋げるために再び口を開く。
「接続、命追い穿つ棘の槍」
乾は目の前に立つ、漆黒の意志を持った者を穿ち、葬るためにその体に込められた因果の全てを引き出す。黒い槍と合わさり混じった獣は武器に全てを込めてそれを放った。
殺意の込められた獣の槍に対して、舎人子は笑みを溢した。
嬉しそうに残酷なまでに、無情に、非情で、悪辣な、邪悪としか言えぬ笑みを乾は確認し、彼がこの世に居てはいけないモノと確信する。
今の舎人子は空っぽな虚空である。
意思はなく、自らが美しいと思うものに対して貪欲に貪る事しかない。
彼の視界は黒くて、暗い。
しかし、漆黒の中に輝いて見えたものがあった。
それは鮮血。赤く輝く、生命の力強さを感じ取れる血である。
真っ暗闇に染まる視界の中に輝く光を求め、舎人子は口を開く。
「接続、万華鏡幻影行進曲」
その一言の後、彼の下に黒い波が出来ていた。
ぐにゃりぐにゃりと揺らぐそれは、影であった。
影は反応する。
舎人子の意識とは関係なく。
無意識に、身勝手に、彼に向かう槍を掴み呑み込んだ。
乾の理解が追いつくまでに二秒の時が経つ。
追いついた瞬間、彼女の腕が一本、宙に浮いていた。
黒い刃が放たれ、腕をも喰らう。
それもまた影であった。
痛みを認知し、目の前に立ったそれが理解の及ばぬ狂気の何かである事を識るもそれを識る事が遅すぎた。
影が生み出した大量の武器が手負の乾に目掛けて放たれる。
痛みによる判断力の低下。
そして、片腕で持つ武器を振るうも勝負は一瞬であった。
ズタズタと体中に穴が空き、そこから背後の光景が見える。
乾は槍を使い何とか立ってはいるものの限界であった。だが、彼女は何としても、舎人子を屠ろうと穴だらけの腕と足を動かし、一歩、また、一歩と彼に近づいて行く。
(殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す)
殺意の行進を一生懸命に続ける乾を見て、舎人子は嬉しそうに笑っていた。
ケタケタとキャッキャッと無邪気な子どもの様に、乾と言うオモチャで遊んでいるかの様に笑い転げていた。
(殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、ころす、ころす、ころす、ころす、ころす、こ、ろ、す、こ、ろ、)
意識はもう途絶え途絶えでありながら乾は辿りつ影の上であるのも承知の上で、彼女は油断している邪悪に一矢報いるために赤く染まった思考と殺意を込めて槍を向ける。
「ト、ね、りこ、!!おれと一緒に逝けや」
槍を飛ばす。
至近距離で、狙いを間違える事なく満足気に放った。
だが、それは舎人子に届く事なく、地面に転げ落ち、乾は動かぬ屍になった。
それを見て、舎人子の視界は色ついてく。
ハッとなって辺りを見渡し、鮮血に溢れた世界が目の前に現れると吐き気が込み上げてきた。
動かない乾と目の前に置かれた血のオブジェ。
血に塗れる世界に、嫌悪しようとするものの自分の思考が何故か、拒否せず視界に入れようと自分の体が勝手に動く。
閉じない瞼に、埋められる真紅の光景。
その行動に対しての嫌悪。
自分に対しての嫌悪。
自己に対する憎悪。
そして、自分にしかその嫌悪をぶつけられ無い、自分のことでしか吐くことが出来ない、自分という人間の醜さに彼は、彼女は絶望する。
「私、もしかして、普通じゃないのかな?こんな光景を見て、思うことが綺麗だなんて、可笑しいかな、どうしよう、もう、私、どうしよう、助けて、有紗」
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