十八章 hey say 狂乱 舞 其の肆
万の魔を司り、法を持って悪を撃たん。
万魔定 vs 縦縞王子死闘開幕!
「万魔? 万魔ってあの凄腕弁護士の万魔定か! あはは!! 私はなんて運がいいんだ! 運だけになんてね! あははは!!!! 」
縦縞王子は笑う事を止めず、彼らを煽る様に声を上げていた。
それを見ながら定は何も言わずに手に握っていたガベルを王子に投げつけるもそれを彼女は簡単に弾く。
弾いたガベルが宙を舞う、その瞬間に彼女は自らの並行世界の姿を引き出す為に呟いた。
「幻想武装」
小さな体に布が被さり、それを自ら切り裂くと先程までカジュアルなスーツであった定の服装がビッシリとした黒スーツへと変わっていた。
「いいね、最高だ! 」
王子の殺意が彼女の姿を捉えた瞬間に加速する。しかし、定の体に目掛けて、走り出した狂人の姿を見ていたにも関わらず、肆呂と玖呂はそれを追おうとしない。
むしろ、彼女に向かう事を良しとして王子の疾走を眺めた。
両腕に握られたナイフを逆手に持ちながら定のいる下に到着するとそれを容赦なく振るう。
それは命を刈り取る事に必死になっており、力の加減を知る由もなく、気前よく、テンポ良く放たれた。
定はそれをポケットから二つのガベルを取り出すと凶器の刃物へとぶつけた。
刃物の刃がガベルの槌の部位にぶつかると木が刃物の侵攻を止め、互いに両腕が空いた状態になる。
次の瞬間、すぐにガベルから手を離し、定は王子の体に蹴りを入れた。
自然な流れで蹴りを入れられるも王子の笑みは絶えることなくはそれを見て、再びポケットからガベルを取り出し、それを顔に目掛けて投げ捨てる。
それもまた、命中し、頭蓋の中の脳を容赦なく揺らし、王子は地面に膝をついた。
予想外の体術に王子は舌鼓しており、自分を殺してくれるかも知れない存在に彼女は心を躍らせ、笑顔で喋るかけた。
「いい! とても!! とても!!! とても!!!! いい!!!!! なんだい、そのふざけた体術は! 得物が自分の体に刺さる事を恐れていないね! 」
「五月蝿いよ、お前。私は今、君みたいな巨悪に対峙して気分も、機嫌も悪いんだ。この程度で満足するならとっとと死んでくれないか? 」
「んんんん!!! 厳し! だが、それがいい! それでいい!! さて、その余裕は何処まで続くかな? 」
王子はニコニコとしながらパチリと指を鳴らす。
定は彼女からしっかりと距離をとっており、油断の一切ない状態であった。
しかし、彼女の凶刃は定の腕に突き刺さっていた。
驚きは無く、自らの腕に刺されたナイフを宙に投げるとそれをガベルで思いっきり叩き、王子目掛けて解き放つ。
豪速で飛んでくるナイフを簡単に受け止めると再びパチリ指を鳴らした。
今度は右太腿にナイフが突き刺さっていた。
それを見ていた肆呂と玖呂は流石に分が悪いと感じ、定と王子の対角線上に割って入った。
「定さん、大丈夫ですか? 」
「定さん、あんたがここまでやられるのは久々に見たぜ」
肆呂と玖呂の言葉を聞き、自らが冷静さを少し欠けていた事に気付くと血が流れる部位に手を置き、血を掬い上げ、それで前髪を捲し上げた。
「すまない、肆呂、玖呂、君達に落ち着かされるとはね。だが、証拠は揃った。始めようか、王子、君をここで殺し、私はこのゲームを調停して、子ども達を開放する」
王子は定の言葉を聞き、彼女の色がより濃く、燃える様な、その感情で自分の事を燃や尽くそうとする赤に変わっているのを確認すると姿勢を低くして走り出した。
向かい来る殺人鬼に臆する事なく、定は自らに眠る因果を繋げ、その本質を狂気を纏いし巨悪へ見せつける。
「接続、万魔乃決闘裁判」
定はガベルで壁を叩いた。
カーン
カーン
カーン
それは何かを告げる、鐘の音とも捉えられた。
三度の甲高い音が商業施設に内に鳴り響く。
そして、それに呼応し、定の体から万を超える魔が解放された。
手が、足が、目が、顔が、そこから一気に解き放たれ、それらが王子の体を縛り付ける。
「あはははは!!!! 何だいこれ!! 面白いな!! 体を縛るだけなのかい? 」
手足を魔が縛り上げ、一つの舞台へと彼女を無理矢理押し上げた。
それは万の魔が作り出し殿。
魔を持って、邪を裁く。
それが万魔定の因果の形。
「正しく、囚人! うーん!! 警察に捕まった事ないからこれは新鮮な体験だ! ふむ、これは裁判か、なるほど、なるほど、で、どうするんだい? 定! 君と私の勝負の行方は何処に行く? 」
「私はお前と勝負をしていたつもりは甚だない。今から行うのは裁判、お前と私、どちらの弁が立つかの勝負。クリティエ、裁判を始めてくれ」
クリティエと呼ばれた者は小さな体から金色の髪を靡かせ、彼らの上に現れると口を開いた。
「OK! 初めまして! 縦縞王子! 私はクリティエ! 君達、二人をジャッジする裁判長さ! 二人は自らが弁護人! 被告人は夜桜町の殺人鬼、縦縞王子! 原告は私達万魔の長、万魔定! さぁ、さぁ、始めよう! 最後の決闘裁判を! 」
*1*
日常は平然と進み、どんな非日常的な事が起きようともその流れは止まらない。
それはディヴィジョンで殺し合いをしている彼らにとっても同じ事である。
生徒会室に呼ばれた有紗は一人でそこに行き、その扉を叩いた。
「入ってくれ」
扉の向こうからの声を聞き、部屋に入る。
そこには早乙女イグザのみが座っており、自分が座るべき場所にカップが置かれていた。
有紗はそれを見ながらカップが置かれた席に着くとすぐに珈琲を淹れ始める。
「珈琲しか淹れられないんだが、お気に召してくれるか? 」
「ありがたく頂きます」
有紗はカップに注がれた黒く濁った液体を口の中に含むと冷静な口調で喋り出した。
「早乙女先輩、自分を呼んだのは今朝の分岐門からの連絡の事ですよね」
「やはり、お前達の所にも来ていたか。そうか、これは本当にあった事なんだな」
イグザは落ち着きながらも突きつけられた真実に驚きと戸惑いを抑えきれず、目の前にあるカップに手を取った。
少しして、いつも通りの自分を取り戻すと再び口を開く。
「orderの面々が全員殺された。彼らの長は万魔定。あの人には一度、現実世界でお世話になった身としては非常に残念な気持ちだ。敵として合間見えなければ、良き関係を築けただろうに」
再びコップを口に運び、自らの体に珈琲を流し込むとそれを見ていた有紗はその言葉をききながらも警戒心を解かずに声を上げた。
「orderのことは非常に残念です。自分も彼らとは一度だけぶつかりましたが話せば分かってくれて、あなた達よりも物腰穏やかでした」
「ふっ、嫌味か、言うようになったじゃないか、新卓有紗。だが、それくらいしてもらわなければ俺も、いや、俺達もやる気が起きん。今日、午後八時の強制転移を持って、騎士王とその臣下達に最後の戦いを申し込む。これを持って決着といこうじゃないか、救世の騎士王。お前と、俺、どちらの願いを叶えるかの張り合いだ。仲間達に伝えておけ」
イグザは有紗の目を見ながら布告する。
それはディヴィジョンを終わらせるファンファーレでもあり、地獄の始まりであった。
しかし、有紗は動じない。
自らを慕ってくれる仲間のために、彼らの願いを潰し、自らの願いを叶えるために、自らのエゴを突き通し、堂々と彼に向かって、宣言する。
「わかりました、その言葉、しっかり受け取り、対峙します。美食殿の長、早乙女イグザ、私はあなたを倒して、このゲームを終わらせます」
感想、レビューいつもありがとうございます!
嬉しくて狂喜乱舞です!
続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひお願いします!
評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます!