十六章 hey say 狂乱 舞 其の弐
目覚めた部屋での来訪者。
鏡面世界に潜む影。
光は無数に反射し、散乱する。
運命は徐々に分岐れていく。
*3*
肆呂と玖呂の後ろを歌を口ずさみながらついて行く。
縦縞王子は気分が良かった。
「君達は双子かい? 」
唐突に話をかけられたものの二人はそれを無視して、答える事なく歩を進める。
「無視しなくて良いじゃないか〜。折角〜、珍しい色をした人を見たからウキウキしてたのに〜」
そう言うと足を止め、王子はその場に座り込むと再び口を開いた。
「話を聞いてくれないなら動かない! 」
「動かないならここで殺すだけだ」
玖呂は腰に差してある刀に手を置くもそれを肆呂が静止する。
「そろそろ良い加減にしろよ、肆呂! お前、こいつを庇って何がしたいんだ?! 」
「玖呂こそ冷静になりなさい。私達の目的はあくまでこいつをあの人の所まで連れて行く事。こいつの生死はあの人が決める」
「ねえ、ねえ〜、私のこと忘れてない〜? 私の質問に答えないと〜、ここから動かないよ〜」
王子はニマニマと笑いながら二人を挑発すると彼らは互いに顔を合わせ、興奮していた自分達を落ち着かせる。
そして、歩かないと言う王子をついて来させるためにそれに答えた。
「双子だよ」
それを聞き、王子は今まで見たことない程の笑顔を零すと嬉しいそうに声を上げた。
「ラッキー!! 私はまだ双子を一人ずつでしか殺せてないから。同時に殺すとなると君達が初めてになるね! 」
曇りなき笑顔に玖呂と肆呂は嫌悪感と危機感を煽られる。
笑顔は他者を安心させる事に使われる感情の一つであり、見知らぬ人間のモノでも敵意を示さないモノだと二人は考えていた。
しかし、それから放たれる笑顔は底知れぬ狂気と闇。
深く関わればこちらが飲まれる。
そう感じた二人は何も言わずにそれを無視して、スタスタと前に進んだ。
*1*
目が覚めた。
上には白い天井と見知らぬベット。
ズキリと痛む頭をよそに何も考えずに口を開く。
「あれ? また、ねてた」
最近、家にいる時間が減ったなと思い放った一言。
先程、何処かで誰かと喋ったようなそんな気がしたものの、記憶の中に靄がかかり、そんなことはどうでもよくなっていた。
「やあ、鏑木さん。お目覚めかい? 」
聴きなれない声がして、体をゆっくり上げるとそこには月明かりに照らされて顔の輪郭が露わになった漆原瑠夏の姿であった。
瑠夏は何する事無く、舎人子を見つめながら彼女に近づいていくと再び口を開く。
「寝ぼけてるのかな? それともハッキリと僕の事が分からないのかな? 」
「いや、分かるよ。漆原さんだよね」
「おや、名前を覚えていてくれたのかい? 意外と優しいね。そうだよ、僕は漆原瑠夏だ」
瑠夏はそう言うと手を広げて自分に敵意がない事をアピールするもそれを見た舎人子は訝しむ様に声を上げる。
「自己紹介はいいから要件は何? 有紗から離れろとかそんなのだったらあなたとも戦う羽目になるんだけど」
「まさか! そんなことするわけないよ。僕はただ鏑木さんと仲良くしたいから来ただけさ」
「あっそ、ならいいよ。私は普通の女子高生だから仲良くしようとしてくれるなら私も喜んで仲良くするよ」
その事を聞き、瑠夏はニコニコしていた。
何を思っていたのかは分からない。
しかし、それは何処かで出会った事のある様な光景であるも記憶の扉がそれを拒み思い出せずにいるとそれを見た瑠夏が不思議そうな表情を浮かべながら声をかけた。
「大丈夫? 気分悪いなら看護師さん呼ぼうか? 」
「いや、別に、なんだろう。ねえ、漆原さん? 私たち何処かであったことある? 」
「いや、僕は鏑木さんの事は知らないよ。ただ、知人の伝で聞いてたけどとっても魅力的で不思議な人だなって思って」
「そっか、私の勘違いかな。そう言えばなんで私、家のベットじゃ無くて病院のベットの上にいるの? 」
「あー、倒れた時の記憶がないんだね、了解、了解。そうだね、鏑木さんは一佐と殺り合って現実に戻って来たら急に倒れちゃったんだよ。そこから有紗がテンパっちゃってねー。急いで病院に運んで来たって感じだよ。そこで有紗は鏑木さんが起きるまで側にいるって行ってたんだけど流石にそれは不味いから家に返したんだ」
瑠夏はうろうろとベットの周囲を歩き回りながら事の顛末を説明するも舎人子は違和感を覚えて口を挟んだ。
「なら、なんであなたはいるの? 」
一言で場が凍りついた様に感じる。
二人の間に間が生じるも、にっこりと記憶に残る様な笑顔を見せながら、それを補うかの様に瑠夏はゆっくりと答えた。
「ふふ、秘密って言ったどうする? 」
「それなら私はあなたと仲良く出来ない」
「あえて聞いとこうかな、理由は? 」
「普通の女子高生だから秘密を隠す人とは仲良く出来ない」
「あはは! やっぱり、鏑木さん、面白いね! これは今日の夜が楽しみだ! うん、十分話せたし満足かな。それじゃあ、鏑木さん! また、学校か放課後会おう」
瑠夏は最後まで微笑みながら開いていた窓から身を投げると姿を消した。
舎人子はそれを追わずにぼうっと見ているものの病院は少なくとも三階程の高さにある事に気づくと目を何度もパチクリさせる。
しかし、彼女は瑠夏が病院の窓から消えた事に驚くも自分が疲れているから見えた幻覚と無理矢理思い込み、そのまま目を閉じた。
***
午前七時半。
スマートフォンからご機嫌な音楽が鳴り響く。
その音を聞いた途端、毛布の中からモゾモゾと手を伸ばし、それを止めた。
新卓有紗は目を覚ます。
二日ぶりの自宅にて起床は何故か懐かしくもあったがそれ以上に舎人子への心配が勝り、町で一番大きな夜桜病院へと電話をかけた。
「はい、こちら夜桜病院になります」
「おはようございます、朝早くからすみません。昨日、急患で友達を運んだ者なのですが」
「ああ! もしかして、昨日のすごい焦ってた子? 」
電話越しからの言葉で有紗は少し恥ずかしそうにするもそれを隠しながら答えた。
「はい、そうです。その今、リコ、いえ、舎人子はどうしていますか?」
「あの子ならついさっき出て行ったわ。一応、検査しておくって言ったんだけど無理を押し切って学校に向かうって言ってた」
「そう、なんですね、分かりました。ありがとうございます」
電話が切れた途端、有紗は大きなため息を吐くと大きな声でつぶやいた。
「どこ行っちゃったのよ、バカリコ」
怒りなどとうに乗り越え、心配が勝る。
色々な考えをしながら学校に向かう準備をすると終わったと同時に部屋から出た。
リビングに向かうとピザトーストが置いてあり、そこには一枚、貼り紙がついていた。
「勉強をしなさい! by 母」
そう書かれていた紙を横に貼り、置いてあったピザトーストを温め直して齧り付く。
ピンポーン
むしゃむしゃとトーストを食べていると唐突に家のベルが鳴る。
有紗はトーストを咥えながら誰が来たかをインターフォン越しに見るとそこに先程まで心配していた舎人子の姿であった。
「有紗〜、学校行こう〜」
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