十五章 hey say 狂乱 舞 其の壱
狂気は伝播し、伝染する。
病の様に。
恐怖の様に。
覗いた瞳に映るものは天真爛漫な笑顔の巨悪。
*3*
舎人子がディヴィジョンへと参加して二日目の夜。
彼らが帰った後の夜の街。
今日の街の破壊加減を見ながら一人の女が大きな声で歌を歌っていた。
「無限大の〜、夢を〜、僕ら〜」
気分がいいのか徐々に声は大きくなっていく。
しかし、その歌声を聞きつけ、二人の影が歌の主と出会った。
「うん? どうしたんだい? 君達? 」
「どうしたんだい? じゃないだろ」
男はキレていた。
だが、女は何故、男が怒っているか理解が出来なかった。
「怒らないでくれたまえ! 私はか弱いか弱い、女だぞ! 」
ケタケタ笑いながら神経を逆撫でする様な態度でそれに応えると片方が腰に差していた刀に手を置くもそれをもう一人の片割れが静止した。
「なんでだ! 肆呂! こいつが康太を殺した張本人だろ! 」
「そうだろうね。だが、玖呂、ここで声を荒げても意味がない。話しがあるから着いてこい」
「別に話をするのはいいんだがー、断った場合はどうする?」
「その時は私の剣がお前の首を叩き落とす」
肆呂と呼ばれた男は横にいた玖呂よりも怒りを強く露わにしており、それを見た狂人はニマニマと笑っていた。
「君の怒りの色は白なのかい? 名前がシロだけに感情も白かー!! 良いものが見れそうだから君達に着いていくよ! 」
肆呂と玖呂は目の前にいる狂人に対して嫌悪感を抱くもなんとか彼女が着いてくることとなったので一先ず怒りを抑えた。
「ああ! そうだった! 私の名前を言っていなかったね! 私は縦縞王子だ! 以後お見知り置きを、諸君! 」
*1*
舎人子達は学校の大鏡から現実世界に戻ってくるとすぐに有紗は今日、謀反を起こした三人を背筋を正して鏡の前で立たせていた。
「私とリコに言う事無い?特に一佐」
名指しされた一佐は不満そうな表情を浮かべるも嫌々と声を上げる。
「今日は俺の独断で全員を危険な目に遭わせてしまって申し訳ない」
その言葉を聞き、有紗は手を組んでいたのを解くと少しばかり不満が残ってはいたもののいつも通りの口調で再び喋り出した。
「とりあえず、今回の件はこれでお終いにしたいんだけど、リコは大丈夫? 」
急に話を振られた舎人子は戸惑うもすぐに迷わずそれに答える。
「有紗が許すなら私もこの件に対して何にも言わないよ」
その言葉を聞き背筋は伸びているもののオドオドとしている態度が隠せていないういが口を開いた。
「そ、その、ごめんなさい、舎人子ちゃん......。わ、私がちゃんと、断れてたら」
「ん? 別に気にして無いよ。一佐は嫌いだけどあなた達は何もしてないもの。これから仲良くしよう」
「なら、僕も謝っておこうかな? ごめんね、鏑木さん」
「謝らなくていいのに、大丈夫だよ。私は普通の女子高生だから女の子とはすぐに仲良くなれるから〜。二人ともよろしくね」
そう呑気んな感じで挨拶をするも疲れが来たのか急に睡魔が襲ってきた。全員がまだ立って何かを話している中、舎人子はフラフラと揺られると足が覚束なくなり、彼女は地面へと倒れ込んでしまう。
ドタリ
人から生気が抜け、屍になる瞬間に聞こえてくる様な音であった。
「……!? ……コ?! リコ?! 」
*2*
(あれ?わたし、寝てた?)
舎人子はゆっくりと自分を起こすと目の前に広がる暗闇を見ながら不思議と見覚えがある様に感じていた。
何も見えない暗闇は彼女の感覚が消えて様にさせ、体があるのか分からなくさせる。
舎人子はその場を足であるかわからないモノを使い、立ちあがったような感覚で一歩一歩と目的もなく歩き始めた。
すると、一箇所だけ光が当てられている事に気付き、無意識のうちにそれに近づくため、足であると認識しているモノを進めた。
光が降り注ぐ場所にはテーブルと二つの椅子。
何のために置かれた物なのか分からない。
しかし、彼女はそこに座った。
自分の体が光に照らされ、徐々に体の感覚を投影する。
なかったモノがある様にあったモノがなかった様に。
光に照らされ自分というモノの薄れてボンヤリとしていた輪郭が明確になっていく。
「よお、久しいな舎人子」
テーブルの先を見るとある男が座っていた。
白いローブに身を包み、まるでどこかの宮廷魔術師の様な姿をした観測者の姿がそこにはあった。
「あ あ 、あ ? 」
喉を機能を確かめる。
声が出たなら喋れるはずだ。
そう考えると慣れない口で喉をすり潰しそうになりながら声を出した。
「あなたは 観 測 者? 」
「この空間で喋れるか。ふん、やっぱり予想より存在が近いらしいな」
舎人子は観測者の言葉を理解は出来ず、それは一先ず置いておこうと自分が今どこにいるのかを確かめようとした。
「落ち着けよ、お前が聞きたいのは分かる。ここが何処かだろ? 」
その一言を聞き、舎人子は返事をせずに頷くと観測者は再び喋り始めた。
「ここは狭間。俺だけが入れる場所だよ。ふん、まぁ、いい、珈琲を淹れてある飲めよ」
テーブルにはいつの間にかカップが二つあり、それを観測者が口に運ぶとそれを見た舎人子も同じ動きをする。
「おいし い、スッと とけこん
でくる? 何 これ? 」
「ふん、ようやく自分を取り戻したか。まぁ、いい。それはそうと誰に干渉されずに話をするとなるとここになるからな。急に呼び出してしまってすまなかった」
観測者の予想外の謝罪に戸惑うも舎人子は珈琲を飲んでから明確に自分の形を取り戻し、先程とは打って変わって違った口調でそれに答えた。
「別に良いよ、気にしてない。私もあなたから何かしら話が来ると思ってた」
少しだけ悲しそうな表情を見せる舎人子に対して、観測者は感情を見せずに淡々と話を進めようとする。
「そうか、なら話は早い、単刀直入に言う。お前は誰なんだ? 」
「私は私だよ、観測者、いや、ユグドラ。一佐も言ってた。私に自分がないって事を。あなたもその話をするためにこんな所に呼んだの? 」
「本当にお前はお前なのか? 舎人子? 俺はお前を知っている。お前が知っている以上にお前を知ってる。それを踏まえてハッキリ言うぞ。お前は本当に自分の魂が舎人子であると証明出来るのか?」
思ったよりも強い言葉に驚くも舎人子はその問いを少し考えた。
(私の魂が私じゃない? そんな事がありえるの? それじゃ、私は私じゃないみたいになる。違う、そんな事ない、そんな事がある訳ない。私は舎人子だ。誰が何と言おうと私の魂は私のモノだ)
考える。
考えれば考える程に。
その問いに嫌気が刺す。
数分が経つと彼女はその問いに返答した。
「私は鏑木舎人子だよ。あんたが私を知り尽くしてるならそれは違う舎人子だ。並行世界? だっけ? それを観測してて他の私を見た事あるってだけでしょ。なら、多少違っても、私は私。その世界の私とここでの私は違う、断言するよ」
それを聞いていた観測者の口元はほんの少しだけ微笑んでいた。だが、それは一瞬だけであり、すぐにいつもの無表情に戻ると口を開く。
「そうか、それがお前の答えならいい、俺は忠告した、好きにしろ」
「あんたのその自分勝手な態度、誰かにソックリね」
「そうだな、案外近くにいるヤツにソックリなんじゃないか? ここでの記憶は忘れる事になっているが手向に教えてやる。お前の魔術言語の名を。刻んでいけ、その魂に」
*1*
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