十四章 救世の騎士王 其の拾
二人の臣下を前に騎士王は降り立つ。
*3*
騎士王に盾を前にして突撃するもそれは全くびくともせず、宇佐見ウイは涙を浮かべた。
「瑠夏ちゃん!!!?!!!! やっぱり、む、む、む、無理だよお! 今日の有紗ちゃん、怖すぎる!! 盾でタックルしてもびくともしないよお〜!」
盾を蹴り飛ばし、後ろから二本の小太刀を携えて漆原瑠夏は両手に握られた刃物を振るう。
それを有紗は一本の剣で切り返し、容赦無く胸に突きを放った。
何とか一本の小太刀でそれを防ぐも威力は止まることを知らず、体が宙に浮くと吹き飛ばされた。
吹き飛ばされた瑠夏を見て、ウイは何とか有紗を止めようと魔術言語を用いて自らの因果に眠る盾の力を引き出した。
「コ、接続、デ、デ、眠地母神乃揺籠」
ウイの体にローブの様なモノが現れ、それを羽織ると盾の形が扉の様なモノに変化していた。
そして、盾の前部が開くと、そこから突如、土の砲弾が放たれる。
それは有紗に直撃した様に見えるも次の瞬間、砲弾は簡単に叩き切られ、彼もまた冷静に淡々と己の因果の可能性を引き出すために口を開いた。
「接続、十三円卓領域」
胸に持っていた刃を突き刺し、そこから新たな剣が生まれる。
鎧を纏い、マントを羽織ると自分の目の前に立つ二人の仲間に対して有紗は何故か怒りが止まらなかった。
「ねえ、有紗! もしかして、いつもより怒ってる!? 」
瑠夏がそう言うと有紗はしっかりとした口取りで答える。
「怒ってない。でも、少しだけ頭に来てる」
それを聞くと瑠夏は笑いながら再び口を開いた。
「ちゃんと怒ってて何よりだ。よし! じゃあ、僕も全力だ、ウイ! いつものお願い! 」
「う、うん、わ、わかった」
ウイは瑠夏の動きに合わせて盾を前にすると能力を使うために口を開いた。
「眠姫乃華燭典」
盾が再び開かれ、そこから瑠夏は現れたオーラの様なモノを体に纏い、一気に速度を上げて有紗へ目掛けて突進する。
それは蘭一佐と並ぶほどの威力であり、目にも止まらぬ速度で有紗に襲いかかった。
有紗はそれを真っ向から受けて立つと小太刀がぶつかった瞬間に瑠夏の動きを止めようと足に力を入れて全力でそれに応える。
ウイはそれを見ながらアワアワとしており、二人の衝突により生まれた風を盾で防ぐと何が起きたかを盾の後ろから確認した。
目の前では強化したはずの瑠夏が止められており、有紗の剣と小太刀がその場で止まっていた。
「やるじゃん、有紗」
「そっちこそ、ウイと連携の取り方が上手くなってる」
短い言葉で互いの成長を分かると再びその場で手に持つ刃を二人は同時に振るった。
小太刀は二つ。
剣は一つ。
両腕を使い、連続でその小太刀は振るわれる。
瑠夏は距離を取らせない様に間合いを詰めるも有紗はそれを許さず、自分の優位な形になる様に一つ一つと手段を潰した。
しかし、瑠夏の背後からウイが盾から砲撃が放たれると有紗はそれに対して円卓の騎士を召喚した。
「Ⅶ円卓騎士」
有紗の背後には槍を持った騎士が現れると岩の砲撃を簡単に貫い破壊する。
そして、近くにいた瑠夏に対しては有紗本人が詰め寄り、剣で突きを放った。
小太刀でそれを防ぐもその背後にいた騎士の幻影は無機物に機械的に容赦なく瑠夏の体に槍を突き刺す。
瑠夏の体はピンボールの様に跳ねて吹き飛ぶとウイは泣きそうな顔を浮かべながら有紗に喋りかけた。
「ア、有紗ちゃん、その、ごめんなさい! もう、限界だ、だよ! ウイちゃんも死んじゃうし、もう時間稼ぎはしないから! 許して、許して欲しいの。あ、その、ご、ごめんなさい、ゆ、許して下さい、でした、その、ご、ごめんなさい」
それを聞き、有紗は剣を鞘に収めると二人を見て、いかに自分が冷静でなかった事に気づいた。
仲間達を傷つけてしまった事を、今になって後悔し始めるも吹き飛ばされたはずの瑠夏がすぐに立ち上がり、口を開く。
「久々に見たよ、有紗の本気。最近、相手を倒すよりも生かす事を優先してたから気になっちゃってたんだけど心配いらなそうだ」
傷が痛むのを笑顔で繕い、瑠夏は有紗が悪くない事を示そうとした。
それに気付き、無理をしている事を察すると有紗は彼らに頭を下げた。
「ごめん、二人とも。私、興奮して冷静さを欠けちゃってた。話し合いで済めばいいのにこんなにしちゃって。本当にごめん」
「そ、その、自分達も蘭くんに逆らえなかったのが悪いし、そ、その、まだ一緒に戦ってく、くれる、かな? ご、ご、ごめんなさい、その敵対しておいてなんだけど」
ウイはオドオドとしており、その言葉を伝えるだけで目が潤んでしまっていた。それに対して有紗はゆっくり笑みを溢し、応える。
「それはもちろん! 瑠夏とウイが嫌じゃなければ、一緒に戦ってくれないかな? 」
「僕はもちろん、君が強くあり続けてくれるんだったら、ついて行くさ」
「わ、私、は有紗ちゃんに救ってもらった命だから、そのア、有紗ちゃんのためにこれからはもっと頑張って行きたいな、なんて」
「よし! それじゃあ、今回の件はチャラにしよう! とりあえず、リコと一佐が何処にいるか探しに行こう! 」
*3*
目を開くと意識が混濁していたが徐々に焦点があって行き、今まで起きた事を思い出す。
「俺は負けたはず」
彼女は図書館の下敷きになった自分の体をなんとか起こそうとするもそこにコンクリートはなく、潰れかけていた自分の足があった。
「チッ」
思わず舌打ちをしてしまう。
その舌打ちで横にいた黒髪の青年は横にいた女が目覚めた事に気がついた。
「あ、起きたんだ。案外、丈夫だね? 」
「なんだよ? 負けた相手に対して嫌味か? 舎人子? 」
二人は破壊尽くされた図書館をぼんやりと眺めている。そんな中、一佐がその沈黙を切り裂いた。
「なぁ、なんで殺さなかった? 」
「うーん、なんでだろうね? いつもの私なら友達の輪を乱すヤツは許せないんだけどさ。有紗が悲しむかなって思って」
「んだよ、アイツまかせかよ」
「そうだよ。私は全部、有紗に任せてるもん。有紗は何もしない私に使命を与えてくれるし、生きてもいいと肯定してくれる。だから、私は有紗がやれって言うならなんでもやるよ。でも、有紗はこの前の戦いで、自分が死にそうになったのに相手を庇ってた。ゲームの性質上、殺す必要があるはずなのに殺さなかった。なら、私がもしあなたを殺したら有紗は悲しむだろうって思ったら剣を振り下ろすのをやめれた」
その言葉を聞き、一佐は横に並んだ者が底知れぬ闇を感じるもそれを構うものかと反抗した。
「舎人子、お前のその考え、感覚、全部異常だよ。今のお前は人としての個を捨てている。それなのにお前はそれをよしとしてる。それが言い訳ないだろう。俺はお前に負けた。だから、お前に手を出すことは絶対にない。お前と有紗がやれと言うなら俺はやってやる。だが、お前は自己を確立しろ」
「あるよ、私の自己はある。あるからこそ、私は有紗のために生きたい。そう思ってる」
「話が平行線だな」
「そうね」
そして、再び沈黙が流れる。
二度目の沈黙は彼らが来るまで続いた。
「リコ! 無事!?! 」
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