十二章 救世の騎士王 其の捌
互いの意志のぶつかり合い。
譲れるものは一つも無く、研ぎ澄まされた殺意をもって目の前に立つモノを打ち倒せ。
写身は自らの髪を黒く染め上げ、体を作り替えていく。
舎人子は自らの体が昨日と同じ、男の姿である事を確理解すると有紗が辺りにいる事を確認した。
次の瞬間、自分同様黒い髪の女が唐突に殴りかかって来ると彼は自分に向けられた拳に反応出来ず、モロにそれを体に受けてしまう。
「誰? 」
「誰でもいいだろう? 」
受け答えはそれだけで彼女は再び舎人子の体に拳を放ち、彼はそれを応対する。
右から左。
突きから蹴り。
暴力を当たり前の事とこなしてきたその一撃一撃は舎人子の体へと容赦なく襲い掛かった。
しかし、彼はそれの連撃を目が慣れたのか途中からしっかりと受け始め、黒髪の女が見せた隙を突き蹴りを入れると距離を取る。
蹴りを腕で受け止めた女は手がじんわりと痺れ始め、それを紛らわすために手を振ると舎人子へと敵意を剥き出した口調で声を上げた。
「ちっ、こんくらいじゃ流石に対応してくるか。じゃあ、こっからが本番だ。覚悟しろ舎人子」
「あんた本当に何者なの? 誰? 」
「あ?それがまだ大事かよ。仕方ねえな、蘭だよ。さっきお前と言い合ったヤツだ」
「あんた有紗の仲間じゃなかったの? 」
「仲間だよ。だが、俺はお前が嫌いだ。だから、お前を試してんだよ」
「こんな事したら有紗が許さないと思うよ」
その瞬間、一佐は怒りの形相を向け、舎人子を睨みつけると再び口を開いた。
「そういう所だよ。そうやって他人に頼ってばっかり生きてんだろ? なぁ? そう言うヤツは必ずチームの輪を乱す。その前にお前を摘んでやる」
「あっそ、ならこっちから言うけどあんたもチームの輪を乱すタイプでしょ。そうやって勝手に考えて行動するヤツも」
その一言で互いに互いを睨み合いながら幾分かの沈黙が流れると次の瞬間、同じ言葉を発した。
「「幻想武装!! 」」
*3*
「瑠夏、ウイ、どう言うこと? なんで僕達違う場所にいるの? 」
青い髪を縛り上げた無防備な騎士王は目の前に立った二人の臣下に問いただす。
ミラーワールドに入ったにも関わらず姿形が全く変化しない瑠夏は表面上は笑いながらも有紗をどうやって鎮めようか考えていた。
すると、巨大な盾に隠れたウイが有紗に事情を説明しようと精一杯の声を振り絞り出した。
「そ、その、蘭くんが舎人子さんを試したいから手を貸せってい、言われてわ、私は嫌だったんだけど、その、お、脅されたと言うか、いや、ご、ごめん、今のなし、ごめん、その、お手伝いしたらいいことあるかなってお、思って」
ビクビクとしながら説明するウイを見て、瑠夏は考えるのを諦めると有紗に向かい彼を支える様に口を開いた。
「ウイが言う通りだよ、有紗。僕達は彼に脅されてここに立っている。まぁ、脅されている以上、彼らの戦いが終わるまでは時間を稼がせてもらうよ」
二人の臣下の行動に騎士王はため息を吐く。
しかし、それは目の前の二人に対するため息ではなく蘭一佐一個人のモノであった。また、それすらも呆れからくるモノでこれが過ぎれば彼女すらも新卓有紗は許してしまう。
だが、それは彼女らだけだった場合。
舎人子と言う親友に対して害をなした場合、彼は、新卓有紗は容赦をしない。
「二人とも、僕ね、暴力は嫌いなの。でも、あなた達がリコに対してそういう風にするなら僕は情けも容赦も何もしない」
彼らは既に幻想武装をしていた。もし、話し合いで終えれるので有ればそれはそれで円満的解決であり、戦闘になったとしても有紗は自分達仲間を傷つける様な事はしない。
そう言う考えを二人は心のどこかでしていた。
しかし、それは見たことも無い怒りを向ける有紗を前に、一瞬にして打ち砕かれ、互いに顔を合わせることなく戦闘態勢に入る。
騎士王は自分の臣下を傷つけられる事を許さない。
それが誰であろうとも同じく同様に怒るだろう。
だが、その怒りは今日はいつも以上に込み上げてくる。皆、同じ仲間であるにも関わらず、いつも以上に怒りが鋭く尖り、鋭利な刃物へと変わって行った。
口を開く。
騎士王は目の前に立った叛逆の使徒を無力化するためにその力を解き放った。
「幻想武装」
*3*
軍服と袴が混ざった様な服装で一佐は左手に銃剣、右手に刀を持ちながら黒い大剣を携える舎人子へと襲い掛かる。
舎人子は大剣でそれを受ける事なく、再び目で見ながら彼女の攻撃を避けようとするとそれを知っていたのか右手の刀から放たれた斬撃の直後に左の銃剣の引き金に指をおいた。
それが引かれる寸前、舎人子は斬撃を避けると一佐の攻撃が放たれるまでの行動一才を無駄無く計算し、すぐさま右足でその手を蹴り上げ、彼女の体に拳を放つ。
一連の動作で一佐は舎人子への警戒心を一気に高め、彼から放たれた拳を銃剣の柄で受けると彼女もまた一瞬にして攻撃への意識へ転換させて突進した。
銃剣とは銃の先端に剣をつけ、槍の様に戦える武器であり、突きと言う一点にのみに特化して、切る道具としての機能は皆無である。しかし、それは現実世界である場合であり、それは蘭一佐が研ぎに研いだ一品。
斬撃、突撃、両方に特化した彼女だけの専用武器。
それと右手の刀を用いて一佐は容赦なく二つの武器で攻撃を放つ。
刀を目の前で避けると地面を抉り、銃剣の突きは大剣にぶつけた。すると、舎人子の体の内部へと衝撃を広げ、ただの突きであるのにも関わらず、体に痺れが回り、動きの繊細さを欠けさせた。
それに対して一佐はアドレナリンが回り始め、武器を振るう速度を上げていくと舎人子は防戦を強いられる。
「勢いがねえな! オイ! もっとその武器振るってけよ! 」
一佐は武器を容赦無く振るう最中、舎人子に喋りかけるとそれにイライラした表情を浮かべながら答えた。
「五月蝿いなぁ、あんたの攻撃、痺れてビリビリするから武器も振るえないし、痺れで足ががくつく」
イライラして、ムカムカして、ザワザワする。
目の前の敵に対して楽しむ事よりも怒りが勝りそうになる。
すると、舎人子の頭が徐々に何かに支配されていく。
怒りの赤と彼女が持つ黒。
それは互いに混ざると彼の頭には目の前に立つ敵を打ち負かす事だけが存在意義と定義され、ゆっくり動き出す。
一佐に油断はなく、自分の幻想武装の性質である力を使って舎人子の動きの低下させていた。故に、彼の動きは分かりやすく遅くなっており、それは目に見える事実であった。
遅い、舎人子の速度は遅く、のったりとゆったりと。
しかし、その大剣を振るう速度はあり得ないほどに早かった。
「あっ? 」
声が出た。
その後、視界がモノクロになり、目の前には何故か地面が近くにある。
二つの武器で首が落とされるモノをなんとか、なんとか避けていた。
目の前にいた舎人子の目は赤黒く染まっており、それは本当に彼なのか分からない。
「立てよ、あんたから始めたんだ。あんたが死ぬまでやるんでしょ? 」
その声をもって舎人子であると理解する。一佐はそこに立つモノが同じ人であるかを疑うも自らの命に迫る危険に嬉々として笑みを浮かべた。
「そうだな、その意気だよ!第二ラウンドってヤツだな。ぶっ殺してやる」
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