十一章 救世の騎士王 其の漆
新たな仲間。
波乱の幕開け。
誰かの心に咲いた月桂樹。
誰の心に咲いたのか。
「イグザ、結局用事はなんなんだ? 」
荒波がそういうとイグザはパチリと指を鳴らし、乾が巨大な重箱を取り出した。そして、その蓋を開くと色とりどりの料理が詰まっており、それを一段、二段、三段と箱を置いていく。
「うちのメイドが作り過ぎてな、一緒に飯でも食おうと思って呼んだ」
その直後、生徒会室の扉がガチャリと開かれ、そこから唄種も姿を現した。
「あら、与一くん来てたの? どうも〜、イグザが無理矢理呼んだのかしら? 」
「どうも、ご無沙汰してます、唄種さん。まぁ、そんなところです」
荒波はそう言いながら唄種に席を空け、そこから立ち上がり、イグザに背を向けるとそこから立ち去ろうとする。
イグザはそれを見て、彼を呼び止めようと口を開いた。
「何処にいく与一? 」
「俺はお払い箱だろ? 生徒会面々で飯は食ってくれ。雪音さんはとても良い食いっぷりを見せてくれるだろし」
「えー、与一くんも一緒に食べようよー。イグザがせっかくメイドさんに朝から命令して作らせてるんだからさ〜」
唄種はニコニコしながらお茶を淹れ直すと自分のカップを取り出して、そこに注ぎ、一人優雅に重箱の一段目を突き始めた。
「はぁ、そう言うことだ。与一、お前のことも考えてこの量を作らせた。雪音は大食いだからなその分も計算して作ったから安心して食ってくれ」
そこまで言われ、断れなくなったのか荒波はため息を吐きながら席に戻り、肇を取ると重箱の二段目を突き始める。
***
放課後。
舎人子は有紗とこの後会う約束をし、遅刻をせず練習に向かった。
誰もいないと思っていた射場には既に荒波がおり、彼に一度挨拶をするとすぐに道具を組み立て、準備運動を始める。
準備運動が終わった直後、舎人子は今日の昼にあったことを一度忘れて平静を装いながら荒波に喋りかけた。
「荒波先輩、今日は早いですね。どうしたんですか? 」
「お前がいつも遅いだけだよ、リコ。お前は主将なんだからもう少し自覚を持て」
「今日は早かったので大丈夫です。普通の女子高生は遅刻もしますしサボります」
舎人子はそう言いながら弓具を組み立て終え、準備運動を終えると荒波になにかを言おうとするもそれよりも早く彼の口が動いていた。
「生徒会室で何があった? 」
ほんの少しの沈黙を経て、舎人子は精一杯の嘘をつく。
「遅刻が目立って呼ばれちゃいました」
「そうか、なら次から気をつけるんだぞ。普通の女子高生はそんなにしょっちゅう遅刻はしないからな」
荒波はそのほんの少しの沈黙を逃すことなく彼女が嘘をついている事を理解するも彼はそれ以上追求しなかった。その事に気づいていない舎人子は何とかなったと思い、すぐに的を出すと弓を握りしめ、七十メートルの先の的目掛け矢を放つ。
荒波はそれをスコープから眺めており、どこに刺さったのかを伝えた。
「九点左九時の方向。ギリギリだ集中しろ」
「はい」
舎人子は弦を弾き、弓具を調整すると再び矢を番え、それを力一杯放つ。
「X左十時の方向。その調子でいけ」
後輩達はまだ来ない。
そこは二人だけのゆっくりとした時間。
舎人子はそれが好きであった。自分を嫌わずに接してくれる荒波との時間がずっと続けばいいなと思いながら彼女は再び矢を番え、力一杯矢を放つ。
「八真ん中六時の方向。どうした?らしくないぞ」
***
「お疲れ様でした。みんな明日も頑張ろう」
舎人子がそう言うと部員が帰る準備を始める。彼女も珍しく居残りで練習する事なく弓具を片付けると弓場の灯がいつもより早く消えた。
携帯の画面を見ると六時半を指しており、舎人子は急いで準備をして有紗がいる集合場所へと走っていく。
少しして、有紗がいる場所に着くとそこには彼女以外に三人の影があった。
「あ! リコ! 来た来た! 遅刻しなくてよかったよー。部活お疲れ様!」
有紗がそう言うとスポーツドリンクの入ったペットボトルを舎人子に渡す。彼女はそれを受け取るとその周りにいた人々に対して見えないの敵意を持ちながら有紗に話しかけた。
「ありがとう、有紗。それはそうとこの人達は? 」
「ああ、ごめんね! 説明が遅れちゃった。昨日、私が話した仲間の三人! 右から蘭一佐、宇佐見うい、漆原瑠夏! 」
有紗の紹介で二人が挨拶をするも一人は動かず、それを見たういが口をオドオドしながら喋りかけた。
「あ、蘭くん、そ、その挨拶くらいはさ、しなきゃって、わ、私は思うなーって」
「うい、オドオド喋んなら話しかけんなよ。俺は自分から名前を名乗らないヤツにつくす礼なんてないだけだ」
「こらこら、ういを虐めちゃダメだよ。一佐」
「なんだ? 瑠夏? お前も俺に逆らうのか? 」
何故か険悪なムードが流れ始め、有紗はそれを見ながら溜息を吐くとそれを止めるために口を開く。
「はい、三人ともやめて。喧嘩はしないって言ったでしょ。今日から五人でパーティーを組んでディヴィジョンの攻略に入るんだから」
「名前すら言わないヤツと組むなんて嫌だね」
「じゃあ、私はあんたと組むのが嫌だ」
悪態をつく一佐に対して周りが宥めようとするも、それを横切る様に舎人子の一言がそれらをぶった斬った。
「今なんて言った? 」
「私はあんたみたいに横暴でなんでも自分の思い通りに行かないと周りに当たる様な人が嫌い。普通の女子高生だから私はあなたが大嫌い」
その一言で一佐は怒りが頂点に達すると舎人子に向かって走り出す。舎人子はそんな一佐を迎えうとうとするもの二人の間に有紗が入り込み、彼を睨みながら声を上げた。
「リコは私の親友。一佐、あなたは私に負けたからここにいるの。それを分かっていてその態度? 」
先程までの優しい雰囲気を纏っていた有紗からは別人の様な視線と語尾を感じ、一佐は何も言わずに舎人子から遠ざかった。争いは起こらなかったものの場の空気は最悪でその流れを断ち切るために有紗は再び口を開く。
「とりあえず、ミラーワールドに行ってリコに魔術言語を教えたいから早めに入ろう」
その言葉に納得したのかその場にいた全員が携帯端末の画面を光らせる。既に時刻は七時を回っており、普通の学生であれば家に帰っているべきであるもののそんな事はお構い無しにと画面に映る門を指すアプリへと手を置いた。
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