十章 救世の騎士王 其の陸
生徒会室に居座る、美食の王。
プレイヤー同士の密会はゲームをどのような方向に動かすのか。
「二年四組、鏑木舎人子、至急、生徒会室に来なさい。繰り返します、二年四組、鏑木舎人子、至急、生徒会室に来なさい」
放送部の面々に頭を下げて、彼は一人の生徒を呼び出した。背丈がそこそこあり、黒い髪をしっかりとセットしている男は満足そうに部屋に入る。
「会長、あんな事していいんですか? 」
「なんだ?乾、俺のやり方に不満か? 」
その部屋は夜桜第二高校生徒会室及びディヴィジョン参加者早乙女イグザとその仲間の拠点である。
「いえ、大胆でよろしいと思います。ですが、彼女を仲間に迎え入れるという事は不満です」
乾はそう言いながら棚にある茶葉を取り出し、それからお茶を淹れ始めた。幾分かして部屋に香りが漂い始めるとそれを乾は事前に準備していたかの様に既にイグザの前にティーカップが現れており、それを小刻み良く注ぐ。
「そんなに不満か? 乾、お前も知ってるだろ? 俺は敵でも強いヤツが好きだ。そして、このゲームは味方が多ければ多いほど勝率は上がる。なら、ヘッドハンティングは当たり前だろ? 」
「あれは危険過ぎると自分は感じました。自分の手を落とした瞬間の笑み。あれは最初から何処か壊れていたタイプの人間ですよ。確実に、チームの輪を乱す筈です。まぁ、雪音先輩がどう言うかはわかりませんが」
乾がそう言い終わると同時に生徒会室のドアがゆっくりと開かれる。すると、そこには銀髪のボブと先端が青く染まっている二人の女生徒が立っていた。
「新卓有紗、君は呼んでいないが、まぁ、いいだろう。ようこそ、生徒会室、いや、「美食殿」の拠点へ。我々は君達の返答次第では歓迎するし、逆もまた然り。分かるだろ?」
***
生徒会室の大きなテーブルにて早乙女イグザと対になるように鏑木舎人子と新卓有紗は座っていた。
「二人ともこの姿で直接会うのは初めてだよな。初めまして、夜桜第二高校50代目生徒会長早乙女イグザだ。こっちは副会長の乾拓真。よろしく」
イグザが最初に口を開き、自己紹介をすると名前を呼ばれた乾も何も言わずにペコリとお辞儀をする。しかし、それを伝えられた舎人子達は一向に口を開こうとせず、それを見たイグザが再び喋り始めた。
「挨拶くらいはしてくれないと話にならないだろ? まぁ、いい。呼んでも無いのに来てくれた救世の騎士王もいるし。いい話が出来るかな。なぁ、乾? 」
「それは彼女ら次第です。もし、話し合いで解決出来ない場合はその時は自分がケリをつけます」
イグザの背後に立っていた乾は二人にお茶を注ぐと彼らの目の前に置いた。
「安心しろ、うちの副会長が淹れるお茶は美味いからな」
「いただきます」
それにすぐさま舎人子は答えると目の前に置かれたティーカップを飲み干すとそれを突然イグザ目掛けて投げつける。乾は直ぐ様、舎人子が投げたコップを掴み、それをテーブルに置くと彼女目掛けて動き出すもそれをイグザは座りながら静止した。
「会長、舎人子は今、明確に敵意を向けました。しかも、あなたにですよ! 」
「いい、それくらい構わないさ。こんなもの日常茶飯事だろ。寧ろ、それくらいイカれていてくれないと困る。新卓、お前に質問だ。舎人子はお前の仲間か? 」
質問された有紗は舎人子の行動に驚いてはいたものの冷静にそれに応えた。
「先ず最初に勝手についてきた事とリコがコップを投げつけた事を謝罪します。申し訳ございません。でも、これでわかってくれますか。リコ、いや、舎人子は私の唯一無二の親友です。彼女の非礼を詫びることなんて容易いと思っています。なので、リコは私の仲間です。あなたの下には行かせません」
「ふむ、それがお前の答えか。俺は舎人子を高く買っているんだが、お前はどうだ? 舎人子」
「有紗が仲間って言ってるなら私は有紗の味方だし、あなた達の敵。大体、今日の明朝、殺されかけた相手の仲間になると思う? 」
「そうか、非常に残念だが交渉決裂か。なら、しょうがないか」
目の前にあったカップを手に取り、それを口に運ぶとイグザはゆっくりとそれを飲むと束の間の沈黙が流れる。
すると、生徒会室のドアからコンコンと言う音が鳴り、誰かが返事を待っていた。
「丁度いい、俺達と仲間の最後の一人を紹介しとこう。入り給え」
ドアが開かれるとそこには舎人子が何度も目にしてきた数人しか居ない気を許した先輩の姿があった。
「オイ、急に連絡寄越すなよ、イグザ。この学校スマホ禁止なの分かってんのにワザとやってんのか? 」
***
扉から荒波与一が姿を現すと舎人子は生まれて初めて動揺と言う感覚を味わった。
そんな事とは裏腹に彼女らな気付いた荒波はキョトンとした表情で再び口を開く。
「リコか? どうした? 生徒会室に呼ばれるなんて。なんかやったんか?」
口が上手く動かせず、自分が明らかに普通の女子高生とは違う行動をしていると感じると更に動きがぎごちなくなる。それを見ながら荒波は不思議そうな表情を浮かべているとイグザもため息を吐き、声を上げた。
「与一、お前はつくづくタイミングが悪いな」
「なんだと? 自分から呼んでおいてなんだったんだよ」
「舎人子、安心しろ。与一は何も知らない。今日は解散とする。また、会おう」
イグザの言葉を聞いても尚、ぼうっとしていた舎人子を有紗は理矢理手を繋ぎ、起こすと軽く会釈をしてその部屋を後にした。それを見ながら荒波は怪訝そうな表情を浮かべ、イグザに喋りかける。
「お前、リコになんかしたんじゃないよな? 」
「俺がそんな事をすると思うか?はぁ、お前とは長い付き合いなんだがこうも信頼がないのは少し凹むぞ」
***
「・・・・・・、・・・・・・コ、リコ! 大丈夫?! 」
有紗の声で自分が今どんな状況に置かれているかを理解し始め、徐々に冷静さを取り戻していく。
しかし、目の前に現れた自らが尊敬する先輩が敵では無いものの唐突の出来事に頭が理解出来ずにいた。
手を引かれながら歩く舎人子は何も考えられない抜け殻のようになっており、目の前にいた人にぶつかってしまうとへたりと座り込んでしまう。すると、すぐにぶつかった女性が手を差し伸べした。
「あら、あら、ごめんなさい。私の不注意でぶつかってしまいました。怪我はない? お友達は大丈夫? ぶつかって転ばせちゃうなんて私の体が大きばかりに本当にごめんなさい」
ぶつかった先、そこにら凡ゆるモノが大きい女性がいた。背丈は180近くあり、それに伴う様に各部全てが大きなその女性に有紗はすぐに頭を下げて口を開く。
「すみません、唄種先輩。自分の不注意です」
「あら、よく見たら有紗ちゃんなのね〜。いえいえ、私の方の不注意だったから気にしなくていいわ〜。そちらの子は?怪我とかないかしら? 」
座り込んでいた舎人子であったが状況を飲み込めたのか普段通りの表情を浮かべており、その問いに答えた。
「大丈夫です、ごめんなさい。自分からぶつかったのに謝ることが出来ないんなんて普通の女子高生として失格です」
「うん?? 普通の女子高生? もしかして、ふーん、あなたはそれをモットーにしてるのね〜。可愛い〜!! 食べちゃいたいくらいに可愛いわ〜。あら、私ってば、はしたなかったわ。自己紹介がまだだったわね〜。私は唄種雪音。生徒会会計の役職についてるの〜。以後、お見知りおきを〜」
雪音はそう言うとおじきをし、彼女たちに一瞥するとすぐさま生徒会室へと姿を消した。
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