九章 救世の騎士王 其の伍
敗北から始まる夜明け。
体に開いた穴は何処。
*3*
暗闇から自我が芽生え、地面に転がり落ちていたその体に意識の光が灯った。
「あれ、わたし、生きてる? 」
舎人子はポツリと呟くとハッとした表情を浮かべ、すぐさまつい先程まで血と内臓を垂れ流していた腹部に手を置く。
しかし、手を置いた箇所からは内臓おろか血すら流れておらず、先程の戦いが嘘であったかの様に傷が綺麗に塞がっていた。
「生きてるのか、私。ラッキーだったのかな? それとも傷が深くなかった? まぁ、いいや。女子高生なら生きててラッキーくらいで考えるかな。うん、多分そうだろうし。なら、そうしよう」
一人でに喋っているのも束の間、彼女は今自分が何時なのかを把握しておらず、忙しなく、スマートフォンの画面を確認する。
時計の針は八時を裕に超えており、それを見た途端、顔を真っ青にしながら先程の傷が嘘かの様に軽やかな足取りでその場を後にすると学校の大鏡まで駆け回ると急いでそこに手を置いた。
*1*
目の前を開くとそこはいつもの日常いつもの平穏。
しかし、大鏡から姿を現した舎人子はそれからもっとも遠い存在になっており、学生服では無くジャージに身を包んでいた。
(あ、服もない、有紗がまだ家だよね。不味いな、非常に。とりあえず、誰もいない所へ、あっ、そうだ。あそこなら)
舎人子は思った途端に階段を急いで降りて行き、教師達の目を掻い潜りながらある場所に向かう。
そして、彼女が向かった先はアーチェリー部の部室であった。急いで中に入るとスマートフォンの中に入っている通話アプリに手を置き、急いで有紗へと電話をかける。
***
舎人子の家にて彼女の帰りを一人待ち続ける有紗は学校に向かう支度を終えていた。
そんな時、机の上に置いていたスマートフォンがけたたましく鳴り響くとすぐさまそれを取り、舎人子からかけられている事を確認するとそれに応えた。
「リコ!?! 大丈夫?! 何があったの?! ねえ!誘拐されたの?! 今、どこにいるかわかる?! 」
有紗は彼女がいなくなっていた事による心配が勝り、自分の気持ちの手綱を持たずに喋り続けた。
そんな彼女を宥めるように舎人子は静かに口を開く。
「ごめん、有紗。事情はあって説明する。その今、学校なんだけどアーチェリー部の部室に学生服と今日の授業道具持ってきてもらっていい? 」
***
時計は一限が終わる手前まで過ぎ去っていた。
そこからゆっくりとバレないように有紗は学校に入り込むと舎人子の要望通り部室に彼女の荷物を届けに向かい、その扉をゆっくりと開ける。
「あ、有紗、本当に来てくれたんだ。ありがとう」
すると、扉の向かいからそれに気付いた舎人子の呑気な声を発しており、それを聞いた有紗は少し安堵するも彼女の元に走ると抱きついた。
「リコのバカ! 何やってたの?! 朝起きていなくなってたから、私を置いて朝練でも行ったのかと思ってたら、練習着も持って行ってないし、鞄も置きっぱだしで何かあったんじゃないかと思って、すぐに家を出てきたかったんだけど家を開けっぱなしにしておくのは流石に危ないし、でも、リコの身に何かあったらって思ったら動きたいし、とっっても心配したんだよ! 今度こんな事したら承知しないんだから! 」
少し泣きそうな声の有紗を見ると舎人子は先程とは違うトーンで彼女に対してしっかりと目を見ながら喋りかけた。
「ごめん、本当にごめん。私が軽率に行動しすぎちゃった。その次からはなるべく一緒に行動するようにする。本当にごめんなさい」
抱きしめられながらもしっかりと頭を下げた。それが分かった有紗は彼女から手を離し、大きく深呼吸をすると再び口を開く。
「うん、わかってくれればいいんだ、私がリコを本当に大事にしてるからこう言ってるのをわかってくれればそれでいいんだ。ふー、うん、少し泣いたらスッキリしたかな。うん、そのさ、リコ、もし嫌じゃなければでいいんだけど何をしてたのか教えてもらっていい? 」
「そうだね、情報共有は大事だもんね。じゃあ、先ず、今日の午前三時頃にあった出来事を話そうと思う......」
舎人子ができごと全てを正確に説明すると有紗は悲しい表情を浮かべていた。
自分が一番望んでいない人が死んだと言う結果に彼女は耐えきれず、顔を下に向けていると舎人子が慰める様に喋りかける。
「有紗のせいじゃないよ。そこにいなかったのに有紗が気を病む必要はない。例えば、戦争は悲しい事でしょ。でも、それは当事者じゃなければ分からない事のが多いんだよ。痛みも、悲しみも、苦しみもそれら全てを理解する事なんて戦争を経験してる本人達に申し訳ないと思っちゃう。だから、そんなに気にしない方がいいよ」
「リコはさ、たまにすごい的得た事を言うよね。それがリコの魅力でもあるんだけど。うん、でもね、私はその殺されてしまったと言う結果を出してしまったのが悔しくて仕方ないの。その人にだって家族や、友人がいたはずなのに」
そんな会話をしながら悲しそうにする有紗を舎人子はうっとりとした表情で眺めていた。有紗が浮かべる表情一つ一つが愛おしく感じており、今まで以上に彼女に対する思いが大きくなっているのを心の底で理解するもそれを抑え込もうと必死になる。
舎人子は少しして有紗への感情をなんとか落ち着かせると寝巻きから彼女が持って来てくれた学生服に着替え始めた。そして、着替え終えると共に舎人子は今朝の出来事が無かった様にケロッとした表情で有紗に喋りかける。
「もうこんな時間だしさ、そろそろ授業に出ないとね。それと、さっき話した人に気をつけないとえーと、確か、早乙女イグザに」
彼女の雰囲気に元気を分けてもらえたのか少しばかり心が楽になった有紗はそれにゆっくりと答えた。
「うん、そうだよ」
「その人を気をつけないとね。現実世界でパッと出会っても殺し合い出来ないし、相手の顔が分から警戒しようないけど」
「何を言ってるの?リコ?」
キョトンとした表情を有紗は浮かべると舎人子も同様に疑問の表情を浮かべると再び声を上げた。
「有紗は知ってるの?そのイグザって人」
「知ってるも何もそれうちの高校の生徒会長だよ」
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