笹原甚太郎は計画を練る
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甚太郎は少々焦っていた。学校を卒業するまでに必要なコネを作り、資金を集め、店の基盤を作る…何度も検討したが、何度やっても1年では無理という判断だった。
業種は既に考えてあるし、準備も進めている。工業の発展で街が成長を続けているから、建築関連の商売をすれば儲かるのは間違いない。勿論、普通にやれば他の店に太刀打ちできないので、取り扱う品目で勝負するのだ。家を建てるために必要な物は何でも揃う、どちらかといえば御用聞きに近い店を考えている。
木材はピンからキリまで揃う福山商店が協力してくれるから心強い。建築資材として扱われている高品質の木材には、日用品や工芸品に使えるものも沢山ある。福山商店では切り売りに対応していないから、買い取った木材を切り売りする。そうすれば、大工以外にも顧客が増える、なんて事も考えている。
家を建てるには木材以外にも色んな物が必要になる。それらをまとめて買ったり借りたり出来る商店を開けば、きっと儲かる。建材以外にも、頼まれたら作業着だって取り寄せるし、食事の支度も手配する。寒い季節には火鉢や焜炉で火を焚いて、温かい飯を出せば喜ばれるだろう。
福山商店に出入りしている業者に頼み、様々な業種の店に顔を繋いでもらった。甚太郎の人懐っこさと得意の記憶力で、紹介してもらった人間と仕事の話で盛り上がり意気投合する程度のことは簡単だった。福山商店との繋がりを強めるため、甚太郎と積極的に仲良くしたいと働きかける店もあったくらいだ。
残るは元手の支度だ。甚太郎は父親に頼んで、芋畑を新しく用意した。芋ならあまり手を掛けずに育てられる。父親の世話になるのは非常に不本意であったが、背に腹はかえられない。借りはいつか返せばいいや、と割り切った。芋でひと商売し、元手を用意する。期間は1年、長くても3年でケリをつける。
商売の準備を進める間も、福山商店での勉強は欠かさずにいた。どうやら大旦那は甚太郎を雇い入れ、いずれは完二の補佐として勤めてくれることを期待していたらしい。期待に添えられず残念だが、完二とは将来的に取引相手として良い関係を築けるだろう。
奈緒が相変わらず慕ってくれるのも嬉しかった。奈緒は物覚えが良くて、平仮名を覚えたら次は片仮名、そして漢字と、どんどん文字を書けるようになっている。自分の名前を上等な紙の短冊に書き、「じんたんに見てもらいたくて沢山練習しました!」と胸を張って見せてくれたので、「奈緒は字も綺麗だし、将来きっと凄い別嬪さんになるな」と精一杯ジェントルな感じで褒めてやった。すると、顔を真っ赤にして「これはじんたんにあげるので貰ってください…」と短冊を差し出してきたので、有り難く頂戴することにした。弟や妹から何かを貰うという経験が殆どない甚太郎は心底喜び、「ありがとうな。小さな短冊だから、財布に入れてお守りにするよ」と懐から取り出した財布に大事にしまった。
奈緒を見ると、「〜、〜〜っ!!」と顔を押さえて悶絶していた。そんなに恥ずかしがることはないのに…と思ったが、見ているほうが恥ずかしくなってきたので、甚太郎は「そんな恥ずかしがることはないだろ?」と声をかけた。しかし奈緒は顔を真っ赤にしたままトテトテと走り去ってしまい、心休まる休憩時間が終了してしまった。
いつまでも好意に甘えている訳にはいかない。同じ商売人として恩返しが出来るように頑張ろう、と甚太郎は気を引き締め直して机に向かったのだった。
甚太郎少年、頑張ります。