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蠢動

ヤン兄貴がいなくなって暫く、甚太郎は喪失感を抱えつつもどうにか普段通り仕事をこなしていた。

17歳になったら志願して陸軍に入るところまでは決めた。さっさと除隊して商売人の道を極めるか、職業軍人としてそのまま居残るか、はたまた新たな道を見つけるか…と考えを巡らせては溜息をつく日々だった。


ある日、街中を歩いているとふと視線を感じ、辺りをキョロキョロ見回してしまった。不思議なことに自分を見ている人間はいなかった。違和感の先には何があるのか、甚太郎には到底理解出来なかった。


ー ー ー ー ー

「中野少将…いや、伯爵の息のかかった少年が志願してくる、と」

「はい。伯爵の手紙では、『まずは一年志願兵として様子を見てくれ、本人次第では下士官どころか将校として大成する逸材だ』だそうです」


革張りの立派な椅子に座った古狸のような男に対して、薄ら笑いを浮かべながら狐のような目つきの鋭い男が喋っていた。

「成り上がりの田舎者が偉そうに…」

「まあ待て、あれでも威海衛の英雄じゃあないか。息子を旅順で生贄にして不動の名声を得た俗物だがな」

下品な笑い声を立てながら古狸が肩を揺する。


「伯爵が出しゃばるのは許されない。一年志願兵なんて誰も志願していないし、将校に取り立てたい奉公人なんてのも存在しない。いいな」

「はい。しっかりと、現場に言い聞かせておきます」

「結構。…笹原君と言ったか。気の毒に。拾われた相手が悪かったな。せいぜい一兵卒として頑張ってくれ」


全く悪びれた素振りも見せず、古狸と狐目の男が笑い声を上げた。

ー ー ー ー ー



「な、何やて⁉︎」

文子嬢が大声を上げ、甚太郎に詰め寄った。久々にお嬢のキンキン声を聞いて驚いた甚太郎は袖を掴まれ、身動きが出来ない。自分の決心をとりあえず仲の良い友達には告げておこうと思い、定例となっている勉強会兼茶話会でさり気なく切り出したのだが、どうも不興を買ってしまったようだ。


「いや、だから伯爵が推薦状を書いてくれて、志願したら兵役がすぐ終わるようにできるからそっちの方がいいかなと…」

「そんなん、そんなん上手くいくんか⁈大体20歳まで待ってもええやろ!そんなにウチといるのが嫌なんか!」

「え⁈いや、別にそういう訳では」

「だったら何でやねん」

「だから早く兵役を終わらせて…」


「甚太郎さんは、自分の道を探しておいでてす」

二人のやりとりを傍で見ていた詩織嬢が口を挟んだ。

「旦那様のお誘いに乗って、兵役を早めに終わらせて自分の進みたい道を決めたい、と」


思わぬ援護射撃に甚太郎の頬も緩んだ。

「そ、そうだよ!早く終わらせたら色んなことができるし!新しい献立を考えるにも、兵隊さんがどんな食事をしているのか知っていれば役立つかもしれないし!」

「そんな取ってつけたような理由で納得するか!」

涙目になったお嬢がポカポカと叩いてくる。親友の妹(奈緒)が怒った時に似てるな、と甚太郎は思った。


「文子さん、甚太郎さんが困ってますよ」

「知らんわ!ウチに何の相談もなく決める甚太郎が悪いんや!」

「お嬢、もう許してくださいよ。別に会えなくなる訳じゃないし」


「…え、そうなん?」

「はい。入営は近くの連隊ですし、休みもちゃんとあるので。給金は少ないですけどね」

ポカポカ攻撃が止んだのでホッとする甚太郎は、お嬢の顔が赤く染まっていくのを見た。

「なんや、そうか!いや、慌ててしもうたやないか!恥ずかしいわ〜。いやぁそれならそうと早く言ってくれんと!そうかー、ならええねん。兵役も早く終わるんやろ?そしたら、そしたら早よ戻ってきて後は長いこと…!」


恐らく今生の別れだと思って焦っていたのだろう。ホッとした様子で物凄い早口で喋っているお嬢を見て、もっときちんと説明するべきだったと甚太郎は反省した。

アップが滞っておりました…!


拙作を見ていただいている方には申し訳ありませんでしたm(_ _)m



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