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元焼芋屋の意地

「…やから、塩焼き芋みたいに甘辛い芋をおかずに入れてみてんけど、あんましお客さん喜んでくれへんみたいやねん」

「あー…いつもの弁当に、ってことですよね?」

甚太郎はいつものように文子の話し相手になり、今日は弁当の新メニューの相談に乗っていた。甚太郎は弁当の売り子というよりは、経営者見習いか文子の助言者という位置付けで雇われているらしかった。

「煮しめと一緒に入ってるなら、むしろ甘みを強くしないと釣り合わないんじゃないですか?例えば、甘露煮にするとか…」

「甘露煮⁉︎そんなんナンボすると思てるん?無茶苦茶言いよるな」

「だから、入れるなら一切れ二切れでいいんですよ。箸休めなんだから少しのほうがいいんです。芋に拘らず、例えば季節が来たら芋でなくて栗にしてもいいかもしれません」

「…成る程!少なめやったら砂糖もそんな使わんでもええし、ハナから季節の甘露煮を入れることにしてもええかもしれんな!さすが甚太郎さんや」

「いや、焼き芋に拘らなければすぐに思いつくかと…」

文子は他人を些か大袈裟に褒めるきらいがある。甚太郎はこそばゆく思いながらも、案外心地良いものだと素直に受け入れていた。他人を褒める人間は大抵性根がいい。

「ほな、焼き芋が美味しゅう食べられる弁当を考えなあかんな」

時々ずれた事を考えているのも、ちょっと引いて考えれば愛嬌と言えなくもなかった。

「お嬢、弁当にするよりそのまま売ればいいと思いますよ」

「さすが甚太郎、焼き芋屋の意地を感じさせる意見やな」

「…そろそろ時間じゃないですか」

「せやな、今日はお開きや。また明日な!」


あまり歳上とも上司とも思えない相手ではあったが、甚太郎は精一杯ジェントルに接していた。文子には自分を雇ってくれた恩義がある。自分の経験に興味を持ってくれたのも嬉しかった。文子には立派な経営者になってほしい。いつまで明治屋に世話になるかはわからなかったが、自分がここにいる間は力になろうと考えていた。


最近は常連も何人か出来、売り上げに貢献している気もする。特に、品のいい老紳士が贔屓にしてくれているのが有り難い。周りの人間がつられて買ってくれるのだ。

しかし、何故品のいい老紳士が贔屓にしてくれるのか、若干不思議だった。これが文子の言う人たらしの才能ということなのか…?いや、それはないだろう、と甚太郎は苦笑した。

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