或る陸軍少尉の戦闘 1(回想)
登場人物の過去のストーリーです。
1904年、遼東半島
爆風と金属片の嵐が地面を叩き、瞬く間に地形を変えていく。僅かに隆起した丘に造られた陣地は、目と鼻の先にある敵の陣地と睨み合いを続け、度重なる敵襲を斥けていた。
塹壕の中に陣取るのは、陣地の死守を命ぜられた1個小隊。鍛え上げられた精鋭が砲撃と歩兵の突撃により少しずつ削られ、今や損耗が3割を超えようとしていた。腰に刀を帯び、弾帯に拳銃を手挟んだ小隊長がぎりりと歯軋りした。
間近でドカン、バリバリという凄まじい破壊音が響いた。塹壕の中に砲弾が飛び込んできたようだ。
「2分隊長、戦死ー!」
まだあどけない顔をした分隊員が、恐らく分隊長のものであろう血飛沫を浴びた凄惨な姿で報告に現れた。滴り落ちる血の色とは対照的な、真っ青な顔色をして震えていた。
「曹長!2分隊の指揮をとれ!」
「了解!」
小隊先任を分隊長に指名する。今回の戦闘では、敵の攻撃を撃退した後に逆襲をかけるので分隊指揮官を欠く訳にはいかない。全くままならないものだ…。
「2分隊の指揮を緒方曹長が取る!」
ひとまず、これで2分隊は安心だ。
砲撃が止んだら敵の突撃を受け止め、敵陣に向けて突撃をかける。多分、玉砕するだろう。だが、少しでも多くの敵を道連れにしてやる…!
陸軍少尉中野廣継は深呼吸し、間もなく来る最後の号令発起の時に備えた。
次回に続きます。




