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カミさまのウーロン茶  作者: えいえんのいのち
9/20

二人分

 ねえ! カミさま? あそこに何かいるね(くろ)(むし)? なんだろう?


 ふむ?


 お賽銭箱(さいせんばこ)(した)石段(いしだん)(うえ)


 ふむ、 おお! これはコクワガタだな。 


 コクワガタ?


 お(まえ)さん、 クワガタを見たことがないのか?


 うん、 (なま)で見るのははじめて! へええー! どこから()んで()たのかな? この()だけ?


 ふむ、 この場所(ばしょ)でクワガタを見るのも(めずら)しくなってしまったな、 (むかし)はよくそこの御神木(ごしんぼく)にも()まっていたんだが……。


 ねえ! こんなコンクリートの上で大丈夫(だいじょうぶ)? ()のところに(もど)してあげましょう、 ね、 カミさま?


 お前さん、 なんだその、 はい!どうぞ、 というような視線(しせん)は? ふむ? (おれ)(つか)むのか? コクワガタとはいえこいつはなかなか()立派(りっぱ)(つよ)そうだな……。


 ——もしかしてカミさま、 虫、 苦手(ニガテ)なの?


 ふむ、 むかしは(つか)めたんだが今はなぜかな、 まあ(まか)せろ、 (かみ)不可能(ふかのう)はない、 よっと、 お、 こいつは(かた)いくせにちょっと、 つるつるとして (すべ)るぞ……。 あ。


 ああああああ! ちょっとおおー! ねえ、カミさま! ()とさないで! かわいそう!


 ふむ……御免(ごめん)。 思ったより(すべ)るのでな……。


 そんなふうにおそるおそる(つか)んでるからでしょ! もう! わたしがやります! ほっ! わ! 固い! (たし)かに滑るけどおお〜そのまま大人しくしててねええ、 ……ど、 どの木がいいかな、 カミさま?


 ふむ、 そのしめ(なわ)のついた(ふと)御神木(ごしんぼく)がいいだろう。


 オッケー! じゃあこの木の、 下のところに……はい、 無事(ぶじ)、 着地(ちゃくち)


 ふむ、 よくやった。


 ねえカミさま? この子なんで? 地面(じめん)()りていくよ? 木に(のぼ)らないのね?


 ふむ?


 下に(もぐ)りたいみたい、 (つち)()って……あらら……潜っていっちゃった。


 ふむ、 クワガタは夜行性(やこうせい)だからな、 やつら昼間(ひるま)は土の中か、 木の()()の中で(やす)んでるよ。


 へええ、 そうなのね、 おやすみなさいクワちゃん!


 ふむ? クワちゃん?


 じゃあなんであの子はあんなところにいたのかな? やっぱり(まよ)っちゃったのかな?


 ふむ、 (はら)がへって、(うご)けなくなったのかもしれんな。 (よる)拝殿(はいでん)(あかり)()いている、 だからそれを目掛(めが)けて()んできたんだろう。 クワガタどもには走光性(そうこうせい)があるからな。


 ソウコウセイ? コウコウセイ?


 ふむ、 やつら(ひかり)()かって()んでくるだろう。


 ねえねえ? じゃあどうして昼間は太陽(たいよう)()ているのに土に(もぐ)っちゃうの? 


 ふむ、 太陽に向かって飛んだら()()っこちてしまうぞ。


 ()ってる! それってイカロスでしょ? そうよね、 太陽……木の下にいてもこんなに(あつ)くてまぶしいもん。 わたしがクワちゃんなら日陰(ひかげ)(すず)んでいるわきっと。 でもじゃあなんで夜の(あかり)平気(へいき)なのかな?


 ふむ、 やつら(つき)()きなんだろう。


 あ、 なるほどー! 月の光と思って(あつ)まるんだ? ね! カミさまは、 神様(かみさま)だったら、 クワちゃんとは(はな)せないの?


 ふむ。 (おれ)(ひと)(かたち)をとっていないときは話せるが、 (いま)は、 人の形をとっているので話せんのさ。


 ひとのかたち?


 ふむ、 つまりお前さんたちにもこの身体(からだ)が見える状態(じょうたい)のときだ。 それにそもそも、 人間の言葉(ことば)とクワガタの言葉はまったく別物(べつもの)発声器官(はっせいきかん)構造(こうぞう)からして……。


 へえええ……ふううん……なるほどおお? じゃあ今度(こんど)ぜひその、 (ひと)(かたち)をとってないときに()いてきてね?


 ふむ、 いつかな。


 いつかね、 約束(やくそく)よ! えへへ。 ね、 カミさま、 この木がゴシンボク?


 ふむ、 御神木(ごしんぼく)だな。


 うわー(おお)きい〜! たか〜い! 上の(ほう)が見えないよ……!


 ふむ、 ()(しげ)ってるからな。


 うーむ、 わたしの直感(ちょっかん)、 (たか)二十(にじゅう)メートル! ねえ、(ふと)さは? どのくらいの太さなんだろう。 ……ねえカミさま! ちょっとそっちに()ってみて!


 ふむ? どこだ?


 わたしここに立って、 カミさまは木の反対側(はんたいがわ)に!


 お(まえ)さんは……(なに)をしてるんだ?


 ……(はや)くううう〜! カミさまも()(まわ)して!


 ふむ?


 木に(からだ)をつけてそっち(がわ)から手を()ばして早くううー! (うで)がしびれるー!!


 ふむ、 手をつなげばいいのか。 


 ほら……んんん……やっぱり! この木! ちょうどわたしたち二人分(ふたりぶん)の太さだよ!


 ふむむむ、 なるほどな……もう、 いいか?


 ……っはあー! つかれたあ〜! もう手が限界(げんかい)、 (うで)を伸ばすのって大変(たいへん)ね、 (とど)かないかと思った!


 ははははは、 (おれ)の腕が(なが)くて(たす)かったな。 しかしお前さん、 (かみ)(ほお)(ふく)(こけ)だらけになっているぞ。


 え? わ! やだ! わたし緑色(みどりいろ)になってるー! どうして?


 お前さんが御神木(ごしんぼく)にへばりついたからだろう? 雨上(あめあ)がりの湿気(しっけ)のせいで(こけ)()がれやすくなっていたからな。 


 うそー! やだあああ。


 ふむ、 見てみろ、 お(かげ)御神木(ごしんぼく)のほうは苔が落ちて綺麗(きれい)になったぞ ははははは!


 だって、 だって必死(ひっし)だったの! ねえ! カミさまの着物(きもの)はどうして緑色(みどりいろ)になってないの? ねえずるいー!


 ふむ? 俺の腕が長いからだ。 それに(こけ)()()てたくらいではつかない。 それでも少しついてしまったがな。 お前さんがそれほど頑張(がんば)って()きついていたということだろうな。 はははは!


 もうー! カミさまがもう少しゴシンボクにくっついてくれたらわたしがこんなに必死にへばりつかなくてもよかったんだわ! ねえ……(こけ)って、 (あら)えば()ちる?


 ふむ、 さて、 (こけ)まみれになったことはないからわからん。


 そう、 そうよね、 わたしがちょっとバカだったの、 わたしだって人生(じんせい)の中で苔まみれになったことなんてないもん。


 ははははは!


 (わら)わないで? ほんとうのバカではないの、 ただ、 ちょっとだけバカだっただけ……。


 ふむ? いや、 (たの)しかったぞ、 まさかそんな(はか)(かた)をするとは思わなかったが。 二人分(ふたりぶん)の太さか。 


 うん、 ぴったり二人分だったよね! あ、 カミさまは少しヨユウがあったみたいだけど……でもどのくらいでこんなに成長(せいちょう)するんだろう?


 ふむ、 まだ百年(ひゃくねん)()っていないんだよ、 この木は。


 へええそうなんだ……それでもこんなに大きくなるのね。


 ふむ、 今では御神木(ごしんぼく)として立派(りっぱ)になってくれたが、 この神社の建物(たてもの)よりもだいぶあとにこの場所(ばしょ)()えられたからな、 もとは本当にちいさなちいさな苗木(なえぎ)だった。


 ……っていう()(つた)え?


 ふむ、 言い伝えではなく、 (おれ)が見ていた光景(こうけい)だよ。


 だって百年も前からあるんでしょう? それなら今頃(いまごろ)カミさまはおじいちゃんのはずじゃない?


 ふむ、 だから(かみ)不老不死(ふろうふし)であると何度(なんど)……。


 もうわたし行かなきゃ、 こんなに緑色になっちゃったし()ずかしいから……また、 ()ますね、 カミさま。


 ふむ、 ()て、 ……ほら、 お前さんの(かみ)御神木(ごしんぼく)()()()が付いていたよ。 ()っていきなさい。


 わ、 ゴシンボクのカケラ、 いいの? 


 ふむ、 御神木(ごしんぼく)のほうは少し(しろ)くなってしまったが、 ()がれ落ちたのもまたご(えん)だ。


 ありがとうカミさま! ゴシンボクさま!……じゃあ()くね、 またね!


 ふむ、 またな、 行ってらっしゃい!




 

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