表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カミさまのウーロン茶  作者: えいえんのいのち
8/20

幸福な日々

 ふむ。 それでお(まえ)さん昨日(きのう)、 ()()りようとしたな?


 え?


 ふむ、 そして、 やめたな。


 え、 どうして……。


 ふむ、 (かみ)の、 (おれ)(こえ)()こえたはずだぞ?

   「やめろ!」

 とな。


 ——目の前でいきなり大声(おおごえ)ださないでください……心臓(しんぞう)(わる)いわ。


 はははは! (おのれ)の心臓を()めるようなことをしようとしていたお前さんが何を()うのか。 ……ふむ、 まあいい、 それでお前さん、 なんでやめたんだ? ()ぶことを?


 その……(こえ)が……したから、 (あたま)(いた)くなるくらいの(こえ)。 それで、 こわくなって(ちから)()けて()てなくなっちゃったの。


 ふむ、 力が抜けた時にそのまま()っこちなくて()かったな。 というより、 お前さんは本気(ほんき)でなかった。


 わたしは、 本気(ほんき)だった!


 ふむ、 そうか? だが声は()こえたな?


 はい……声は聞こえた。 でもカミさまの声じゃなかった。 ……(おも)()せなくなっちゃったけど。


 ふむ、 (すき)がなければ声も(とど)かないぞ。 お前さんには(まよ)いがあったから、 だから届いた。


 じゃあ本当(ほんとう)にカミさまの声だったの? どうしてわたしを(たす)けたの?! わたしはもう(すこ)しで……。


 ふむ、 助けることに理由(りゆう)必要(ひつよう)か?


 必要よ! それに、 ()ぬことを阻止(そし)することが助けることになるの?


 ふむ、 だが、 お前さんが毎日のように(ねが)っていたことは死ぬことなどとは対極(たいきょく)のことであった。


 どうして? だってわたしは(こころ)の中で願っていただけで、 ここでお(いの)りしているときも(くち)には()していなかったのに。


 お前さんが、 (かみ)(ねが)(ごと)をして、 神であるこの(おれ)がその願い事を()け取った。 それに何の不自然(ふしぜん)がある?


 だってカミさまは、 あなたは自称神様(じしょうかみさま)で、 ()()の神様じゃないし、 テレパシーみたいに声を聞いたり、 とか、 そんなのぜんぶ、 不自然じゃない!


 ふむ、 お前さんは、 (むし)()らせる、 という言葉を聞いたことはあるな。 人間にも五感(ごかん)感覚(かんかく)()えたところで外部(がいぶ)からの、 (なに)か、 を受け取る(ちから)(そな)わっている。 そして(つね)に外部へ、 何か、 を(はっ)してもいる。 それは誰でも持っている力だよ。 


 でもなんで? なんでとめたの? もう(すこ)しで(ラク)になれたのに……。


 ふむ、 (らく)にはならんぞ。 お前さんがもしあのまま飛んでいたとしても、 (いのち)だけは助かった、 だが身体(からだ)はまったく悲惨(ひさん)状態(じょうたい)……ふむ。 (たと)えればな、 一度踏(いちどふ)みつけた(あり)が死なずにそのまま()(つづ)けることを想像(そうぞう)してみるといい。 それはまったく、 (らく)ではないぞ。


 そんな……。


 お前さん、 人間(にんげん)の命は(みじか)いのになぜ、 さらに短くしようと(おも)うんだ?


 だって、 (いま)が、 つらいから……。


 ふむ。 今のつらさが一生(いっしょう)続くわけではないだろう?


 (なや)(ごと)のある日の(なが)さは一生分(いっしょうぶん)(かん)じるの……。 悩みのない神様(かみさま)にはわからないんだわ! なんでわたしが()()りるのをとめたりしたの?


 ふむ。 お(まえ)さんがここに()て、 毎日(まいにち)のように祈願(きがん)していたことはこうだった、

  お(とう)さんの病気(びょうき)(はや)()くなりますように

  そして家族(かぞく)親戚(しんせき)(まわ)りの(ひと)もみんな長生(ながい)きしてほしいです

  それとわたしもできればまだ()きたい……。


 お前さんが、 そう、 (ねが)ったんだよ。 


 わたしはもうずっと(つか)れていて、 生きたいって思ったけど……でもどうしたらいいかわからなくなってもうとにかく、 もうとにかく、 ぜんぶ疲れちゃったの。


 お前さんが飛び降りることを()める前に、 もしそのあとで幸福(こうふく)日々(ひび)がくることを知っていたなら、 飛び降りて命を()とうなんてことは、 (かんがえ)えもしないだろう?


 だって、 そんな幸福(こうふく)日々(ひび)なんて、 ()ないものきっと。


 ふむ、 なぜそう思うんだ?


 ——神様(かみさま)はいるかもしれないけどわたしを(すく)える神様はいないの。 


 お前さん、 今のお前さんには見えないだろうがこの(かみ)には、 (おれ)には見えるよ。 お前さんを()っている幸福な日々が、 な。


 ——ほんとうに?


 ふむ、 お前さんの父親(ちちおや)も、じき回復(かいふく)()かうよ。 それなのに、 お前さんがいなくなってしまったらどう思うね?


 えっ……お父さんも(たす)けてくれたの?


 ふむ、 それはお前さん、 病院(びょういん)()ってみたらわかるだろう?


 本当(ほんとう)に?! ありがとうございます、 カミさま! じゃあ行きますね、 わたし! また()ます!


 ふむ。 またな、 行ってらっしゃい!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ