てんとう虫のマンション
ねえカミさま? 階段のところにオレンジのユリが咲いてるの。
ふむ、 百合? ああ、 あれは忘れ草だ。
ワスレグサ?
ふむ、 お前さんの言うように花は百合に似ているかもしれんが忘れ草は一日しか咲かない。
うん、 昨日は咲いてなかったの。 だから大きな花が咲いてて驚いちゃった! ふうん。 たった一日で終わっちゃうのね。
ふむ、 ……とは言われているが、 実際には明日も咲いているよ、 花には少し元気がなくなっているだろうがな。 それに他の蕾がまた咲き出すからまだしばらくは見れるぞ。
そっかあ! よかった! うん、 よく見たら蕾が三つある! これから咲くのね楽しみ。 みんな咲いたら花束みたいになるよね!
ふむ、 一つ咲いては一つ終わっていくから同時にはどうだろうかな。
へえー、 タイミングが違うのね? ワスレナグサさん。
ふむ? ワスレナグサではなくワスレグサだぞ。 ワスレナグサはまったく違う花だ。
そうなのね、 綺麗に咲いてね忘れ草さん! あとね、 てんとう虫がいるの! わたしてんとう虫見たの、 初めて!
お前さん、 忘れ草の反対側を見てみな。 石段の脇に背の低い藪枯しという草花があってな、 それに集まってくるんだよ。 ほれ、 そこ、 下の方に。
わあー! 本当! すごい、 たくさんのてんとう虫! タワーマンションみたい!
ふむ、 タワーマンション?
この黒い子って幼虫かな? サナギ? みんなこの草の中で暮らしてるのねー。 だから、 うん、 てんとう虫のマンションみたいだなって思って。
ふむ、 真ん中にちいさな花が咲いてるだろう? それがあまい蜜を出すから色々な虫が集まるんだ。
へえー、 花からジュースが出てくるなんて良いわねえ。 きみたち立派なてんとう虫になるのよ。 あ、 ……これ、 カミさまのウーロン茶! 来た時すぐ渡せば良かったね、 ちょっとぬるくなっちゃったかも。
ふむ、 かまわんぞ! ちょうど喉が渇いたところだ、 有難う。
そういえばわたしホンモノの虫とか花とかちゃんと見たことなかったかも。
ふむ、 本物? てんとう虫に本物や偽物があるのか?
アニメ……とか、 ゲームとか、 ぬいぐるみとかあるでしょ、 花は花屋さんとか。 それは偽物じゃないけど、 なんていうか、 自然の?
ふむ、 自然、 人間が作らなかったものだな。
うん。 だって花が枯れる以外に閉じたり開いたりするなんて知らなかったもの。
ふむ、 それだけじゃないぞ、 太陽の位置によって花や葉の向きも一日の中で変わっている。
そうなの?!
ふむ、 お前さんもずっと日陰に居たくはないだろう? それがたとえ夏とはいえ。 同じように草花も日差しに当たりたいのさ。
うん! 梅雨みたいにずっと太陽が出ていないと気が重くなっちゃう。
ふむ、 日陰が好きなものもいるけれどな、ここの紫陽花たちのように。 最近の暑さですっかり色も茶色く失せてしまった……。
アジサイももう終わりなのね、 お疲れ様でございました!
ふむ。 紫陽花が過ぎて短い夏が来る。
短い夏……夏ってなんで短いの? こんなに。
ふむ? ずっと暑いのがお好みか? そういう国もあるようだが。
んー、 それは困るかも! わたしは季節が、 四季があるのが好きだから! ということでわたしもう行かなきゃ! カミさま! また来てもいいですか?
ふむ、 いつでも、 お前さんのご勝手に、 だ。
よかったー! じゃあまたねええー、 カミさまー!
ふむ、 走る時は前を向けよ、 行ってらっしゃい!