三十二段
二十九……三十二段……到着! あ! カミさまおはよう!
ふむ? お前さん朝から何をやってるんだ?
えへへ、 階段の段数を数えてたの、 何段あるのかなと思って。
ふむ、 石段は三十二段だったか?
うん、三十二段目でここに到着したよ! 下からだとすごく急斜面に見えるのに、 意外と少ないのね?
ふむ、 一段目にたどり着くまでの神社入り口の、 鳥居部分が急な坂になっているからな、 もしあすこにも石段があればあと十段ほど増えるかな。
わたしここからの眺めが大好き。 街を見下ろすっていうほどでもないけど、 少しだけ高い場所っていうところが。
ふむ、 毎日ここにいると飽きるぞ。
そうなのかなあ? 階段の周りにも草花がたくさんあってすごく綺麗で……下から登ってくるとき、 このまま天国まで登れそうって思ったの。
ふむ……天国? それじゃあここがその天国ってことか、 ははははは!
うん、 カミさまもいるし。
ふむ、 俺はこの神社の神だが、 天国の神ではないぞ?
でも、 自称、 なんでしょ?
ふむ、 だから自称ではないと何度、 言ったら……。
あ! ウーロン茶、買ってきたの! はい! カミさまのウーロン茶! どうぞ!
ふむ、 有難う。 おっ、 この前のより冷えてるな。
うん、 今日は買ってきたばかりだから、 すぐそこの自販機……神社からだと百メートルくらいかなあ?
ふむ。 ふまい! 夏はよく冷えたつめたいウーロン茶に限るな。 ふう〜む。
やっぱり、 カミさまも暑さを感じるの?
ふむ? 五感の働きはお前さんと同じだよ。 俺が人の形をとっている間はな。 夏は暑いし冬は寒い。 だからウーロン茶が旨い。
人の形?
ふむ? お前さんには俺が見えているんだろう?
うん。 変な着物を着た、 銀髪の……。
ふむ、 変な着物? はははは! 神の着物に対してよくも、 変な、 などと……。
あっ! もしかしてカミさまってオバケなの? それで、 実はわたしにしか見えていない……とか?
——突然でかい声を出すな……。 ふむ、 いや。 俺の姿はお前さんだけでなく誰にでも見えているぞ。
なんだあ。 やっぱりそういうのはアニメの世界だけの話なのね……。
ふむ? アニメ?
そう、 わたしに特別な力があって見えたり、 子どもの頃だけ見えたり、 いつのまにか異世界に迷い込んでたりして……ってそういう感じ。
ふむ、 お前さんだってまだ子どもじゃないか。
わたし、 子どもじゃないです! だからわたしにはもうオバケも妖精も見えないんだわ……。
ふむ、 神である俺からしたら、 すべての人間は子どものようなものだよ。
ねえ、 カミさまって何歳なの?
ふむ、 何歳とはなんだ? 神は不老不死であるがゆえに歳をとることはないんだよ。
……っていう設定? フロウフシ?
ふむ、 設定とはなんだ? つまり神は人間の時間の外側にいるので、 老いたり死んだりすることはないということだ。
でもあなたは、 カミさまはわたしと同じ人間でしょ! だから! ……ってもう、 こんな時間! わたし行かなきゃ! カミさま、 また来ますね!
ふむ、 またな、 行ってらっしゃい!
——わたしと同じ人間……か。 ああ、 ウーロン茶がすっかりぬるま湯になってしまった。 どれ、 それでも旨いか? んん……。
——ぬまい。




