狛犬ちゃん
ねえ、 カミさま? 神社の狛犬って左右で違うんだね! わたし知らなかった!
ふむ? そうそう、 そうだ。
こっちの右の子は口が開いてるし、 逆側の子は……閉じてる!
ふむ、 狛犬の足元も違うだろう?
うん! 右の子は鞠みたいな玉を踏んでて、 逆側の子は……え! 子犬を踏んでる?!
ふむ、 それは踏んでるんじゃなくて撫でているんだよ。 お前さんがいま立っている右の狛犬が阿で、 俺の側にある左の狛犬は吽という呼び方がある。 阿吽の呼吸って言うだろう?
あうん? あう、 ん……?
ふむ、 口を開けているほうの父犬が玉を、 口を閉じているほうの母犬が子どもを、 それぞれ足元に置いているんだな。 ……別の神社ではまた違ったりもするようだが。
へええなるほどー、 アシンメトリーってやつね? あ! ねえねえカミさま? 下の石に赤い字で名前が彫ってある。
ふむ、 それはこの石像を建てた寄贈人の名だな。
三十年前なの?
ふむ、 そうだ、 だから建物と比べて狛犬はまだ綺麗だろう? この神社の入り口にある石の鳥居もこの狛犬と同じ頃に建てられたんだ。
そっかあー! だから、 鳥居の柱は石がキラキラしていて綺麗だなって思ったの! 狛犬ちゃんたちも少し苔がついてところどころ緑になっているのが綺麗ね……。 いいなあ、 わたしも偉くなったら神社に寄贈できるようになりたいな。
ふむ、 偉くならなくても神社に貢献することはできるだろう? ほれ。
うん、 あ、 それ! この前その用紙もカミさまにもらったよ。 修復費の寄付のチラシ。 ……ええと、 一口五千円からって書いてあるね。 わたしも頑張って協力するね! 修復工事のお金、 二千万円かあ……早く、 集まりますように!
ふむ、 実はもうほとんど、 集まってきているようだな。
ええ? そうなの? じゃあ、 締切になる前にわたしも一票入れなくちゃ!
ふむ! 良い心がけだ。 ……だが。
え?
ふむ、 いや、 それで、 修復工事は九月着工だったかな?
うん! 九月って書いてあります……えっ! 今年の九月なの? もう、 あと二ヶ月だ!
ふむ。 だから夏の終わりにはここは修復工事用の足場や幕で覆われることになるだろうな。 それでも参拝は、 できるかもしれんが……。
立ち入り禁止になったりするの?
ふむ、 さて。 まだ、 それはわからん。
そっかあ……じゃあ今のうちにたくさんお祈りしておかなくちゃね! 九月までにお父さんの病気が治りますように!
ふむ、 そうだな。 しかしお前さん、 祈り溜めはできんぞ? 人間の寝溜めができんようにな。
うん! それまで毎日通ってできるだけたくさんお祈りします! あっ、 わたし、 そろそろ行かなきゃ! ……ということで、 また来るね、 カミさま!
ふむ。 またな、 行ってらっしゃい!




