ふむふむ大魔神
はい! これ、 カミさまのウーロン茶! あっつ〜い! ねえ、 セミが鳴いてるねー。
ふむ、 あれは、 ニイニイゼミだな。
ニイニイゼミ? 聞いたことないかも。 ……ねえ、こんどはジージー音がしてる……わ! 近い! うるさい〜! どこかな? あ、 カミさま! こっちはミンミンゼミでしょ?! あの銀色のポールにとまってる!
ふむ、 ポール? 幟旗だな。
のぼり……? あ! 飛んだー!
ふむ、鯉のぼりの、 のぼり、 だよ。 祭り行事の時には文字を書いた大きな幟をあすこに垂らす。
あーなるほどー! ねえ、 セミたちまだ地上に出てきたばかりかな? 抜け殻あるかな?
ふむ、 なんでそんなにセミに興味津々なのだ、 お前さんは?
えへへー! だって夏しか見れないし、 そもそも虫自体、 そんなに見ることないし?
ふむ、 まあ、 他に見るものもないからな神社で、 というよりも、 お前さんが毎日のように通っているからな。
……おかしいかなわたし?
ふむ? お前さんくらいの歳では珍しいかもな。
えへへ、 やっぱりそうだよねー。 おかしいよね。
ふむ、 おかしくはないぞ、 別に、 まともでなければおかしいことに気が付きもしないだろう? お前さんにはその違いがわかる、 だから、 悩んで神社へ来たりもする。
えへへ、 じゃあ違いのわかる女かな? ねえねえカミさま? 違いのわかる女ってカッコいい?
ふむ、 まあ、 少しお馬鹿かもしれんが……。
えええ! おかしいよりおバカのほうがひどいよー!わたしやだよ、 おバカなんて!
ふはははは!
ねえー! 馬鹿っていうほうがバカなんだからー! 取り消してー!
ふむ? 取り消すより忘れてしまうほうが早いぞ。 どっちみち、無かったことにはできんのだし。
うるさいうるさいうるさーい! 取り消せー! このっ、 カミさまの……ナギのばかー! この……ふむふむ大魔神!
ふ! ふむ……ふむふむ大魔神……?
あなたは不老不死で百年も千年も生きててたくさんの思い出があるから良いよね! でもわたしの短かくてスカスカの人生にはまだ忘れるほどの思い出は詰まってないの! だからささいなこともかんたんに胸に突き刺さっちゃって抜けなくなってそのままなの! 上書きするほどたくさんの思い出もまだないの! だから、 おバカはいやなのキズつくの!……わたし、 もう行くね! さよなら!
ふ……むん、 行ってらっしゃい。
——まあ、 本当に馬鹿だったら、悩んで思い詰めて死のうとまではせんだろう、 神社に通い詰めて必死に神に祈ることもしないだろう。 それに……ふむふむ大魔神もなかなかだぞ……。