神様の名前
今日も綺麗ねここは。 見て、 雲の隙間から光の束がもれて、 降り注いでるみたい。
ふむ、 お前さんも飽きないねえ。
うん、 ぜんぶ好きなの、 ここからの眺めも、 神社の建物も。 あれ、 この石の……なんて言うんだっけ?
ふむ、 石灯籠か? 夜になると火を入れて灯を点ける。 しかし最近はほとんど使わない。
どうして使わないの?
ふむ? 単純に人が少ないからな、 ここに来る。 祭り行事などで人が集まるときには点けるよ。
そうよね……朝でさえいつもここでは誰とも会わないもの。 夜は尚のことよね。 あっ上に、 葉っぱ乗ってるよ……イチョウだ、 これはわたしも知ってる。 ねえ、 あなたまだ緑色なのにもう落ちてきちゃったの?
ふむ、 鳥に落とされたのかもしれんな。
ね、 朝の鳥の声がする。 あ! ねえ、 ホーホケキョだって! あれウグイスよね? わたしウグイスが鳴くところ初めて聞いたかも!
ふむ、 ウグイスだな。 少し遠いな。 お前さんその名前だけは知っているんだな?
だってウグイスは有名な鳥だもん。 みんな知ってるよ。 ねえ、 カミさまの名前……本名てなんて言うの?
ふむ? 俺の本名? 神の名を神に尋ねるとは畏れをしらないやつだなお前さんも。
だって知りたいもの。 ね、 教えて?
ふむ、 神の名は長いのだ。 だから覚えていない。
ええ? 自分の名前、忘れちゃったの?
ふむ。 百年も千年も生きることを想像してみろ。 たいていのことは忘れ、 むしろ、 忘れていかなければやっていけんぞ。
でも! 自分の名前でしょ? 少しは思い出せる? あ、 ねえ、 わたしの名前は知ってる?
ふむ。 勿論。
どうして知ってるの? わたし教えた?
ふむ? お前さん、 祈願の時にはいつもまず名を名乗っているではないか?
でも口に出してない……え、 出ちゃってた?
ふむ、 はて、 それに俺はお前さんが生まれる前からずっと、 お前さんの事を知っている。
うん、 だって、 神様、 だからでしょう?
ふむ? だから自称ではないと……。
もう自称だなんて言ってないし、 思ってないよ! ……うん、 そう、 少しだけしか思ってないよ。 だから神様の名前が知りたいの、 わたし。 だから、 教えて、 ね? お名前、 ハイ!
ふむ、 そうか。 では神の名を教えてやる。 いいか、 これは俺の本当の名ではない、 俺の本当の名は長くて覚えていない。 だがお前さんは俺を……なぎ、 と、 呼ぶことができる。
ナギ? ナギっていうのね? 短いじゃない、 わたしでもちゃんと覚えられるよ!
お前さんに言った通り俺の本当の名は長くて覚えていないのだ。 だから呼びたければその名を……。
うん、 わたしいいよ! だって思い出せないんでしょう? ナギって名前、 知れて嬉しい! これからはたまにナギって呼んでもいいかな? えへへ。
ふむ、 それはお前さんのご勝手だが、 さま、 を忘れるなよ?
うん、 わかりました! ナギさま! じゃあわたしそろそろ行かなきゃ、 また来ますねカミさま!……あっ、 ナギさま!
ふむ、 無理に呼ばんで良い。 またな、 行ってらっしゃい!




