パン! パパン!
パン! パパン!
パン! パパン!
神様! どうか父の病気が治りますように……。
おい! お前さん!!
はい?!
神前で、 変なリズムを叩くんじゃない!
ご、 ごめんなさい! ちょっと緊張して手が震えちゃって……わたし神社に来るのも初めてで……。
拍手は二回でいい、 ここではな。
——パン! パン! ……こうだ。
あ、 あの! すごく綺麗な神社ですね、 こんな場所が近くにあるなんて、 わたし知りませんでした。
ふむ? ……綺麗。 よく見るとな、 ボロボロだぞ? 入り口正面の鳥居はまだ新しいが、 拝殿、 特にその奥にある本殿はかなりガタがきててな。
ガタ……?
ふむ、 木が腐って支えが弱くなっているんだ。 また大きな地震が起きたら、 崩れるかもしれん。
そうなんですか?
ふむ、 見ての通りちいさな神社だろう、 予算も少ないし普段は無人だからな、 長年の月日を経て傷みが隠せないほどになっている。 ……ほれ、この鈴緒もちぎれかかっている。 紅白の紐も、 こんなに褪せてくすんでしまって。
そう! わたし、 お賽銭箱にお金を入れて、 そのヒモを引っ張ろうとしたんですけどあまりにボロボロで鈴ごと頭の上に落ちてきそうだったから、 やめました。
はははは! それは大正解。 ほら、 これを見てみろ。
……神社本殿……修復事業募金……書?
——わあー、 本当だ!
ふむ、 そこに書いてある通り、 いまお前さんが祈願した拝殿は、 今から一五六年前に建てられた、 そしてこの奥にある本殿はさらに古く、 建立から二三四年も経ってあちこち傷んでいるんだ。 特に本殿は大規模な修復が必要でな、 いま工事のための募金を募っているんだ。
——この用紙をよかったら持っていきなさい。
あ、 ありがとうございます! へえー、 募金目標額は二千円……あ! にっ、 二千万円?! 大変ですね……。 あ、 おじいさんはこの神社の人ですか?
ふむ? おじい……誰がおじいさんだ、 誰が! おにいさん!
えっ! あ! 白髪じゃなくて銀髪だったんですね、 ごめんなさいっ! チラッとしか見てなくって……。
ふむ、 それにだ、 俺はおにいさんでもなく、 神様だ。
え? ……神様?
ふむ、 お前さん、 さっき、 神様! って呼んだじゃないか、 パン! パパン! とか変なリズムを叩いたあとに、 だから出てきてやったんだよ。 ……まあいい、 それよりお前さんの父親は病気なのか?
——はい……いま、 入院しているの、 がんで。 だから、 少しでも早く良くなってほしくて。
ふむ、 なるほど、 それだけの事情ではなさそうだがな。
えっ?
ふむ、 いや、 それならこの神社は病気にも御利益があるからな、 祈願には良いぞ。
本当ですか! 御利益とかなんにも知らずに来たけど、 とっても素敵な場所だし家からも近いから、 また来てもいいですか?
ふむ、 どうぞ、 お前さんのご勝手に、 神はいつでもここにいるよ。
ありがとうございます! ……カミ、 さま?
さま? じゃなく、 神様だぞ。
え、 自称?
ふむ? 自称ではない! 正真正銘の、 神だ!
あはは! わかりました、 わたしもう行かなきゃ! この用紙、 ありがとうございました、 カミさま! また来ますねっ!
ふむ。 またな、 行ってらっしゃい!