春5
「やるな伊吹。あの数分で、よくここまでの詰みを読めたな」
「まぁ、いつもやってるのが早指しで、早読みは得意ですから」
「いやもう、得意とかそーゆーのじゃないでしょ」
「まぁ、才能だわな。それも天賦の才だ」
と、僕らの対局を横目で見ていた、柊さんと犬飼さんが賛同するように頷いた。
「ありがとうございます。集中していて、そちらの方を見ていなかったのですが結果は…あぁ」
隣で、勝敗が決したところの場面にしてあった盤面を見て、僕は結果を察した。
犬飼さんの圧勝だった。
「まぁ、そう言うことだ。お前ら、とっとと感想戦して、次の対局するぞ」
そう言って、僕らは感想戦を始めた。
ついでに、感想戦とは対局後に、開始から終局まで、またはその一部分を再現して、その時に着手の善悪や、その盤面においての最善手などを検討することである。これは、プロやアマチュア、高校生同士の時でも行うものだ。
それが終わると、僕らは次の対局へと移ったのだった。
数時間が経過して、犬飼さんが時計を見て言った。
「おい、伊吹。そろそろ買い物に行ったのほうがいいんじゃねーか」
そう言われて、僕も時計を見る。時刻は17時を過ぎていた。
「そうですね。人数が増えたので、その分調理時間もかかりますしね。そろそろ行って来ますね。うーんと、じゃー、この対局が終わったら行ってきます」
僕はそう言って、自分の荷物の整理をする。
「ごめんね、伊吹くん僕たちの分まで追加で買ってもらっちゃって。」
「いえ、全然平気ですよ」
「それで、この一手はどうする?」
そう言って、かなり痛い手を打ってきた。
「う、これは、、、うーん、こうですかね」
「んんん!?」
「おお、これまた絶妙な一手っすね」
「鋭いな。けど、自陣危なくないか?」
「多分大丈夫です。多分」
と僕は自信なさそうに言った。
「こう取って、ここで切って持ち駒は、、、」
と今の僕の対戦相手の柊さんはボツボツと呟きながら考えている。
僕は隣の盤面を見た。
今は、葉書さんと犬飼さんが対局している。形勢は…
見た感じ、犬飼さんが優勢だった。
それを見ていたら、、、、柊さんが、
「よし、多分だけど、これでいけるっす」と僕に聞こえはするがそれなりに小さな声で言って、さしてきた。
僕は、その一手を見て考える。形勢は、大劣勢。持ち駒も歩しかなく、相手陣地に送り込んである駒も少ないこれは、、、
「うーん、厳しいですね。負けました。」
投了した。
「よっし、危なかった。本当に危なかったっす。ふー」
と、柊さんが言った。それを聞いた犬飼さんが、
「おいおい、たしかに伊吹は強いけど、実戦で戦っているプロ棋士がまだプロじゃない、奨励会員に負けるなよ」
「ま、負けませんよ。五回に三回くらいは負ける自信ありますが、、、」
「犬飼さん、俺に刺さってます…」と、葉書さんが呟いた。
その感想戦が終わらせて、僕は将棋会館を出た。そして、家の近くのスーパーに向かった。
「えっと、、、今日の人数は、僕と師匠、犬飼さん、柊さん、葉書さんの5人だから…」
そんなことを考えていた時、ピコーン。と僕のスマホにLINEが入った。内容は、
氷泉:今日家、行っていい?
と言うものだった。
ここで言う、家とは多分、師匠の家だろう。師匠の家には、彼女も何度も来ているので、別に来ても良いだろうが、今日は、他にも3人ほど来ることになっているので、一応そのことを説明する。
伊吹:全然良いけど。今日は、他にも3人くらい来る予定なんだ。それでも良い?
返信はすぐに来た。
氷泉:別に、構わない。今日のご飯は何?
伊吹:今日は、肉じゃがだよ。
氷泉:わかった。今から、そっちに向かうね。
と、ここでLINEで会話を一旦終了した、一応師匠にも
伊吹:今日夜見も晩御飯食べに来るそうです。
と、メッセージを入れておいた。
「ふー、これで六人分になったか」
そう呟きながら、僕は買うものをカゴに入れ、それをレジの方に持っていった。
買い物が終わり、家に着くと時刻は18時を過ぎていた。
多分師匠が今日の対局を終えて帰ってくるのは、20時。それと一緒に犬飼さん達もくるだろうから、それまでに、作らねば。そんなことを意気込んでいると。
呼び鈴が鳴った。そのまま、ドアの方にかけていくと、そこには黒髪で美しく輝いているロングの女の子が立っていた。
「やぁ。どうぞ」
そう、この子が史上初の女性プロ棋士にして、叡王のタイトルを持っている、タイトルホルダー。
そして、僕の初恋の人だ。
そう、僕が言ったことに対して彼女は、
「うん、お邪魔する」
と言って入ってきた。
肉じゃが食べたい