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春2

あっという間に、体育館での入学式が終わり、僕は新担任に連れられホームルーム教室へと向かっていった。この時、保護者兼師匠は、もうすぐ自分の対局が始まるからと、もう家に帰っていた。まぁ、対局もう時間がないから仕方ないんだけど。


「えー、俺が今年お前たちを持つ担任の谷王子だ。よろしく頼む。では、まず1人ずつ、自己紹介をしていってくれ」と先生が、簡単な自己紹介と、今から行うことを言った。この時の僕は思った。


きた。この入学早々自己紹介をするやつ。これによって今後のクラス及び高校生活での立ち位置が決定すると言っても過言ではない。この自己紹介を、ネタに走るものもいれば、まじめに言う奴もいるだろう。もちろん僕は、、、


「次、」

「はい。はじめまして、伊吹琥珀です。特技は将棋です。一年間よろしくお願いします。」


普通に、真面目キャラで通した。さてクラスの反応は、、、「将棋?」、「あー将棋ね。老人かよ」「まぁ、真面目そうな子だしね。」所々で、否定的な意見が出ている。まぁ、僕は気にしない。気にしないったら気にしない!



そのあと何人かは、話しかけてきてくれた。これで、クラスでぼっちは回避できるだろう。

「これで、今日は解散だ。明日も半日授業だからな」

そう言って、SHRは終わった。









その日は半日だったので、急いで将棋会館へと向かった。

「こんにちは。師匠の対局はもう始まってますか?」

僕は挨拶しながら、対局室の扉近くにいた人に話しかけた。


「ん?おー伊吹くんか。つい数分前にね。そういえば伊吹くん。今日から、高校生になったんだよね。入学おめでとう。」

そう話してくれたのは、犬飼七段。師匠との関係つながりで、仲良くさせてもらってる先輩だ。


たまに、将棋の勉強会である、研究会に僕も参加させてもらってる。とても気さくな方で、器も大きく、優しい先輩だ。


「ありがとうございます。戦型の方はどんな感じに、、、あー、角換わり模様ですか」

「うん、そうだよ。左鍋九段が得意な戦法に持ち込んだんだよ。これは面白くなりそうだね」


角換わりとは、将棋において、もっとも激しい戦いの一つだ。この戦法は、序盤に自分の角と相手の角を交換して、お互いに打ち込める角を持って、戦うと言うものだ。この角をどのように使うかによって、今後につながってくる。


そんなことを考えていると、

「あれ今日は?対局じゃないの?今どんな感じ?」

「今日は違います。大きなものとしては、来週からですね。三段リーグの予選は」


「そうかそうか、あんなに弱かったお前も、とうとうそこまで来たのか。これは、お前と実戦で戦う日も近いなぁ」

「流石に、まだ早いですよ」


そう茶化しあいながら、話していると、

「お前ら、対局室の前で騒ぐなや」

と、先ほどまで、すぐそこで対局していた、師匠がやってきていた。


「そんな騒いでませんよ。左鍋九段。他の人に迷惑をかけることはしてないです」

「まぁ、せめてもう少し声の音量下げてくれよ。じゃねーと集中がキレちまう。おい、琥珀。例のやつ持ってきたか?」

「あ、はい。こちらですね」


そう言って、師匠にあるものを渡す。

「おー、これこれ。これがあれば、今日も勝てる。ありがとな」

「…それなんですか?」


「これはなー、今日のラッキーアイテムだー。ガッハッハー」

「へ、へー。」

犬飼六段は、やや苦笑いだ。持っていたのはウサギのぬいぐるみだ。


僕の師匠は今年でもう五十路だ。そんなおじさんが、うさぎのぬいぐるみを持って笑っている。

なんと不気味な光景なのだろうか。これは、いつも師匠が見ている、ギャルかわJK占いという、師匠がはまっているweb上の占いに書かれているものだ。


僕はその今にも吐き出しそうな言葉を飲み込んで、別のことを師匠に言う。

「今日の夜ご飯は、肉じゃがにしようと思っているので、楽しみにしといてくださいね。」


「おう、楽しみにしとく」

そう言って、師匠はウサギのぬいぐるみを持ってお手洗いの方に向かった。


「今日、肉じゃがなのか。俺も行っていい?」

「構いませんよ」

「よっし。。。そーいえば、お前まだここ残るか?」


「そうですね。新しい棋譜とかもらいたいですし」

「そっかそっか。じゃー、一緒に行くか」

そんな会話しながら僕らは、その対局室を後にした。



次に向かった場所は、共有スペース。ここでは沢山の将棋本や、先人たちの棋譜がある。ここで、将棋の勉強をする人が多いのだ。大体の人は、ここで見た棋譜を並べたりして、議論したりする。

ふと、話し声が聞こえた。


「やっぱり、ここでは6二銀打が最善手だったんだよ」

「やっぱりそーだったのか。見えねーっすよ。そんな手ー」

「そこはなぁー、、、頑張るしかない」


「お前ら、今日も来てたのか」

そうして近づいて行った先は、葉書五段と柊六段ところで、なにやら昨日の対局の検討中のところだったようだ。


そこに、犬飼さんも混ざる。

「昨日のか、柊、お前昨日は氷泉叡王との対局だったんだよな」

「あー、犬飼さん。お疲れ様っす。伊吹くんもこんにちはっす。そうっすよ、彼女めちゃくちゃ強かったっす」


僕は小声で「どうも」と返答する。

「まぁ、初の女性プロ棋士で高校生だからって、伊達にタイトルホルダー、それも叡王じゃねーしな」

「犬飼さんは、対局したことあるんですか?」

「いーや、俺はまだないよ。だから、どんな感じかわからないんだよなぁ。」


「ただただ、強いっすよ彼女。あの人止められる人なんて、今の将棋界で何人いるんすかね?」

「うーん、今の竜王と名人、それからこいつくらいじゃねーか?」


そう言って、指を刺されたのは僕だった。

「とりあえず、彼女はもう高校生じゃないですよ」

そう僕は、言った。

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