高校1年 春1
よろしくお願いします。
小学生の頃、僕は彼女が好きだった。それは3つ上の先輩だった。当時の僕はこの人と結婚したいと思った。その人との約束。
「僕と結婚を前提にお付き合いしてください!」
その彼女の名は、氷泉夜見。彼女とは、小さい頃からの幼馴染で、小学生くらいの時は明るく、元気一杯の少女だった。よく一緒に遊んでもらったし、仲良くしてもらった。
しかし、彼女が中学生になった時、あることが原因でその元気を失い、前とは正反対な寡黙な少女になった。そこから進化して、それが今では大和撫子と称されるほど、美人でお淑やかな感じに変わった。
「ん?何言ってるの?」
彼女からの返答はそれだった。僕は怖気付くことなく続ける。
「前から、ずっとずっと好きだったんです。お願いします」
「…なんでこのタイミング?」
「先輩が、、、と離れちゃうと思って…」
「あー、なるほど。…じゃあ、追いかけてきてよ。私のところまで」
僕はここで、一瞬考えたが、すぐに決断した。
「…わかりました。必ず追いつきます!」
「うん、待ってるよ」
そこで彼女とは別れた。僕はとある時を思い出す。それは、1年前の記憶。。。。
彼女は、先ほども述べたがとてもお淑やで、清楚な女性だ。頭脳明晰、スポーツも器用にこなす、正しく、普遍人だ。そして、それ以外にも普通の人とはかけ離れた能力を持っている。
それは、、、
「史上初めての女性プロ棋士、氷泉夜見。なんと、17歳3ヶ月で、女性初の八大タイトルの一つを獲得しました!」
記者の声がテレビから流れる。これは、僕が見ていた番組のものだ。そう、彼女は何を隠そう、、、将棋のプロなのだ。。。それも史上初めての女性棋士。
「おめでとうございます。それでは初女性タイトルホルダーとして、何か一言お願いします」
「…とても嬉しい」
「…それだけですか?」
「うん、一言」
「は、はぁ…」
記者は戸惑いの表情を隠せない。この後この記者は、「緊張していて表現がうまくできないということですね」と言っていたがそれは間違いだ。
僕にはわかった。それは、彼女を小さい時から見てきたから。その彼女が今とても喜んでいると言うことに、多分この世界で僕だけが気づいたのだ。この瞬間、僕はとても彼女が美しく見えた。彼女自体にも、その彼女が執いた棋譜にも。
僕は生まれて初めて、何か欲しいものが生まれたと思った瞬間であった。
ピピピピピピピッ
目覚まし時計の音が部屋全体に響き渡る。
「んん。もう朝か」
そう呟き、僕は布団から出る。
「あれは、、、っそうか…」
どうやら、僕は夢の中で過去の夢を見て、さらにその過去の夢の中で過去のことを思い出していたようだ。
そんな僕の名前は、伊吹 琥珀。
将棋のプロの卵である、奨励会員にして、今日から高校一年生。
この物語は、僕が彼女に追いつき追い越すための物語だ。
僕は、将棋の中級者である。初めて将棋盤に触れたのは、、、10年前くらいかな。その時には何も感じなかったが、後々自分の運命を変えるような出来事があり、将棋を本格的に学ぶようになった。
そういえば、そこで彼女と初めてあったのもちょうど同じ10年前くらいかな。
彼女は最初から強かったけど、世間はそんなことを知らなかっただろう。本格的に彼女に目をつけたのは、彼女がタイトルホルダーになってからだろう。
全く、世間は見る目がないのだから…そんなことを考えていたら、
「琥珀、お前今日から高校生だろ?早く支度をしなさい。」
この優しい声は、僕の師匠である左鍋九段だ。僕はこの左鍋九段のもとで、暮らしている。
僕とこの左鍋九段とは、遠い親戚であり、僕はその弟子である。この人は、将棋界では『盤上の魔法使い』と呼ばれている。
なぜ僕がこの人と一緒に暮らしているかと言うと、まぁ、プロ棋士になりたいと思って弟子入りしたのがこの人であっただけである。ただそれだけさ。まぁ、今ではこの人が親代わりで入学式や保護者面談などに対応してくれている。
あー、別に両親が他界したとか、そんなような重い話とかは無く、ただ仕事の関係上、まったく日本にもいないので、師匠が代わりにやってくれているだけだ。
「琥珀ー、本当に準備できたんだろうなぁー。。。あ?」
「もちろんです。行きましょう」
「あぁ」
さーて、輝かしき高校生活の始まりだ。