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【長屋小噺】 三分間のメロンソーダ  作者: 長屋ゆう
◇第二部 第三章
88/172

その11 二十数年後

【真打ち】になってから二十年以上経ちましたね。


結婚もして子供達も育った。



いや~、

皆さん、拍手をありがとうございます。



でね、

当時、

どうして私が【真打ち】の時にね、

【大吉甘栗】の噺をしたか分かります?



私の一族はね、

大吉を継ぐと決めたらね、

父が初代大吉の噺を演じた姿を見るんです。



こう、

私の父もね、

私にね、

演じてみせるんですよ。



それが始まりなんです。



それからね、


自分の道を、


自分の噺を模作するんです。


私は六歳の頃ですかね…



歴代の大吉は【真打ち】になる時は、

【完全犯罪】をするのが決まりなんです。



でもね、

才能がないから出来ませんよ。



え?

十三代目?

父、【宇刻】の天才ぶり?



え?

知りませんよ。

無理ですって。

父を越えるなんて無理ですよ。



だってね、

私には父のような才能なんてないんですから。



でもね。

ある日ね、

ふと、

思ったんですよ。



もしね、

初代大吉がね、

この日、

この時、

皆さんの前に出てきたら、

どんな噺をするのかねって…

それでこの噺を作った。



だから私は初代様を演じる事にした。

初代様になりきった。



でね、

私はこれで十四代目になった。





ただ、

この【大吉秋栗】はね、

これは私と妻との噺なんですよ。





私の妻、

【秋子】は和菓子屋の娘でね。


女の和菓子職人なんですよ。


えぇ、今でも【大吉秋栗】を作って売っていますよ。



私は和菓子屋の店先で妻に惚れた。



でね。

私は妻にね、

この噺を作ったんですよ。

【一生一品】のつもりでね。



そして妻にね、

告白する時にね、

店先でね、妻にこの噺をした。



そして妻がね【大吉秋栗】を作った。



皆がね、

【大吉秋栗】をね、

眺めながらね、

色んな方向から眺めながらね、

不安な顔をしてね、

疑いながら食べるんですよ。



ようはね、

妻が作った【大吉秋栗】の出来をね、

隅々まで眺めて欲しかっただけなんですよ。


ただそれだけ。



でもどうです?

これだけね、

疑い深くて、

食べる前に悩み、

そして食べて安心する和菓子はないですよ。



結婚して時が経ちましたけど…

ええ、

渋い栗なんて一切入っていませんよ。



これがね…

私の完全犯罪…


今日、この場で種明かしです。



皆、

噺を信じてね、

和菓子を注意深く眺めて、

恐る恐る食べて、

安心する。



どうです?

参りましたか?





ふふふふふ~。





え?

自白した?

完全犯罪じゃないって?



白状したって?




いや~

ありがとうございます。

表彰状を頂けるんですか?






あの…


皆さん、難しすぎました?





そう、

ここが最後の笑いどころ…





どうです?




やっぱり私は…




宇刻の息子でしょ?




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