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【長屋小噺】 三分間のメロンソーダ  作者: 長屋ゆう
◇第二部 第三章
79/172

その2 涙四粒②

え~、

それでは改めまして、

第十四代、

染谷大吉。


染谷光陰【そめや・こういん】でごさいます。


え~、

初代から古典落語を一切しない一族です。



皆さん笑いすぎですから。



しっかしね、

命は繋ぐものと申しますがね、


歴代で、

どの大吉が一番天才だったと思います?


誰が一番笑いを生み出したのか。



もちろん一番は初代様ですかね。


苦労したのは二代目様?


でもね、

いや、二代目様のネタ帳を見るとね、

ネタが踊るんですよね。


言葉が躍る。


家宝のネタ帳を見るとね、

お客の笑顔が浮かんでくるんですよ。


自由な親の背中を見ていたんですかね。



でね、

歴代で二番目の天才はね、

私の父ですよ。


戦後の大吉、

第十三代、染谷大吉。

染谷宇刻【そめや・うこく】ですな。



皆さん、拍手をありがとうございます。



そうですね、

本名は染谷宇刻【そめや・うこく】です。



いっつもね、ニコニコ笑っていましてね。


でしょ?

ご隠居達の皆さん達。


そうですよね、

いつも笑ってた。



私もね、

子供の頃からね、

寄席の楽屋にいてね、

それから袖で父親の姿を見ていましたよ。



父はね、

いつもあんなに笑顔なのにね、

何とね、

噺の前にね、

楽屋で頭を抱えて震えているんですよ。



大の大人がね、

【真打ち】がね、

楽屋で頭を抱えて震えているんですよ。



黙ってね、

尋常じゃないくらいね、

部屋の隅でね…

震えているんです。



私はね、

世継ぎながらね、

父の震える背中を見てね、

とんでもない家に産まれてしまったと思いましたよ。



そこからね、

噺が終わってね、

舞台の袖でね、

六歳だったかな、

父がね、

ふとね、

私の前でしゃがんでね、

私の目線の高さになってね、

私の肩をつかんでね、

まっすぐな瞳でね、


こう言ったんです。



【絶望のどん底からしかな、

こういう噺は産まれないんだよ】

ってね。



震えましたよ…



分かりませんよ…

恐怖でもなく…

歓喜でもなく…


でもね…

そこには間違いなく私の父がいた。



あの目、

あの日、

あの時、

私はうなずいたんです。


瞳から、

熱い物が流れましね。


よく分かりませんが、

涙鼻水たらしながらね、

こう言ったんです。



【ボクが継ぎます】ってね。





ええ、

そこでね、

私は十四代目になろうと決意したんです。




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