その7 初代大吉⑦
え?
大吉?
あの干物かい?
いゃあね、
二番目の息子ってのは、
あんなにすんなり産まれるのかとね、
驚いてしまったよ。
◆
長男の時は大変だったよ。
産まれる時の痛さっていったらね、
痛くて痛くてね、
【はやく出てこい!】ってね。
お腹に叫んだもんだよ。
◆
皆、笑うよ、この噺をするとさ。
◆
しっかしね、本当に長男は大変だったよ。
夜泣きが酷くてね、
ほぼ一日中泣いてる。
私はね、
ほとんど寝てなかったね。
◆
まあね、
今思うと…
いい声で泣いていたよ。
◆
でね、
逆に大吉はね、こうスルッと産まれた。
産まれてから少し泣いてね…
それからが大変だったよ。
◆
ずっと寝てるんだよ。
一切泣かないんだよ。
◆
夜泣きもなし、
ふとね、おっぱいあげそれでおしまい。
◆
本当にね、
泣かずに寝てるんだよ。
◆
時々ね、死んでるじゃないかって心配になったよ。
◆
皆、嘘だろ?って笑うんだよ。
◆
でもね、本当に寝てた。
◆
まぁ、子供ってのはね、
そういうもんだよ。
◆
でね、
大人になってね、
真打ちになった大吉にね、
この噺をしたらね、
【アッシは人を笑顔にする為に生まれてきたんだから、しょうがないよ】って言うんですよ。
誇らしげにね…
◆
【あんたが生むのは苦笑いだろ?】って言ったらね?
◆
なんて言ったと思います?
◆
【おっかさん、あんたの次男は口だけで生きてる。医者にでもなれたのに、苦い子だろ】ってね。
◆
【でもね…】って。
◆
【ウチは貧乏だったから、おっかさんの顔はいつも苦い顔をしていたじゃないか】ってね。
【そりゃあさ、おっぱいはいつも苦かったよ】ってね。
【兄さんは母乳が苦くてノドを痛めて、あの声に…】
【私は苦く笑う噺しかしなくなった…】
◆
【よく育てたよ…】ってね。
◆
誉めているのか、
けなしているのか…
まあね…
とりあえず…
石を投げてやりましたよ。