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その6 初代大吉⑥
小僧がね、
こんな小さな小僧がね、
ウチの焼き鳥屋の前にいるんですよ。
気が付いたらね。
こうね、
眉間にシワを寄せてね、
ウチの焼き鳥を見てる。
変な子でしたよ。
急にいたからね、
私もビックリしてしまってね、
思わず串を落としてしまいましたよ。
それからね、
その子はね、
友達と一緒にね、
ウチの焼き鳥を買いにくるようになった。
◆
でね、
近所の孫六が言うんですよ。
【美味いのかい?】って。
そしたらね、
大吉がね、
首を振ってね、
うつむいたまま、
【ここの店主の顔がいい】とか言うんですよ。
◆
ハッとしましたよ。
妻がね…妊娠してたんですよ。
◆
【よく分からない】って京子ちゃんがね。
ええ、
呉服屋の娘さんですよ。
◆
それからあの三人がね、
ウチの屋台の前でね、
焼き鳥を喰らうんですよ。
一心不乱に喰らうんですよ。
◆
大人も驚きますよ。
いや~、
儲かりますよ、そりゃあ。
◆
ウチはね、
寄席でね、
大吉さんに宣伝されていないんですよ。
◆
昨日も大吉さんがね、
ウチの店先で怖い顔して食べてますからね。
◆
ええ、
宣伝しなくてもいいんですよ。