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その5 初代大吉⑤
え?
弟?
大吉?
◆
大吉はさ、
子供の頃、
よく鼻くそほじってたな~
◆
ね、この噺をすると皆が笑うんですよ。
◆
私は役者でしてね、
芝居小屋で芝居をするんですよ。
時には地方にも呼ばれましてね。
◆
そもそもね、
大吉がね、
子供の頃にね、
兄ちゃんの声がいい。
立ち姿がいいってね、言うんですよ。
八歳位の頃かな、
急にね、
私の顔をマジマジと見て言うんですよ。
【不細工なのは仕方がないが化粧をすれば何とかなる】ってね。
【でも、声と立ち振舞いは化粧できない】ってね。
よく、子供の頃にね、私は義経様とか演じてましたからね。
◆
それからですかね、
芝居の門を叩いたのは。
◆
ここでね、貧乏農家の長男が、役者になってしまったんですよ。
ええ、
大吉はね、
今でもウチの芝居を見に来ますよ。
もうね、
何となく分かる。
弟が来てるってね。
◆
だって、客席の空気が悪いんですから。
◆
ね?
この噺をすると皆が笑う。
◆
だからね、私は言うんですよ。
【客席に弟の大吉がいるぞ!】ってね。
【つまみ出せ!】ってね。
◆
そこで皆が笑うんです。
◆
ああいうのをね、鵺【ぬえ】って言うのかな。
◆
ええ、
兄弟ってのはいいもんですよ。